第2話. 兆跡
映画は序盤から流れる様なテンポで話が進み、俺は恐怖に引き込まれていった。
陽葵と一緒だという事も忘れ、映画に釘付けにされていったのだ。
途中で俺の手に、陽葵がスッと手を重ねた。
けどお陰で俺は、漸く我に返ることが出来たんだ。
やっぱり陽葵も怖いんだ――渡りに船と俺は陽葵のその手を握ってあげた。
映画が終わり、俺も陽葵も暫く黙り込んでいた。
祟りとか障りとかいったものが伝染して広がっていくという内容だった。
恐らく、コロナが世界中を席巻する時世と重ねているんだろう。
B級にしては割と良く出来てると思った。
「ドキドキしたな」
「……」
余程怖かったのか、陽葵は声が出ず、ただコクリと小さく頷いた。
やっぱり陽葵だ――俺は少しホッとした。
外は雨脚が強まっていた。遠くの空で雷も鳴り出している。
「帰ろうか」
「うん」
俺は傘を広げると、その腕に陽葵が寄り添い組んできた。
「このまま、いい?」
「あ、あぁ」
陽葵の家までの帰り道、人通りはとても少なかったがそれでも、すれ違う人の見る目には、果たしてどう映っていただろう。
服装を見比べれば、とてもお似合いには見えない。
それでもピタリと寄り添う相合傘で、陽葵の外の腕には閉じた自傘をぶら下げて、歩く姿はカップルに見えなくもないんじゃないだろうか。
そう言えば、陽葵はどうして急に俺を誘ったんだろう。
俺に恋人になって欲しかったのか?
それなら告白するだろう。陽葵の性格ならきっとそうする。
ひょっとして何か悩みがあるんじゃないか。
それを俺に聞いて欲しいんじゃないだろうか……。
「そう言えば……もう一周忌終えたんだよな、陽葵パパ」
なぜそのセリフが出て来たのか、今でもよく判ってない。
ただホラー映画を見た後で、なんとなく“死”という残り香の様なものが、頭に漂っていたからかもしれない。
「もう二人きりの生活は慣れたか?」
「ううん、三人よ。ママ、再婚するの」
びっくりして俺は陽葵を見た。そんなの初耳だった。
多分、うちの母でさえ知らないんじゃないだろうか。
見つめた陽葵の顔は、少し困った様にも見えた。
雨脚はいよいよ強まって、傘の音はまるで二人だけ世界と遮断する様だった。
「ねぇ……」
「……」
陽葵の唇に、俺は優しく重ねた。
陽葵の柔らかい体を感じながら、俺は暫くそのまま動けなかった。
「今日はありがと! やっと元気が戻ったわ」
そう言って微笑む陽葵は、輝いて見えた。
陽葵の家はもうすぐそこだった。
その時、ふと、首元のスカーフが無い事に気が付いた。
どこかに落とした? 映画館に忘れたとか?
よく見ると彼女のバッグにそれが入っていてホッとした。
ファミレスで冷感タイプだと話していたのを思い出す。
映画が怖くてゾクゾクするから取ったんだな、なんて考えていると少し笑えた。
あれ?
俺は、陽葵の首元に色の変わった跡を見つけた。
「その首のアザ、 どうした?」
瞬間、陽葵はサッと手で首を隠し凍った様な表情を見せ、傘も差さず土砂降りの中、走り出したのだ。
「お、おい! 待てよ!」
俺も陽葵を追いかけたが、もう陽葵は家の中に入るとこだった。
だが玄関の前ではすぐには入らず、暫く俺の方を見つめていた。
「陽葵、どうしたっ?」
そう問いかけた時には、ドアを開け、バタンと家に入ってしまった。
雨でよく見えなかったけど、その顔は多分、泣いていた。
(続く)
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