雷女

kamra

雷女

「ここもずいぶんと寂れたなあー」

 旅人である銀朗ぎんろうは、かつて負傷した際に半年ほど滞在した村を訪れていた。

 この村は、海が近く魚が取れる上に土がよく農業も盛ん。食べるものには困るはずのない場所であった。

「やあ、銀朗さんじゃないか」

 ここの村長である布木ふきさんが声をかけてきた。

「お久しぶりです。この前はどうも」

「なになに、困ったときは助け合いじゃろう。そんな数年前の事をいまだに言わんとおくれ」

 村長は頭をポリポリと掻きながら言った。

「にしてもここも寂れましたね、あの女はまだいるのですか?」

「まあまあ、立ち話もなんだしのぉ、中に入って話そうじゃないか」

 そう言って村長は銀朗を家に招きいれた。


「で、どうなんです?まだいるのですか?」

 銀朗が訊くと、村長は少し間をおいてから言った。

「いや、半年ほど前に突然消えたさ」

「消えた?」

「ああ、まるで誰もいなかったかのように消えたさ。あの時は驚いたね。おかげで今は豊作じゃよ」

 そう村長はニコニコしながら言ったのである。



 数年前、この村には一人の女性がいた。

 凄くきれいな方で、独身なのが不思議なぐらいに。

 だが、銀朗がこの村を訪れた時も、その女性に村の人々は誰一人として近づくものはいなかった。

 なぜなら、その女性はこの村に災いを呼ぶ「雷女」であったから。

 その女性は華佐味かさみというらしい。

 一人でこの村にやってきて、住まわせてほしいと言ってきたと言う。

 村長はその女性に空き家を貸したと言う。

 しかし、その女性がやってきてから、生活は一変した。

 彼女が外に出るたび、雷雲がやってきて、雨とともに雷を落とす。

 彼女が外に長くいればいるほど長い間雨は降る。

 そして、雷は必ず村のどこかの家を燃やし、村人を殺すのである。

 家が燃えれば、当然近くの物に燃え移る。雨が降っているとはいえ、農作物は毎回大半が燃えてしまうのである。

 彼女は一か月に一遍、不定期に外に出る。

 村人は彼女がいつ外に出るか、びくびくしながら生活をしていた。

 

 あるとき、村人の一人が彼女を殺そうとしたことがある。

 彼女を外に出さずに自分が中に入って殺せばいいと思い、彼女の家に行ったのだ。

 だが、殺すことはできなかった。

 逆に殺されてしまったのである。

 いや、彼女には殺すつもりはなかったのかもしれない。

 扉を開けて、中に入ろうとして、彼女が出てきてしまったのである。

 そして、雷がその村人に落ちたのである。

 彼女はとても驚いていた。どうやら自分で操っているわけではないらしい。

 こんなことがあったから、村人は決して彼女に近づかなくなったのである。


 そして、村から出ていく人々がだんだんと出てきたのである。

 そりゃあそうだろう。いつ殺されるか分からない村になんかいたいと思うものはいない。

 こうして、百人いた村人はいつしか五十人にまで減っていた。


 そんなある日、突然彼女が家から出てこなくなった。

 何か月も出てこないである。

 そして一年間も経ってしまったのである。

「最近は出てこないねえー」

「死んだのでは?」

「そりゃあ、ありがたいことだね」

 村人はそんなことを言い出した。

 村長は死を覚悟しながら、彼女の家に行き、安否確認をしにいった。


 扉を開ける。中に入る。見回して、村長は驚く。

 誰も居ないのである。そもそも、住んだ形跡すらないのである。

 数年前に貸した空き家のまま。

 

 その後、この村で雷が落ちることはほとんどなくなったのである。

 彼女の行方を知る人などいるはずもない。


 だが、その後、雷に耐え切れなくなり、他の村に移った村人の村で同じようことが多発した。

 その「雷人」は逃げた村人たちになったのである。

 「雷女の祟り」なんて呼ばれ、今も雷は落ち続けている。

 

 今度、犠牲になる村はどこであろう?

 

 次の「雷人」はだれであろう?

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雷女 kamra @kamra

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