第5話. 儀式
「ちょっと休んでいけば。心が落ち着くまで、ね?」
そう言ってひなママは俺をリビングに通した。
「お茶を入れて来るわ、ちょっと待ってて」
広い部屋に一人になった俺。このソファも俺一人にはデカ過ぎる。
小さい頃に何度か来た覚えはあるのだが、改めて見ると金持ちだ。
金持ちならば幸せである、と言えるならひなパパと陽葵の秤には、何が幸せよりも重く載っていたのだろうか。
あのニュースでやってた自殺した人もそうだ。
今の地位とか収入とか、あの若さなら将来の夢や希望もきっとあったろう。
一体何がそれらよりも重くのしかかり、生きる事に耐えきれなくなったのか。
「お待たせ」
ひなママは、紅茶とクッキーを用意してくれた。
ひなママだってこんなに綺麗で優しい人なのに……。
俺はその時ふと、“自殺も感染するのだろうか”などと馬鹿げた事を考えていた。
最近は報道規制がされる様になったと聞く。有名人のが特にそうだ。
そんな俺をジッと見つめていたひなママに気付き、なぜか慌ててカップを口にした。
「たっくんも、もう高2なのよねぇ。大きくなったわ。それに元気そうね」
そう言って向かいに座るひなママの姿に、俺はなぜか緊張していた。
何て言うか、やけに色っぽい。
「たっくんは、ひなとデートはしたの?」
「え……えぇ、まぁ」
俺はあの日の事を思い出していた。
あれなら、まあ、デートと言って良いだろう。
「どこまで行ったの?」
「あの、近くのファミレスと、駅前の映画館です」
「やだ、そうじゃないわ」
「え?」
「キスくらいはしたんでしょ?」
なぜかその表情は鋭く、まるで尋問されてる気がした。
「えっと……まぁ、はい」
俺は伏し目がちになって返事した。
するとひなママが俺の隣に移って来た――香水の良い香りがした。
「ねぇ……」
顔がグッと近づく。ふと陽葵の顔が重なった。
視線を逸らすと、Vネックではだけた隙間から乳房がチラと見えた。
慌てて後ずさったが、ひなママはまるでネコ科の動物みたいに静かにニュウっと寄って来て、ベージュのスリットスカートから白い太腿がはだけていた。
「ねぇ……陽葵とはこんなことしたかしら?」
白いブラウスのボタンを外し、前が露わになる
真っ赤な唇が俺の口を塞いだ。
俺は抵抗する事なく、ひなママをそのまま受け入れた。
勢いに呑まれたまま、体を任せていた。
ただ、こんな俺でも何か役立てば……なんて思っていた。
「たっくんは、呪いとか祟りって信じる?」
ベッドの上でひなママが、聞いてきた。
「いや……」
「私はね、信じてるの。だって見た事あるのよ」
「え?」
「きっと旦那も陽葵も、あの祟りに連れて行かれたんだわ」
「まさか」
「そうよ。それにあの人だって……」
ひなママは背を向けたまま静かになった。
「そう言えば……陽葵の首にアザを見たんです。あれ、何だったんだろう」
俺には、まさかあれが祟りだなんてとても思えなかったんだ。
けどひなママは黙って自分を抱き締め、少し肩を震わせていた。
「冷えちゃったわ」
そう言って静かに服を着始めた。
だから俺も服を着て家に帰る事にした。
「バイバイ、たっくん。今日はありがとね」
俺はペコリとひなママに頭を下げ家路に就いた。
「あらお帰り。遅かったわね。ひなママどうだった?」
母にそう問われ、
「あぁ……喜んでた」
そう返事した。
もうホラー映画も一人で見られる――そんな気がした。
(続く)
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