五話
あった! 出口だ! もう日が登ったのか、蛍光灯からじゃない光が差し込むひとつの開いたドアが通路の向こうに見えた。マップを見つけられたのが大きくて道なりに進んで比較的簡単に見つけられた。
あそこに着ければ生還だ! その一心で僕は扉に走り出した。するとその時。
ズドン!
銃声がしたのは通路のさらに奥からだった。銃弾が僕の肩にヒットする。男が銃口を向ける姿が僕の視界にかすかに映った。
まずい! 逃げなきゃ! 頭より先に身体が動いた。振り返った瞬間背中にまた銃弾がヒットするが、それでも無我夢中で走り出す。
直進して、角を曲がって、また直進して、銃弾を貰いながら駆けていく。
何度目か分からないが丁字路の角を左に曲がると、今度は後ろから怪物の唸り声が聞こえてきたのだ。それは獲物を見つけて興奮した声色だった。
危なかった。もし曲がる方向が逆だったら
怪物が僕を追いかけてくる。そして当然、角を曲がった先の男の視界に映ってしまうのだ。怪物が男の弾丸で撃たれるが怪物はまだ死なずに標的を男に変えて走り出した。
あの男から距離を取れたってわけだ!
でもここからどうするか、出口からだいぶ離れちゃったけど…………ん?
僕の目の前にこれまでとは明らかに違う扉が現れた。扉の横の壁には暗証番号なんかを打ち込みそうなパネルがあり、そして扉は半開き状態でもう動かせないように壊れていた。半開き状態と言っても一人分の肩幅以上はある。
雰囲気があからさまに違うぞ? どんな部屋なんだろうか、あいつをかいくぐる何かがあればいいけど……。
中に入った僕が見たものは、やけに広い部屋に点在した人一人は余裕で入れる大きなカプセルと、さらに一番奥にある巨大なカプセル、そしてその中に入っている人型で三メートルほどの大柄で肉体を改造されてる感じのある化け物だった。カプセル内には透明な溶液で満たされているようでこいつは目をつぶっていた。
こいつはなんなんだとまじまじと見ていると、今度はなんと扉の向こうから走ってくる音が聞こえてきた。怪物じゃない、あの男だ! なんで諦めないんだよ! 銃弾とか僕は落とさないよ!?
と、とりあえず隠れなきゃ! このでかいカプセルの裏……。壁とカプセルの間は狭いけど身体を横向きにして―――
ブツッ!
ん? なんか踏んだような……? そう思いながら下を見た僕は壁の差し込み口からカプセルに繋がっている何やら太くて大事そうなケーブルを抜いてしまったらしかった。
するとどうだろう、カプセルの溶液が激しく揺れ出し、そしてモンスターの腕や脚がかすかに動いたように見えた。いやかすかじゃない! 動き出した!
化け物は太い腕でカプセルを中からぶち割って貫通させた。そのヒビから水が勢いよく流れ出すと、モンスターは無理やりガラスを押しのけて歩き出して床に破片がジャラジャラと散らばった。
その瞬間男が部屋に入ってくる。男は部屋の奥の巨大なモンスターに気付くと機敏な動きで銃口を向けた。一瞬僕に対してかと思って生きた心地がしなかったが、男はいつになく真剣な眼差しでモンスターのみを睨んでいた。
そして男の銃声と同時に、モンスターと男の戦いの火蓋が切って落とされた。
今しかない! 戦闘の横でコソコソと壁際を通り抜けてドアをくぐった。通った瞬間部屋から轟音がしたが気にしていられない。
走れ! 走れ! 怪物はいない! 男がここに来たってことはここから出口までの通り道の怪物を全部倒したはずだ、信じろ!
その判断は正しかった。道中出会った怪物と言えばもう既に銃弾の餌食になった肉塊だけ。走ってる最中でもモンスターと男の戦闘音が聞こえてくる。
一生勝手にやっててくれ! 出口の前に着いた僕は心の中でそう思いながら協会に繋がる階段を登っていった。
教会の中を駆け抜けて、エントランスまで走り抜けて、研究所に繋がる穴を横目に扉から外に出る。
身に受けた陽の光は生き残った僕を祝福しているようだった。
エスケーピング・ゾンビー! あばら🦴 @boroborou
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