終 章 いってきます

 始業式の今日ぐらいはと、お母さんは午前中のお休みをもらったらしくて。


 ごはんと味噌汁と、目玉焼きとサラダと、あとソーセージとか、ついでに昨日の残りの煮物とか。


 僕のためだけに作ってくれたごはんを食べ終わろうとしたところで、玄関の呼び鈴が鳴るのが聞こえた。


 お母さんが玄関を覗きに行った。


「和広」

 そして、僕を呼ぶ。


「友達が迎えに来てるわよ」

「えっ」


 今日は始業式だけだから、教科書とかもないし、夏休みの宿題はもうランドセルに入れ終わっている。


 ランドセルを片手で持って、玄関に行くと。


「お兄さん」


 そこに待っていたのは、真理恵ちゃんとオアシスちゃんの姿だった。


「……今日は一緒に、行きませんか」


 真理恵ちゃんが、ちょっと尻込みするようにたどたどしく言って。


「女の子二人と登校しませんか」


 オアシスちゃんが柄にもないことを言ってから、ちょっと恥ずかしそうな顔をして。


「うん。……分かった」


 ちょっと待って、と言ってもう一度お母さんのところに戻る。


「忘れものはない?」

 お母さんが言った。


「大丈夫。ハンカチもちり紙も持った」

 お尻のポケットをぽんと叩く。


「よし」


 運動靴を履いて。

 ランドセルを背負って。


「じゃあ、行こうか」


 僕が言うと、真理恵ちゃんとオアシスちゃんが頷いた。


 玄関のドアを踏み出すと、明るい光が僕を照らす。


 まだまだ暑いけど、でもほんの少しだけ落ち着いて、夏が終わって秋が近づいているような気がして。


 うるさいくらい鳴いていた蝉の声が、一瞬止まって、しんと静まった。


 玄関のお母さんが言った。


「いってらっしゃい」


 だから僕は、今日ぐらいはとても元気な声で、言うんだ。


「……いってきます!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

My Little Sister~君がいないはずの夏休み~ 雪村悠佳 @yukimura_haruka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ