第3話. 熱情

「着いたわ」


 声に気付き目を覚ますと、朝日が昇っていた。

 

 随分と遠くまで来た様だ。周りは山に囲まれ見慣れた景色は一片も無い。

 彼女が伸びをしながらフアァと欠伸をした。

 ひょっとして夜通し運転したのだろうか。


「大丈夫かい? 随分運転してたみたいだけど」

「えぇ、心配してくれてありがとう」


 彼女は笑顔でそう答えた。

 それはまるで、僕の心を明るく照らす朝日みたいだった。

 だがその穴からは、一抹の不安がやはり噴き出てくるのだ。


 こんな山奥に連れてきて、一体何の仕事があるのだろう。


 その時の僕の表情は、きっとまた訝しい様子であったに違いない。


 すると彼女がこんな事を言った。


「ようこそ! 私達の国、『REV日本』へ」

「え?」

「REVはRevolution、Revision、Revengeの頭文字なの」


 彼女は相変わらず綺麗な笑顔を向けている。

 その時の僕ときたら、一体、どんな間抜け面をしていた事だろう。

 そんな僕に、彼女は顔を近づけて、静かにそっとキスをした。


 彼女の舌が、腕が、僕に優しく絡みつく。

 

 僕は思わず彼女を強く、抱き締めた。




 気付くと僕たちは、愛し合っていた。




 彼女のその白く艶めかしい肢体は、僕の期待に違わずいやそれ以上に素晴らしく、ゆっくりとくねらせながら僕を優しく受け入れた。



 太陽が控えめに見守る中、僕たちは果敢に、ときに下品とさえ思える程に、激しく熱く振る舞った――




「太陽を感じたわ」


 耳元の囁きに気付き顔を向けると、輝く笑顔があった。

 それが僕にはとても印象的だった。




「貴方の事は、事前に調べさせて貰ったの」


 彼女は服を着ながらそう言った。


「きっとここが気に入るわ」

「でも……貧乏は嫌だな」


 僕はちょっとだけ意地悪に、そう言った。

 何か彼女には僕の全てを握られている様で、癪だったのかもしれない。

 すると彼女はちょっと驚いた顔をしてこう言った。

 

「貧乏でも、お互い助け合って生きれば幸せよ。ここはそう言うところ。属国に成り果てたあっちには、それが無い。あるのは弱肉強食に喘ぐ“貧困”……まっぴらだわ」


 アクセルを踏み、エンジンを噴かせる。

 まるで何かを払拭するみたいだった。

 

「もう少し車で走るわ。貴方に見せたいものがある」


 僕はまだ夢見心地だったから、急に嫌な現実を見せられる気がした。

 その時の僕の顔は、大層締まりのないものだったろう。


「きっと喜ぶわ」


 彼女はちょっと悪戯っぽい微笑みでキスをして、運転を始めた。




「腐ったミカンのオクロクラシーはもううんざりよ。同じ轍は踏まないわ」

 

 彼女は運転しながらそう呟いた。


 僕が思うに、どんな主義の国家でも、上に立ちリーダーシップを取る者が、優れた人格者でないと駄目なのだ。


 例え多数が選んだからと言って、多くが望む社会を実現するとは限らないし、一人の暴走が戦争を生む事だってある。 

 

「僕は、自分の信じる信念と使命に燃える仕事がしたいな」

「あら、それならピッタリだわ」


 彼女の差し出す拳骨に、僕はゴツンと応じてみせた。



(続く)

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