一目惚れした俺と3

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「さっき、慶奈...てっいうのはあのぶつかった馬鹿の名前なんだけど。あいつ、君のことこの前のとか叫んでたけど...もしかして慶奈とどっかであったことある?なんか君見て嬉しそうにしてたし、知り合いなのかなって思ったんだけど」

「......入学式の日に、後ろから激突された。ただ、それだけ..のはず、です」

「ああ、さっき二回もぶつかったって言ってたのはそう言う意味か.........そっか、何度も迷惑かけたみたいでほんとごめんね。足、大したことなかったみたいだから良かったけど、打ち所悪かったら大変なことになってたかもだし」

「いや、そんな大袈裟なことでも..」

「現に足は捻ってるし、大袈裟にもなるよ。君は気にしてないかもしれないけどね」


先生に軽く見てもらったところ、捻ってる程度で安静にしとけば大丈夫とのことだった。

保健室のベッドの上に座っている来栖に、桃夜はごめんね、と何度目かの謝罪を口にする。

さっき騒いでいた慶奈のことを気になって聞いてみたら、前にも同じような目にあっていたと聞かされ、あの馬鹿と怒りを通り越して呆れて目眩をしそうになった。しかし「君はこの前の!」という台詞より気がかりなのは「君に会いたかったんだ」と言い出した慶奈のあの態度だ。

嬉しそうに来栖のことを見て声を上げていた慶奈......ただ以前にぶつかったことのあるだけの少年との再会をそこまで喜ぶか?もう一度会って謝りたかったからとか言うならまだ分かるが、話す内容からそれが目的でないのは一目で分かった。

なら、何故?

あの態度は好きな子を見つけて喜ぶ奴のものと似ていた。

でも、慶奈の喜んだ相手は男で、特に女の子のように可憐な容姿をしているわけでない。所謂真面目くんと呼ばれる部類の少年だった。


全て分かっていた、分かりあっていたあいつの事が、わからない。


そういえば、あいつの様子がおかしくなったのも、入学式の朝を過ぎたあたりの頃だった。


まさか?

いや、そんなはずはない。

ありえないだろう。



あの、恋愛のれの字も知らないようなあの慶奈が、

あのいつまでもガキのままでいる慶奈が、




まさか、

こんな真面目そうな少年に



恋をしてしまっているなんて。




「初恋が男とか..」

「......??」

「......気にするな、こっちの話だ」

「え?...あ...........それより、先輩......は、教室に戻らなくていいんですか..授業始まってますよね。俺のことなんか気にせず戻っても...構いませんよ。俺のせいで...授業受けられなくなる、なんて、嫌なんで」

「え?ああ、いいよいいよ、気にしなくても。先生には伝えてあるはずだし、大丈夫だから。てか、むしろ入学したばかりにこっちこそ授業出れなくしちゃって...もしそれでついてけなくなっちゃったりしたらごめん」

「......先輩..は、悪くない..ですよ」

「そうだね、悪いのは全部あの馬鹿だ」

「あ、いや..」

「いいよ、あいつなんか、に気を使わなくて。俺にも気張らなくていいし、もっと気抜きな。敬語も、無理してまで使う必要ないから」

「............」



危ない危ない。声に出てたか。

俺がいきなり口にした言葉に小首を傾げて、来栖はぽかんと口を開けていた。


うーん、確かに、

可愛げというか、愛嬌はあるかもしれない。

ちょっと思ってたより真面目というよりは寡黙というか、暗いといった言葉の方があってる感じだけど、

表情がない割には動きは多くて、


小首を傾げて見せたり、

怯えて身体を震わせていたり、

困り顔で、恐る恐る喋ったり、

敬語を無理してまで喋ったり、


なんていうか小動物のような可愛さというか、ギャップがあって、

可愛いかも、と思うのは分からなくもない。


嫌なんで、と俺が授業を自分のせいでサボるハメになったと気にしたのか、申し訳なさそうに俯いていた時は可愛いというか愛でたいと思いかけたりもした。世話を焼きたくなる感じのコだ。普通に可愛い子ではある。




だが、


どこからどー見ても、


男だ。

恋愛対象にはならない。





よりによって男。しかも、慶奈とは正反対なタイプの。


ないな。

というか、ダメだこれ。絶対これ実らないわ。


「そうだね...君も俺が居たらゆっくり休めないだろうし、そろそろ行こっかな」

「別に、追い出したくていったわけじゃ..」

「それは分かってるよ、でも休めないのは事実でしょ?」

「...え、あ......い、いえ..」


ちょっと意地悪だったかな...口数は少ないけど、率直なまでに素直なコだ。不器用なんだろうな、ちょっとしたことまで真に受けて、また俯いてしまった。

やはり、慶奈には悪いが、この子はいい子過ぎて慶奈とは不釣り合いだ。

お喋りな馬鹿とちょっと無愛想で寡黙な後輩。

付き合って行けるとは思わないし、振られるのがオチだなと桃夜は慰めの言葉を今から考え、その容易に想像出来る結末に頭を悩ませていた。

帰ったら、煩くなりそうだな。


「えーと、来栖くん..だっけ?」

「あ....はい」

「足、まだ痛むようなら今日はそのまま帰った方がいいよ。先生には言っとくし、ひねっただけだからって無理して運動したりすると骨にヒビ入ったりするからね」

「いえ...もうそんな痛くはないので、大丈夫です」

「そう......分かった、じゃあそう伝えとく。俺は先生に話しあるから先に戻るけど、君はまだゆっくりしてていいからね」

「......はい、そうします」

「じゃ、先生!あと宜しくお願いします」


君と居るのが嫌な訳じゃないと伝えて保険医に彼の事を任せ、はーいと言う軽い返事を聞いてから、来栖の頭をそっと撫で、桃夜は保健室を後にする。

さも当然のように頭に触れられ、保健室へと残された来栖は桃夜の背中を見つめながら呆然と口を開けていた。

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