馬車

ナカムラ

馬車

 ここは、中世ヨーロッパ、私は、ある用事を片付けようと、馬車に乗った。

 馬車には、後部に黒いジャバラ状の覆いがあって、御者が2頭の馬を鞭で操り、私は、その横に座っていた。

 私が目的の場所を、御者に告げると馬車が動き出した。

 馬車は、街中を抜けてしまった。私は、慌てて御者に言った。

「ちょっと、私が言った場所と全然違う所に向かってるじゃない!こちらじゃないわ!!早く、目的の場所に向かって!!」

 しかし、御者は、無言で一方向に馬車を進ませた。

 そういえば、この御者は、何か様子がおかしい。

 前方を見ずに、うなだれて馬車を操っていて、その顔は、蒼白く生気がない。

 私は、段々と恐ろしくなってきた。


 やがて、荒廃した大地が目の前に見えてきた。

 たまに、枯れ果てた木が薄気味悪く立っていた。

 2頭の馬は、枯れ葉を蹴散らし、ある方へ駆けていく。

 いつの間にか、周りには、薄暗く霧がかかり、蝙蝠も、飛んでいるようだった。蝙蝠は、徐々に数を増やし、まるで馬を先導しているようだった。


 やがて、馬車は、ある所で止まった。

 先程までいた御者は、いつの間にか消えていた。


 そこには、元は、白かったであろう薄汚れて灰色と化した城が、そびえ立っていた。


 気が付くと、後ろには、銀の甲冑を着た騎士が1人、こちらに剣を向けて立っていた。

 甲冑の中の顔は、暗くまるで見えない。


 私は、逃げ場を失い、慌てて仕方なく城の中に走って入って行った。

 私が、城に入ると、私が走ると両側の蝋燭に火が灯っていった。

 所々に、蜘蛛の巣が這っていて何か、とても、気味が悪い。


 ガチャガチャという音がやけに大きく聞こえ、私は、思わず、振り返った。

 後ろには、十数人の銀の甲冑を着た騎士が私を剣を持って追い掛けてくる。

 私は、必死に逃げたが。やがて追いつかれ、次々と十数人の騎士により、私の体は、剣で切り裂かれた。


 私は、息絶えた。

 すると、私の魂は、肉体から離れ、自分の肉体を上から見下ろした。

 不思議と恐怖心は、ない。


 私に向かって、銀の甲冑を着た1人の騎士が、片膝をついて、下を向き、話しかけた。

「貴方には、失礼なことを致しました。申し訳なく思っております。実は、この城には、主がおりません。どうか、どうか私達の女王になって頂けませんか。」


 私は、不思議とその願いを引き受ける使命を感じた。

 その気持ちが、どこから、来るのかは、わからない。

 私は、まず。疑問に、思っていることを訊いた。

「お前達は、幽霊なのか。」

「はい、私達は、皆、この城に住み着いた幽霊です。女王になって頂けますでしょうか。」

「仕方ない。私が、女王となろう。」


 私は、宣誓書に署名した。

 そして、私は、叫んだ。

「お前達、私に忠誠を誓うか!!」


 すると、そこに集まった多くの騎士達も、口々に叫んだ。

「はい、女王様ー!!」


 完

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馬車 ナカムラ @nakamuramitsue

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