柄にでもないこと

日が暮れた空の下、仕事を終えたおみは家へと帰る道を歩いていた。

この時間になると、ぐみはもう帰っているはずで夕飯の支度もしている頃だろう。空腹を訴える体に歩幅も大きくなる。


足早に歩くおみの視界に、不意にカレーという文字が入ってきた。カレー専門店か。心なしかいい匂いがやってくるような気さえしてきて、空腹にとどめを刺す。


こんなの、カレーが食べたくなってきてしまうではないか。

今日の夕食は何だろう。もう作り始めている頃だろうから変更は難しいな。でもやっぱり食べたい。

そんな葛藤をしつつ、店からもれる光から逃げるように足を動かした。


「ただいま」

「おかえりー」


ようやく家へとたどり着き、鍵を開けて声をかければ、ぐみがひょこっと顔を出す。靴を脱いでいると部屋に漂う香りに気がついた。


「あれ、もしかして……」

「今日カレーだよ!」

「まじか」


食べたいと思っていたカレーをまさか作ってくれているとは思わなかった。思わぬ偶然に驚いたおみの顔を見て、ぐみは少し不安げな表情を浮かべる。


「どうしたの? 今日はカレーじゃない方が良かった?」

「いや、むしろ逆。カレーめっちゃ食べたかった」

「なら良かった! 私も食べたかったんだよねー」


ふたりとも食べたかったということがわかり、お互いの顔を見ながら口元を綻ばせた。以心伝心ではないけれど、同じように思っていたことに驚きと喜びの両方が胸の中で沸いた。


調理も終わり、飲み物やスプーンも持って席に着く。

テーブルに置かれたカレーは目の前にあることもあり食欲をそそった。手を合わせ食事の挨拶をすると、おみは早速カレーに手をつける。


「うま……」

「久しぶりに食べると美味しいよねぇ」


思わず声がもれた。

実家の母が作ったカレーも家の味と言えるが、ぐみが作ったカレーも、おみにとっては家の味となっていた。それゆえか、食べた時に安心感があるのが少し不思議に思う。


「何か落ち着く」

「あ、それわかる! 家で食べるカレーって落ち着く! なぜかはわかんないけど!」


楽しそうに笑うぐみを見て、もしかしたら自分はぐみがいるから落ち着いた気持ちになるのかもしれない。そうやっていつも一緒に食事をするぐみとの時間が、自分にとって安らぎとなっているのだろうか。なんて、柄にでもないことを考えてしまう自分におみは笑えてしまった。


「え、何で笑ってるの? いいことあった?」


検討外れなことを言うぐみを見て口元が緩むが隠すことはしない。


「ねぇ教えてよー」

「やだ」


理由が知りたいぐみにちょっかいをかけられながら、カレーを口に運ぶ。


それでもなお、口元は緩んだままだった。

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塩キャラメルとグミ 伏見 悠 @sacura02

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