第3話. 声

 あれからLINEで何度も連絡を取ってみたものの、陽葵からの返事は無かった。

 家にも寄ったがいつも留守だった。


 よく考えればあんなところにアザなんて普通出来ない。

 単なる見間違いだったかも。

 俺は陽葵に失礼な勘違いの言葉をかけてしまったのかもしれない。

 

 そうして陽葵と連絡が取れず1週間、梅雨空は続いていた。

 


 

 8月に入り空は晴れ、俺は両親と共に母の実家に泊まっていた。


 陽葵からの連絡に気付いたのは、電源を入れた朝だった。

 着信が2件、1件目はなんと夜中の1時28分だった。

 

 “モウヤダ”と書かれたメッセージと共に動画が添付されていた。

 部屋の中だろうか。

 天井が映し出されていて、恐らく机に置いたまま開始されていた。


 するとどこからか、小さくドンドンドンドンと壁を叩く様な、何かが軋む様な音が不規則に聞こえて来た。

 なんだか良く判らず、次のやつを見る事にした。


 2件目は2時38分。

 “タスケテ”と書かれてあり、やはり机に置かれたまま開始している。

 

 すると急に画面が激しくぶれて、バキッと割れる音と共に録画は終わった。

 そして一瞬だが、白い影が見えた気がした。


 俺はもう一度、2件目の録画を見直した。


「これは……ひなパパ?」


 録画が終了する間際、画面の隅の方にチラと映る人顔の白い影。

 よく見るとうっすら陽葵のパパの面影がある。

 

 白目で苦しそうな表情をしている。


 とても薄気味悪く、背筋が震えた。



 1件目の動画も見直した。今度は最後までよく耳を澄まし聞いてみた。


 すると録画の終了間際、微かだが音に混じって声が聞こえた気がした。


 ハァァ…アン……


「何だ?……喘ぎ声?」

 

 もう一度よく聞くと、他の場所でも雑音だと思っていたところどころで女の喘ぎ声が混じっている様に聞こえた。


(ママ、再婚するの)


 何となく察しはついたが、果たしてわざわざ録画し知らせる様な事だろうか。

 だとすれば2件目が何かヤバイ。


 警察に届け出た方が良いだろうか?

 いや、こういうのってお祓いとかそっち関係か?

 だがそれって結構お金がかかるんじゃないか?


 なんとなく大した効果も出ず、金だけ毟られる――そんな気がする。

 怪しげな新興宗教とか特にそうだ。


 ふと最近耳にしたニュースを思い出す。

 宗教に全財産をお布施して破産した人が居るらしい。

 

 以前、健康サプリと信じ摂取し続け、それが原因で重い腎臓障害を患い死亡した事故があった。それと似ている。

 

 やってる本人はそれで幸せなのかもしれないが、周りは迷惑この上ない。

 

 やっぱそこに、“愛”が無ければ駄目なんだ!


 ……何かの受け売りだった気がするが、何だったかは忘れてしまった。


 俺はさんざん悩んで結局、警察に行った。




 警察でスマホの動画を見せると不思議な事に、録画の音声と不気味な人顔の影が跡形もなく消えていた。何度再生しても結果は同じで、ただ天井を移すのみの画像になっていた。


 俺は記憶を頼りに説明を試みたのだが、


「まぁ、あんた若いから」


 ベテランと見える警察官にそう言われた時には、もう、恥ずかしさと悔しさで顔が真っ赤だったに違いない。


 けど残された2つのメッセージ、“モウヤダ”と“タスケテ”だけで何かとてつもなくマズイ事が起きているんだと食い下がり、陽葵の首のアザの件も盛り込んで、何とか彼らの重い腰を上げる事が出来た。


 

(続く)

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