第4話 『ご注文承ります』

TRPGサークル・プレアデス サークルルーム


【星崎 昴志】


いつもの様にタチバナ君が中心になって話を進めながら、夏の合宿の打ち合わせをしている。


「さあ、夏合宿の日程はこれでいいかな? 」


8月の2日~8日か、まあ順当かな


「それじゃあ、もちろんミステリーツアーだから、行き先は秘密だ。しかし・・・

あえてここで、だけは発表させてもらう」


その言葉に、思わず周囲を見回すが、僕以外の誰一人として驚いたようすは見られなかった。


タチバナ君、これはどういう事かな?


「最初の移動ルートは、羽田から空路を使って関西国際空港だ」


それを聞いた瞬間、背中にイヤな汗が流れる、いや、


タチバナ君がニヤリと笑って、僕に向かって声高に宣言した・・・・


「ふっ・・・気が付いたみたいだな。そう、第1目的地は君の実家、星崎邸に決まった。大丈夫だ、星崎のご両親も我々の訪問を快諾かいだくしてくださったよ」


「まって、タチバナ君。どうして僕の実家の連絡先を知っているの?」


「いや~偶然なんだけどね、俺が寿富堂に行った時に、丁度君のお父さんからアルバイト先への挨拶の電話が入ったんだ。折角だから、友人として挨拶させてもらったよ。その時に、お父さんと連絡先も交換しちゃいました」


「僕は・・・そんなこと聞いて無いんだけど?」


「もちろん、お願いして。お父さんがノリノリでオッケーしてくれた」


しまった。ウチのお父さんは、こういうの大好きだった。


タチバナ君のどや顔が妙に腹が立つ。


今は何も思いつかないけど、いつか反撃をしてやろう、そう心と記憶に刻み込んだ。


「もちろん、あとの目的地はシークレットだよ」





「わかった。ところでみんな、夏休みに入ったらあの加工室で、今までより時間のかかる加工にもチャレンジしようと思ってるんだ。何か小物を作ろうと思ってるけど、リクエストは何かありますか?」


あれ、珍しく志堂君が食い気味にきた。


なまじ体格が良いから迫ってくるとちょっと怖い。


「ぜひ、金属製の独鈷杵を頼む、ウチの宗派では使わないんだが、一度でいいから持ってみたかったんだ」


「うん、わかった独鈷杵だね。大きさはどれくらいがいい?」


「せっかくだから1尺(30cm)は欲しいな」



祝永さんが、少し考えながら


「星崎さん、この勾玉のペンダントなんですが、子供が付けても大丈夫な材質で出来ませんか? 黒曜石だと万が一割れたらケガをしそうなので」


「いくつぐらいの子供さんですか?」


「子供というか・・・中学生の女の子なの。出来れば巫女の衣装に合う物があればいいなと」


「わかりました、作ってみますね。盤動さんは、何かありますか?」


「すみませんが、母がこれを気に入ったみたいなので。またロザリオを作って貰ってもいいですか?」


「了解です。タチバナ君は?」


「大き目のコインみたいなメダルがついたお守りみたいなタリスマンがいいな」


「ペンダントみたいに首から掛けるタイプかな?」


「そう、そんなかんじ」


「いくつかデザインを書いてみるよ」


「ああ、頼んだ。カッコイイのな」


さーて、どれから手を付けようかな?・・・・あれ? 祝永さん?


「星崎さん、ちょっといい?」


「どうしました?」


「いえ、今までも色々作って貰っていますが、材料代だけでもかなり掛かっているんじゃないですか? さすがにこれ以上は材料費と何か対価を受け取って貰わないと、お願いし難いのですが」


「僕も、セッションの後で色々と連れて行ってもらって、交通費とか食事代を払って無いんですが?」


「それは、こちらが引きずり回しているせいですよね?」


突然、タチバナ君に肩を叩かれた、え?


「よし、星崎。今度何か材料を買いに行くときには、ウチの景浦さんを連れて行ってくれ」


「・・・なんで?」


「材料費は、こちらで計算して分割するから。とりあえず支払いは景浦さん一括で」


「いや、さすがに悪いよ。それに材料を買っても、それを全部使い切る訳じゃ無いし」


「全然悪くない。少なくともロザリオに使うシルバークレイと・・・星崎、新しく作

る勾玉の材料に何を使うつもりだったか、吐いてもらおうか?」


「えっと、女の子が好きそうな紅水晶べにずいしょう紫水晶むらさきすいしょうを使えればいいかなと・・・・・」


「紅水晶と紫水晶って、ローズクォーツと・・・・アメジストじゃないか?」


「たぶん・・・大丈夫だよ」


「いや、だめだ。放っておくと石や金属加工の消耗品を黙って買いかねない。星崎、君はしばらくの間、一人での買い物は禁止だ」


「買い物禁止って、それはちょっと恥ずかしいな」


「それに大阪に行くまでに、お前の体脂肪率を最低2ケタに届くまでは太らせないと、俺としてはご両親に申し訳が立たない」


「タチバナ君、なんか昔の映画で見た、下宿先のお母さんみたいになってるよ」


「それでは、この流れで今日の3つ目の議案に入ろうか? さあ、各自が考えてきた、星崎を太らせるプランを出してくれ」





「はい、絶華たちばなさん」


「盤動さん、どうぞ」


「考えたんですが、単純に相撲部屋と同じ、1日5食はどうでしょうか?」


「実際の相撲部屋は違うそうだが、いい方法だな。朝、昼、夜とキッチリ食べさせて。それ以外はどうする?」


「3時のサークル食と深夜食で、どうです?」


「よし、いい手だ。深夜はデリバリーを部屋に運んでもらおう。メニューはTRPGサークルらしくダイスを振って決めるぞ」





「絶華君、ハイ」


「祝永さん、どうぞ」


「デリバリーだと部屋の冷蔵庫に入れてしまう可能性があります。ちゃんと食べる所を監視しましょう。夏休みまで、星崎さんをウチで引き受けて、夕食と夜食と翌日の朝食をキッチリ食べさせます。夏休みに入ったら加工部屋に食事を持って行きますね」


「良い手ですね、これで逃げ道が塞がれました。後は太るだけですね」





輝夜かがや、ハイ」


涼慶すずよし、お前、コレにまだ上乗せするのか? 俺はそろそろ星崎が可哀そうになって来たんだが、まあいい、言ってみろ」


「太るなら脂質と糖質だけど、限界以上に食べさせるなら、その場の雰囲気も必要だ。そこで、前から予定していた祝永神社のバーベキューで、ワイワイ騒ぎながら星崎に肉を詰め込もう」


「なるほど、星崎の心理的なストッパーまで外すのか。これに酒が入ればブレーキまで外れそうだが、一応は未成年だからな、そこは勘弁してやろう。これなら夏休みまでに体脂肪率20%オーバーも夢ではないな。バーベキューの準備はまかせてくれ」





「タチバナ君、ハイ」


「どうした、星崎。さすがにこれ以上の追加は身体を壊すぞ」


「全面降伏します。景浦さんにも買い物に付いて来てもらいますから、お願いだから1日5食だけは勘弁してください」





「はいはいはい、タチバナさん。1日5食は諦めますから、代わりに提案があります」


「盤動さん、どうぞ」


「星崎さんの帰省前に、そのボサボサの髪型や服装にも手を入れましょう。心身ともに健康な様子を、実家のご両親にアピールするのはどうでしょう?」


「天梨紗ちゃん、いいわね。すぐにやりましょう。とりあえず美容室予約しましょうね」


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