相対な君と

@gomi653

一目惚れした俺と

第一話 一目惚れした俺と

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「おはよ、慶奈」

「んー、はよ」


後ろから聞こえた声に、気だるそうな声で挨拶を返す。

「どうした、元気ないな」

隣に並んだ友である男は慶奈と呼ばれた男の顔を見てそう言う。


「いやー..最近面白いことなくてつまんなくて」

「何か悩み事かと思ったらそんなことかよ」

「俺にとっては死活問題なの!あー!学校行くの面倒くせー!!」


どうかしたのか、という問いかけに対して返って来た「暇!」という答えに隣の男は「心配しかけて損した」と呆れ顔。

そんな男の反応に「しかけかよ!まだしてないのかよ!」とツッコミが入り、騒ぐ男をよそに呆れていた男は煩いと眉を寄せた。




ぶつくさと文句を垂れながら登校しているの男の名は佐古 慶奈(サコ ケイナ)

偏差値は低いながらもお喋りで気さくな為友達の多い少年だ。

そして、そんな彼に対して呆れた顔を浮かべているのは佐古の一番の友人である佐藤 桃夜(サトウ トウヤ)

いつも勝手な佐古に振り回されながらも着いて来てくれるちょっぴりおせっかいな世話焼きの少年。


二人の仲がいい事は校内でも有名であった。



二人はいつものようにふざけながらいつもより人が多く賑やかな道を歩く。

服に着せられているような少し大きめの綺麗な制服の浮かれ気味な学生らが目立つ。


そんな二人が登校する今日は、新入生が入学してくる春風の舞う入学式の日だった。




「あーあ、学校がずっと春休みだったらいいのに」

「お前、なんで受験したんだよ」

「え?出会いを求めて?」

「学生の本分、忘れんな」

「本分?...なんだっけ?」


はて、と本気で首を傾げる慶奈に桃夜は呆れた口調で「お前の頭の中は年中お休みだな」と言い放つ。

常に思考停止してるし、と付けたせば慶奈は酷いと言いまた騒ぎ出した。

「ちょ、トウトウ酷っ!」

「その呼び方はやめろ、バカ」

騒ぐ慶奈の頭をどつき、桃夜は痛そうにしゃがみこんでは頭を抱えている慶奈を置いてスタスタと先を行った。

ちなみにトウトウというのは慶奈が勝手に付けた桃夜のあだ名だ。


「あっ、ちょ、ちょっと待ってよ桃ー!!!」


待ってと叫びながら立ち上がった慶奈は慌てて後を追う。モモ、とまた違ったあだ名を呼んで。

しかし、タタタッと駆け出した慶奈の足は、追いかけていた桃夜の元にたどり着く前に、急に止まる。というか、止まらされた。


ドン、と鈍い音がなって、二人分の体重が地面に落ちる。

身体への衝撃に慶奈は痛いと摩りながら声を漏らす。

目の前には、同じような動作をしていた少年が見えた。

いきなり走り出したから周りがみえていなかったのだろう。走り出した途端に視界に入ってきた黒に慶奈は止まれずにぶつかった。目にはいったのは自分よりもちょっと小柄な少年。

慶奈から「うわっ」と焦った声がでた。


「ご、ごめん!大丈夫!?怪我してない!?」

「............問題ない」


慌てて手を差し出す慶奈。

ぶつかった少年は、背が高く体格もいい慶奈とは一回り近く華奢で、ちょっとした衝撃で今にも折れてしいそうなほどに細い少年であった。ぶつかったのが体の弱そうな見た目の少年であるということに、やばいやばいと慶奈はさらに焦りを募らつつ、怪我はない?と手を掴んで起き上がろうとする少年に聞く。

貧弱で気弱そうな見た目のわりに、俺に怯えた様子はない無愛想な顔。

焦る慶奈とは裏腹に、冷静な少年の口から返ってきたのは「問題ない」というそのたった一言だけだった。


なんというか、冷たい反応だ。



「えっ、あ、そう?...それならいいんだけど..」


予想と反した態度に、慶奈は素っ頓狂な声を出し、呆然とする。

拍子抜け、というかなんというか、あんなにも焦っていた自分がバカみたいで、

少年から返ってきたあまりにも淡白な答えに、焦っていたことすらなんだかどうでもよくなり、慶奈はただ困ったように眉を下げる。

呆気に取られ、困惑した顔をしている慶奈の手をとって立ち上がると、少年はそのまま問題ないの一言だけでスタスタと歩き出して行ってしまった。

一人残された慶奈はボーッと少年の背中を目で追いかける。


「あの子......新入生かな」


綺麗にキチッと着こなされた制服は、まだ真新しかった。

少年の後ろ姿を見ながら、慶奈は後から思う。


可愛かったな、と。


無愛想だし前髪で顔もよく見えなかったが、何故か慶奈はそう思った。

黒い髪に白い肌。見た目はどこにでもいるような地味な少年だ。普段なら気にされるような存在じゃない。

しかし、どうやら慶奈には''地味な少年''ではなくもっと他の見え方をしていたらしい。


少年が校舎の中に入り見えなくなっても、慶奈の頭の中は彼の事でいっぱいだった。



慶奈ー!遅刻すんぞ、何やってんだー!


余韻に浸っていると、遠くから友人が名前を呼ぶ声が聞こえてきて、ハッとした慶奈は、頭の片隅で未だ先ほどの彼の事を考えながら、学校へ行く途中だったのを思い出し、慌てて桃夜の元に向かうのであった。






「また会いたいなあ......つか、名前、聞けば良かった..」

「は?なんか言ったか?」

「いや、学校最高だなって」

「はあ?...わけ分からん」


さっきまで元気なかったくせに、あの短時間で何の変化があったんだよ。

桃夜は嬉しそうに一人で笑う慶奈に、まあいつものことだが、と呆れてため息をついた。

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