第4話. 別れ

 結果は予想外だった。


 陽葵の家に最寄りの警察官が任意聴取に向かったそうだ。

 すると母娘揃って元気な様子だったらしい。

 2つのメッセージについても質問したが、送った記憶は無いという。

 だがやはりスマホは壊れていて確認は取れなかったそうだ。


 昨日、他に誰か居なかったかも聞いたそうだが、


「あらやだ。夫が亡くなってからずっと娘と二人暮らしよ」

 

 それで警察官は聴取から引き上げたそうだ。 

 

 俺は全く納得出来なかった。


 あれから何度も動画を再生したが、やはり全ての音声そしてあの人顔は消えていた。設定をいじったり、色々試したが何をしても駄目だった。


 単なる俺の妄想だったのか?

 それにしちゃあ、生々しすぎる。

 今でもあの不気味な顔は、鮮明に覚えている。


 その時、ふと何か記憶の淵に引っかかるものがあった。

 あった筈の記録が消えるという現象。

 

 だがそれが何だか分からなかった。


 


 数日が過ぎ、茹だる様な暑さの中、俺は毎日を部活と勉強に打ち込んでいた。

 多分、あの不気味な出来事を早く忘れたかったんだと思う。

 

 その日、俺は休憩がてら居間のテレビでニュースを見ながら麦茶を飲んでいた。


「今日未明、医療法人○○会法人役員の越埼 すぎるさん、42才が自宅で死亡しているのが確認されました。警察は、自殺とみて捜査を進めています」


 ボーっとテレビを見ながら、なんで自殺なんかするかなぁと思っていた。


 夕食を済ませ、居間でくつろいでいると母のスマホが鳴った。

 すると、


龍樹たつき!」 


 鋭い声が部屋に響いた。

 

「ひなちゃんが死んだって!」

「は?」


 俺は母の言った事が呑み込めず、体は凍った様になっていた。

 

 暫くボーっと母の電話の声だけが、俺の耳に響いていた。





 自殺だった。



 陽葵は亡くなった父の部屋で、父がそうした様に縄を首に死んでいたという。

 

 なんでだよっ!

 どうして俺に何も相談してくれなかったんだ。

 伝えたくても伝えられない、何か事情があったのか?


 俺は、何もせず、何も出来なかった自分の非力さと無念さにすっかり打ちのめされてしまい、陽葵のお通夜と葬式が済んだ後も、部活や勉強する気には全くなれず、家で毎日ゴロゴロしていた。


 そんな様子に心配した母が言った。


「龍樹、ひなちゃんにお線香あげに行きなさいな」


 母はここんとこずっと陽葵の家に通って線香を上げ、陽葵のママと話している。


「ひなママも心配してたわ、龍樹がそんなだと知って」

「俺の事言ったのかよ」

「だって、ひなママから龍樹はどうしてるって聞かれたんだもの」


 途端に俺は恥ずかしさを覚え、陽葵に線香を上げに行こうと重い腰を上げたのだ。

 

 事前にひなママに電話をし、俺は花を買って陽葵の家に向かった。




「たっくん、ありがとね」


 俺は花をひなママに手渡すと、ひなママは陽葵の遺影が飾ってある部屋へと案内してくれた。

 写真の陽葵は、あの時見た、輝く笑顔だった。


 その途端、俺は涙が止まらなくなった。


 

 

「きっと陽葵も喜ぶわ」


 花瓶に生けた花を写真の横に置き、ひなママは俺にハンカチを渡してくれた。

 俺は涙を拭いて、線香を上げた。



(続く)

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