ひょうえ
第1話. 変化
あれは、高2の夏休みが始まってすぐ。
7月に入ると厳しい酷暑が続いたが、珍しくどんよりとした分厚い雲がまるで梅雨の再来と、朝から激しい雷雨を齎した。
世間じゃ、やれ電気が足りないとか、水不足だとか騒いでいたから、これで回避出来るだろうって安易に考えていたのを良く覚えている。
その日、幼馴染の
部活も中止だし俺は暇を持て余していたから、安易に“いいよ”って返事した。
近くのファミレスでお昼を一緒する事になり、特に着替えもせず家を出た。
雨は朝より弱まって、でも傘の音がイヤホン越しにも聞こえる程度に降っていた。
こんな雨だし、多少濡れても構わない――そんな気持ちはどこかにあったし、俺には別段気にする事でも無かった。
店に入り俺は、客席を見回した。
コロナの影響で客は少ない。それにこの天気だ。
早かったかな、とスマホを確認していた時、
「たっちゃん」
声がした方を見ると女性が席を立ち、小さく手を振っていた。
「あ……陽葵?」
アイボリー色の花柄ロングスカートに、黒いVネックの五分袖セーター。
首元には爽やかな青いプリントの入ったスカーフをした女性。
それに踵の高いお洒落なサンダル、爪にはマニキュアまでしている。
コクリと頷く陽葵の顔を俺は二度も確認し、そして漸く向かいに座った。
なんだか途端に俺は、落ち着かなくなっていた。
けどそれを陽葵には気付かれまいと努めて平静を装った。
「陽葵……なんかすげぇ大人になったな」
「そお? たっちゃんは変わってないね、ホッとした」
ニコッと微笑む陽葵の顔に、記憶の陽葵が重なって、少し気分が和らいだ。
思えば陽葵とは高校入学のあの春以来、会っていない。
それからは最近の事、高校の事、他愛ない事と話は弾んだ。
特に変わった様子は無い。何より元気なのが幸いだ。
話し始めれば陽葵は俺の知ってる陽葵だった。
「ねぇ、これから映画見ない?」
「ん、あぁ、良いけど」
これが見たいと陽葵が選んだのはホラー映画だった。
前は“ホラーは苦手”と言っていたのに……大人になったって事だろうか。
俺は陽葵が言う通り、変わっていない。
相変わらずホラーは苦手だ。
時々テレビで見る事があるが、それだけで十分だと思ってる。
それは陽葵も知ってる筈だが、忘れてるのかとぼけてるのか……。
だから初めてのホラー映画に俺は足が重くなっていた。
「これ、結構怖いって人気らしいよ。知ってた?」
「へー。いや初耳」
テレビのCMでも見た事無いし、どうせB級映画だろう……大丈夫。
「ドキドキするね」
「期待しすぎだろ」
ちょっと強がって言ってはみたものの、顔に緊張が表れていたかもしれない。
陽葵はクスッとして俺の手を引き、そのまま席まで連れていかれた。
(続く)
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