エピローグ
波乱の芽
実から受け取った結晶を、下準備のために炉に放り込む。
これからは定期的に聖域の魔力を送り込みながら、五つの結晶が一つに融合するまで待つ。
これにはどのくらい時間がかかるか分からないので、根気との戦いだ。
……これが自分の作りたいものなら、この待ち時間もまだ楽しく思えるのに。
「やっぱり、どっかで隠れて見てたんだ。エリオス。」
ルードリアが嫌味っぽく言ってやると、エリオスは不愉快そうな顔をするどころか、好意的な笑みを浮かべた。
「そりゃ、可愛い息子の顔は見たいからね。」
「その可愛い息子を自分の手で追い込んでるくせに、よく言うよ。」
「仕方ないね。それが、私の代償だから。」
「さすがエリオス。何を言われても顔色一つ変えないところが素敵だよー♪」
エリオスの腕に絡みついていたレイレンが、まるで恋する乙女のように頬を染めてうっとりとする。
「なんでまた、余計なのが増えてんのさ。僕が自分の領域に他人を入れるの嫌いだって知ってるよね?」
「勝手に乗り込んできてしまったんだ。別に呼んだわけじゃないんだけど。」
だったら単純に、エリオスがここを離れればいいだけではないか。
ルードリアは、胸の奥から湧き上がってくる不快感を隠すことなく顔に出した。
「集中したいから、さっさと出てってよ。邪魔なんだけど。」
とにもかくにも、自分は今すぐに一人になりたい。
いくら渋々引き受けた物作りだとしても、手をつけた以上手抜きはしたくないし、中途半端な仕上がりなど許せない。
「第一、エリオスはいい加減、城に戻らないとやばいんじゃない?」
ルードリアが
ルードリアは遠慮なく続ける。
「―――奥さん、手遅れになっても知らないよ。」
その瞬間、エリオスから笑みが完全に消え失せた。
代わりに向けられたのは、見た者全てを凍てつかせるような鋭い視線。
今の発言が彼の逆鱗に触れることは分かっているが、こちらだって散々振り回されているのだ。
このくらいの仕返しはさせてもらわないと、気が済まないというもの。
ルードリアとエリオスは、しばし無言の睨み合いを繰り広げた。
「むふふ。本当の波乱は、まだ始まったばかり…ってね。」
いつもの笑顔が崩れたエリオスの表情を愛しそうに見つめ、レイレンはひっそりとそう呟いた。
世界の十字路13~五色の花と山の弓使い~ 時雨青葉 @mocafe1783
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