第6話. 手掛かり

 あの日から、ひなママは姿を消した。


 母が連絡を取っても出ず、家はいつも留守だった。


「ちょっと龍樹。何か変わった様子、無かった?」

「いや……別に」




 暑い日が続いた。

 

 部屋のクーラーは付けっぱなしだったがモヤモヤして落ち着かない。

 あの日の事が強烈に頭にも体にも刻まれていた。

 これでは勉強どころでない。


 ひなママとはまだ連絡が取れないらしい。


 俺は茹だる様な暑さの中、外へ出かけていった。




 スマホで検索すると駅前の映画館で面白そうなアクション映画がやっていた。

 続編らしいが前作は俺が生まれる前で、特に知らなくても楽しめる様だ。

 気分をスカッとさせたかった。


 ふと陽葵の家の前を通るとき、なぜか気になって俺は玄関に向かっていた。居るはずのないドアの向こうに、陽葵が居る気がしたんだ。

 ドアフォンを押す指が震えた。


 するとひなママが出た。


 つば広の帽子を被り、サングラスをかけて、首元にはスカーフを巻いている。

 どこか出かける様な格好だった。


「元気そうね」


 ひなママはグラスを外し、ニコッと微笑んだ。


「はい……あの、母が心配してました」

「……そうね」


 ひなママはどこか寂し気な表情を見せた。


「あの、俺も……」


 するとひなママはクスッとしてサングラスをかけた。


「これから出かけるの。また留守になるわ」


 どこか遠くに行くのだろうか、そんな気がした。


「あ、あの……あの時、なんで俺とあんな事を?」


 暫くジッと俺を見ていた。

 するとキュッと口元が悪戯っぽく吊り上がり、そのまま車に乗ったのだった。


 エンジンがかかり窓が開くと、


「私も見たのよ、あの映画」


 そして、“じゃあ”と手で仕草して車は発車していった。

 

 

 俺は急ぎスマホで検索していた。

 あのB級ホラー映画だ。

 どうやらまだやっていて、走れば間に合いそうだ。


 思い出したんだ。


 音声や画像が消えた謎、

 “愛が無きゃ駄目なんだ”というセリフ、

 自殺が感染するとか、祟りとか、

 

 全部どこか既視感があった。


 そう言えば、と思い陽葵からのあのメッセージを開くと“モウヤダ”、“タスケテ”と残っていた。やっぱり……だ。


 全部映画で見た気がする。

 だがセックスのシーンなんてあっただろうか。


 それに嫌な予感がする。

 今、気付いてしまったのだ。

 

 ひなママは首にスカーフを巻いていた。

 

 確か“首のアザ”も映画で見た。

 

 もしあれが陽葵と同じ、首のアザを隠す為だったとしたら……。


 ともかく俺は、もう一度あの映画をじっくりと見直そうと思ったんだ。

 



 俺は背筋の凍る思いをした。

 やはりそこに答えがあった。 

 

 全ての根本は“穢れ”というものらしかった。


 あの時、陽葵も震える思いだったに違いない。


 穢れと言う糸で、次々とこれまでの謎が繋がっていく。


 だが、まだ何か引っかかる。

 

 ひなママはこう言っていた。


“きっと旦那も陽葵も……それにあの人だって……”


 そうだ、だ。

 あの人って誰だ。


 その時俺の頭にピンとくるものがあった。

 あの時のニュースだ。


 俺は急いで家に戻り、母に聞いた。


「母さん! ひなママの勤めているとこ、知ってるか?」

「え? えぇ知ってるわよ、確か○○病院だったかしら」


 急いでスマホで“○○病院、法人役員、自殺”で検索するとすぐにヒットした。


『医療法人○○会、法人役員、越埼 すぎる(42)さん自殺』


 愕然とした。 

 だがこれで、ほぼ繋がった。



(続く)








 



 

 


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