第4話. 風立ちぬ

 暫くすると見えて来たのは、ここの風景や街並みとはあまりに馴染まない広い敷地で、僕たちの車はその中にある巨大な倉庫の様な建物の前で停まった。


「これが私達の“希望”よ」


 そう言って建物の扉を開く舞。

 その目に飛び込んできたのは、戦車や戦闘機の数々だった。


「こ、これは……!」

「これでもう判るわよね? 貴方の仕事」


 すると僕に声をかけてくる人が居た。


「エース! やっと来たか。俺は信じていたぜ。これで俺の整備したこいつが十二分に発揮されるってもんよ!」


 彼が示すそこにあったのは、特別なステルス戦闘機。


 遠隔操作で動かす無人戦闘機。AIや最先端技術が満載された文句なし“世界最強”の戦闘機だ。操縦士は通称“VRSヴァルズ”と呼ばれる仮想現実シミュレーターに座って操作する。


 僕は、VRSのトップエース兼ヴァルズAIアルゴリズムのプログラマーだった。


 心の穴からあの悪夢が立ち昇る。


“行かせてくれっ! もう取り返しのつかない事になるぞっ!”

“駄目だ! 上からの指示を待つんだっ!”


 結局、上からの指示は来ず、結果、敵は発電所を次々と攻撃しその全てを破壊し尽くした。当然だが、その二次被害によって多くの人々が犠牲となり、“捨てられた地”となった場所が幾つもある。


 僕たちの虚しい待機は、敵国のみならず、安全保障を結んだ同盟国から皮肉にも、この戦争の早期終結に貢献したと称賛され、名誉を与えられ、結果、僕の上司は全員、服毒自殺した。


 そして、首相が暗殺された。

 容疑者も、自らの頭を撃ち自殺した。

 

 ――知り合いだった。


 実は、どちらも敵国側が密に提案したプランらしい。

 首相に勲章と一緒に小瓶を用意させ、一方で別に首相の暗殺を依頼する。

 

 彼は僕にどうして欲しく、そんな事打ち明けたのだろう。


 そんな首相を国葬扱いにしようと意見が出た時には、最早やるせなさの溜息しか出なかった。

 奴らはその死の意味を深く考えず、むしろ曲解し、己の美化に利用する。


 

 やはりあの時、自分の信念に従って、僕が迎撃していれば……。



「舞、僕はやるよ。この国の人を護る為。この名と、君の名に懸けて」


 あの政治家どもには本当に決めなきゃならない事は決められない。

 いつも後伸ばしだ。

 そして自分の事、派閥の事、党の事、政権の事しか頭に無い。

 

 国民をそれに利用して、血税すらその為に散財し、己の私腹へと吸い肥える、“政治屋”どもに振り回されるのは、もうまっぴらだ!


 これからは、僕が、僕の信念に基づいて、この国の皆を護ってみせる。

 

「ええ、期待しているわ」


 建屋上部の側壁の、窓より陽の光がジワジワと僕とステルスを照らし出す。 

 

 虫食いだった僕の心は蛹の様に包まれて、たった今、希望の光に飛び立った――


 開いた扉から流れ込んできた南風。

 それはとても心地よく、舞の笑顔がお似合いだった。

 


(完)

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