火葬戦記短編

海猫

東欧諸国の機甲戦、ルーマニア編

 1940年11月、ベルリンのとある一室でルーマニアの駐在武官は呆然としていた。


 日独から提供されたソ連軍戦車の情報は、彼の想定を遥かに超える物だったのである。


 かつて同盟関係にあったチェコスロバキアから、ミュンヘン会議の結果危機は去ったとして生産が滞っていたLTvz.38戦車150両を全て購入してR-3と名付け採用。


 スペインで遭遇したBTやT-26を凌ぐ戦車を漸く手に入れた所にT-28増加装甲型やSMK重戦車の情報である。


 報告に本国は驚いたが対ソ戦を間近に控えた今、陳腐化した物を持つ余裕はない。


 旧式化した126両のR-2を自走砲へ転換するのが手っ取り早い方法だった。


 が、問題が一つ浮上した。砲が無いのである。


 翌12月にドイツに支援を打診したものの、ドイツも自国戦力拡充の為生産した火砲の輸出には否定的だったがある提案を行った。


 それはポーランド戦で入手したM1902野砲の供与である。


 ポーランド=ソビエト戦争時にポーランドがソ連から鹵獲したM1902は同国を支援していたフランスのM1897系列に徐々に更新されていたが、ドイツ侵攻時に未だ89門残っていた。


 鹵獲したドイツは石油代にボフォース37㍉対戦車砲を売ろうとして断られた為、代案として取り上げたのだ。


 30口径では最厚部60~80㎜と予想される各種戦車には不足気味だったがまとまった数を急に揃えられる筈もなく、渋々了承。


 月末に届いたM1902をR-2戦車の砲塔と車体上部を取り払い、後方が開放された戦闘室を設けて搭載し各種試験を実施。


 重心は変わったが取り回しに支障はなく、結果は良好だった。


 ただ装甲板の量産体制が不安視されていた為、それもドイツから年明けに送られる事になる。


 消滅した領土や植民地出身のドイツ人を招いて技術を、賠償金や油田の収益で資金を得て20年。


 大戦前の倍以上に膨れ上がった領土、国民を養いながら登場の早い航空機はコアンダ効果の発見者、コアンダ博士の元国産化どころかジェット化すらしていたが、装甲車両を自力開発出来る程の国力は未だなかったのである。


 同年5月、ソ連に侵攻した枢軸国をT-34ショックが襲う。


 ルーマニアの試作自走砲は夏季試験が済んでいない為戦力化されておらず、開戦前に供与されたⅢ、Ⅳ号戦車もT-34の正面撃破は銃眼を狙撃する以外無理で、性能の近いR-3共々より安全な側背面を数百m先から撃つしかなかった。


 9月に制式化されたR-2改めTACAM R-2も状況は同じだったが、上記3種より遠方の1000m先から撃破出来た。


 だがKV1、KV2両重戦車に対してはお手上げだった。


 手持ちの戦力では機動力を削ぐのが精一杯で、遭遇したら砲爆撃支援を要請するしかなかったのである。


 年内に15両を改造する事が決まった後、鹵獲したより高性能なM1936野砲をR-2へ車載する試験や車体をT-60軽戦車に変更したTACAM T-60の開発がスタート。  


 オーバーハング気味な事を除けば性能は良好だった為,、TACAM R-2は年明け以降武装を代え後継の1942搭載型が制式化される42年末までの間60両を改造。


 M1936搭載型はTACAM R-2B、M1902搭載型は遡ってR-2A、M1942搭載型はR-2Cと呼称された。


 44年9月ルーマニア降伏後、戦場にはかつての同盟国を砲撃するTACAM R-2Aの姿があった。


 弱武装故損耗も激しく、クビンカ戦車博物館に現存する唯一のTACAM R-2AがB、CやTACAM T-60、マレシャル駆逐戦車等と共に余生を過ごしている。


 R-2Aデータ


 全長:4.90m


 全幅:2.06m


 全高:2.32m


 重量:11.8t


 武装:30口径76.2㎜野砲1902年型、7.92㎜機関銃ZB53型各1


 装甲:10~25㎜


 乗員:3名


 最高時速:31km


 航続距離:160km


 機関:シュコダT11 6気筒水冷ガソリンエンジン

 125 HP


 B、Cは主兵装の欄が変わり時速が1㎞減、重量200kg増加するだけで全長、全幅、地上高及び航続距離は変わらず。


 重量増に伴い制動距離や加速時間が延びた為、弱武装のAを含めた全シリーズ共に道路事情が悪く重装甲が相手の東部戦線よりも西部やイタリア戦線の方が活躍したのではとは後世の弁。


 ※R-3(38t戦車)はスペイン内戦の影響が史実より強く各部の装甲厚は最初からC/D型相当。




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