ある楽園の風景

 とんでもなく妙な場所にたどり着いてしまった。

 いつもの見慣れた廃墟だと思った。そこでたまたま地下への隠し階段を見つけ、その先の金属扉が劣化していて、少し頑張れば開きそうだったので、たまたま蓄えが潤沢だった燐を少し贅沢に爆薬代わりに使って、扉を吹っ飛ばして中に入った。


 ――その先には。


 白と赤以外の色彩が、溢れていた。

 澄んだ水が小川のように水路を流れ。遠い昔に死に絶えたはずの(おおよそ食いでのない可憐なばかりの)草花が濃い緑や黄色やピンクやら眩しいくらいの色味をまとってそこかしこに繁茂し、その上では小さな羽虫が危機感もなくふわふわと飛び回っている。


 そして。

 それらの間を縫うように。それらの間を縫うように壁や床には、大量の黒い線が走っていた。それはただの管理用の記号や筆記ではない――『炭』で描かれた絵だった。

 それも、我々が効能を求めて『炭』で描き殴るような大雑把なものではない。

 幾何学的な模様もようであったり、精細な写実であったり、一部分のイメージを強調したデフォルメであり。


 ……技巧と時間を惜しみなく使ったであろう「芸術」と呼ばれる類の絵が、今では失われて久しい自然物たちにも負けない存在感で、室内に満ち溢れていた。


 ――そんな異様な光景にしばし呆けていたが、ふと何者かの気配と物音を感じてそちらの方を向く。

 すると部屋の片隅でむくり、と小さな身体が起き上がった。それはこちらを認めると小さく欠伸をしてから、首を傾げた。


「……誰?」


 それは雪のように白い髪と肌、燐のような赤い瞳。――そして手を炭の黒で煤けさせた、少女だった。

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雪道せかいの燐と炭 にゅーとろん @miturugi

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