第7話. 憑穢
学校が始まって、日常が戻ってきた。
1ヵ月が過ぎ中間試験が近づくと、ひなママの事はもう頭から忘れかけていた。
そんな時だった、訃報の報せを聞いたのは。
ひなママが自殺した。
だが、ひなパパの部屋で首を吊ったのではなく、所謂“自殺の名所”と呼ばれている崖から身を投げたのだ。
ひょっとすると、もうあの部屋には穢れを残したくなかったのかもしれない。
家族3人が幸せに暮らしていたあの家を穢したくない――そんなひなママの優しさを感じた。
俺は映画を見た後、こう考えていた。
恐らくきっかけは、ひなパパだろう。
ひなパパが穢れに感染。死後穢れは、ひなパパの部屋に残穢となった。
それに陽葵とひなママは触れ、感染した。
穢れの初期症状はまるでストレスと同じで、本人は“疲れてるのかな”くらいにしか思えない。
陽葵もほんのストレス発散のつもりで俺に声をかけたのかもしれない。
だが穢れは段々とその精神を蝕み、追い込んでいく。
時に穢れは憑き人の強い思念を具現化し、それが写真や動画に写る事もある。
映画にセックスのシーンは無かった。
だがひなママの穢れの進行が遅かったのは、セックスのお陰なのだろう。
穢れを祓う唯一の手段――それは“愛”なんだ。
だが、その抑止効果も長続きしなかった。
しかも越埼さんは、それが原因で穢れが感染してしまった。
だとすれば俺も穢れに感染した筈だ。
ひなママの症状が遅くなったのは間違いない。
だがその為に例え俺に移っても、俺を利用したのだろうか。
……そうは思いたくないのだが。
しかし実際は、俺にはまるで穢れの症状が出る気配が無い。
俺はあの日を思い出していた。
そう言えば……ひなママはこう言っていた。
“キスくらいはしたんでしょ?”
「あ!」
俺はもう感染していたかもしれないのだ。
だが陽葵の穢れは弱まっていたのかもしれない。
そこに“愛”があったから……。
それが俺にはワクチンみたいに効いたとか。
あの“元気そうね”はその確認だったんじゃないだろうか。
あの時の陽葵の笑顔が思い浮かぶ。
もう一つは、ひなママが本気だったって事。
だがこれは、俺がひなママの心情を察するには色んな意味で許容オーバーだ。
真実は分からない。
ただ、そう考える事が俺には一番納得出来た。
ひょっとして陽葵にデートであの映画やキスを勧めたのも、ひなママなんじゃないだろうか。そして実は……。
……それは考え過ぎか。
陽葵の家は結局、“訳あり物件”で買い手がつかず、春に取り壊される事になった。
世の中は相変わらず“第〇波、到来か?”とコロナが奮い、人々は相変わらずマスクで顔を覆っている。
俺は時々思うんだ。
あのマスクの下に、実は“穢れ”を隠してる奴も居るんじゃないかって。
それはともかく、感染する自殺はある。
だからその報道も、見る方も、気を付けた方が良い。
そこには、“残穢”がある。
そしてそれは、“
「龍樹ー。行くわよー」
「今、行くよ」
今日は家族揃って、陽葵たちのお墓参りに行く。
俺は、着替えて玄関に向かった。
そして母を見て、ギョッとした。
「何だよそのスカーフ……」
「これ? 冷感タイプっていうらしいの。ひなママに教わったのよ」
まさかな……。
(完)
短編集 真夏の世の夢 赤髪のLaëtitia @laetitiacramoisi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。短編集 真夏の世の夢の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます