第14話,恐ろしく巨大で寛大で悍ましい(3)

暫く僕は脳みそがミルクシェイクと化していたけれど、それも長くは続かずパチンと弾けるように正気に戻った。


そうすると思いの外スッキリとした感覚で世界が透き通って感じる。


いつの間にか瞑っていた瞼を開けると目の前に家のようなサイズの虻の顔があった。


「わっ!?」


『ああ、正気に戻ったかい』


目の前と言ったけどサイズのせいで距離感がバグってたみたいでそんなに近くでもなかった。


太守ターシュ様が僕の様子に気づいて顔の角度をキリキリと変える。


「すみません、すごくぼーっとしてました。と、言うか僕の小さなお手々に何してくれたんですか!なんか変なもの注入しませんでした!?具体的に言ってやばい薬みたいなの。途中完全に体が溶けて水みたいに世界に広がって行った気がするんですけど!やば、僕身体あります??」


『落ち着きのない子だね。別に溶けちゃいないよ、失礼だね。それに手も何ともないだろう?』


慌てて体を弄り掌を眼前に透かすと、どこも全く異常がないことに気づいた。


掌に確かに空いた穴さえすっかり無くなっていた。


『坊やにはワタシの血を少し入れたのさ。まぁ言ってもほんのちょっとだから身体が作り変わるほどじゃない。畏れ多くも異形の王の血さ。知恵のない魔物なら無闇矢鱈にアンタを襲わなくなるだろう。自分から触れられるような距離まで近づいてったりちょっかいかけるんならその限りではないがね。ワタシの兄妹に会ったとしても坊やがワタシの子だと一目でわかるようになるよ。どうだい、少しは役に立ちそうだろう』


「え、ええ!それって後天的な勢力の書き換えって事ですか!?」


急いでステータスを開くと衝撃的な内容になっていた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【グリム・シュガーボックス】

Lv.1(0/10)

種族/小人族ハーフリング

勢力/闇の勢力ダークサイド魔物の勢力モンスターサイド (addition!)


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


なんてこった…。


勢力の欄が闇の勢力ダークサイドだけだったのから魔物の勢力モンスターサイドが追加されている。


種族も変えずに勢力が書き換わるなんて、とんでもないことが起きてしまってるような。


「うーん、同一種族内での勢力の書き換えなんてゲーム時代でもなかったことですねえ。これは現実になったことで生じたシステム変化の一つってことなのか、まだプレイヤーが発見してないだけど実は密に実装されていたシステムなのか」


でもこれって実はかなり問題なんですよねえ。


ステータスの勢力ってのはただ単に所属を現してるんじゃなくて、同一勢力ユニットではバフが上乗せされたり、専用のスキルがあったりと恩恵があるんで。


「あ、でも逆に魔物モンスターカテゴリでしか覚えられないスキルなんかもあるのかも!おお、そう考えたらワクワクしてきました!」


『…まあ喜んでるようならよかったさね』


「はい!…ところでこれは他の皆にもしてるんですか?」


『そうだよ。まあ、坊やに分けたよりも更に少ない血をね。あの子達はこの村から出ようなんてこと考えもしないからね。別にそんなに強い血はいらないだろうから、眷属たちが他のと間違えない程度にマーキングしてるだけさ』


そう言うと彼女はズンと伸ばした爪先を地面に突き立てた。


すると地面から奇妙なものがボコりと顔を出した。


それはフォルム的には人型だけど全身つるつるとしていて、性的な特徴がい身体をしておりピンク色の肌をしていた。


顔には目も鼻も耳も見当たらず大きく裂けた口だけがあり、不揃いな牙が生えている。


あえて言うならミミズ人間といった出で立ちの生き物だった。


「え゛、ワームノイド」


『ああ、そう呼ぶ奴らもいるね』


これは境界都市の先、魔物の領域で見られる立派な魔物で中盤以降に出てくるそこそこ厄介な敵だ。


森の中で地面からいきなり襲ってくることから害悪モンスターと呼ばれる類の連中だ。


よく見たら周囲の地面がもぞもぞしている。


これひょーっとしたら足下にうじゃうじゃいる?


『この子たちもワタシの子供達さ。ここら一体の地面に潜ませてるから不埒な奴らがアンタ等に手を出そうものなら食って良いって言ってあるんだ。昔はこいつらもお腹一杯に成れてたんだけどね。最近じゃあそんな馬鹿も減っちまったからお腹空かせてしまってるのさ』


笑いながら言ってるけどシャレになっていませんねぇ。


そりゃ僕らが怖がられる訳だ。


きょろきょろと周囲を見回していたワームノイド君は用がないと思ったのかずるりと元来た地面に戻って行ってしまいました。


『帰りにまたこの子達に運んでもらうんだからあんまり邪険にしちゃいけないよ』


「あ、あの篭運んできてくれたのは彼らだったんですね」


うーん、戦ったら一体でも低レベル帯のパーティをメタメタにしてしまえる怪物が護衛してくれると考えると喜ばしいことかもしれませんね…。


『ワタシに会いたくなったら村でも地面を叩いて呼んでみな。よっぽど機嫌が悪くなきゃここに連れてきてくれるはずさ』


「あれ、太守様にはいつでも会いに来ていいんですか?」


『そりゃ私としちゃ暇してるからね。いつでも遊びに来てくれるなら大歓迎だよ。特にちっちゃいアンタらのちっちゃい時期は可愛いからねえ。5、6歳くらいになったらなるべく顔を出すように言ってるんだよ。今も奥には何人かいるよ。まあ来たがった結果っていうよりもあんまりにも顔を出さないから呼びつけてるんだけどねえ。慣れて貰うために1・2年いて貰ってるんだけどアンタはそんな必要なさそうだねえ』


ああ、それであんまり子供を村で見ないんですねえ。


というかそれ慣れて貰うってより洗脳では?


親元から幼い頃に離して監禁してますよね?


「週1で顔出すようにします!」


『そうしな』


うーん、まぁ悪い人(?)でもなさそうですしいいか!!


色々興味深いお話も聞けるし、異形の王ゼ=アとお話しできる機会なんてそんなにあるわけでもないですしね!!

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ハーフリングでも出来る!異世界転生のすすめ!!〜最弱の小人族(ハーフリング)に転生したけどゲームでは当たり前だった知識を誰も知らなかったので楽々成り上ります〜 斎藤 ケイジ @asayou

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