旅立ち
イース商会での買い物を終えた俺たちは宿屋で地図を見ている。
「それで最初はどこに行くの?」
「正直決めてないんだよな。シロはどこか行きたい場所はあるか?」
シロは黙って地図を眺める。
「……海。海に行ってみたい」
「海か……」
俺たちが暮らしている国は大陸の真ん中に存在している。なので一生の内に海を見ることが無い人たくさんいる。もはや見たことのある人の方が珍しい。
「いいな海。話を聞いたことしかないが、一面に塩水が広がってるんだよな。けど、どうして海なんだ?」
「……馬車の中で海の近くの街に住んでた子が居たの。その子の話を聞いて一度行ってみたいなって思ってたから」
なるほど奴隷の子が。奴隷の世話はある程度していたが出身を聞いたりしたことは無かったな。
「そういえばシロの出身はどこなんだ?行きたければ行っても良いんだぞ?」
その瞬間、シロが苦しそうな表情をしたかと思えば、すぐに笑顔になる。
「っ!……別にいいよ。もう無くなってる場所だから」
無くなってる。おそらく盗賊か、もしくは魔物、普通の動物よりも凶暴な獣に襲われたか。まぁこの世界ではよくある話。こういう時は話を逸らすのが一番だな。
「……そうか。なら目標は海で決定だな。次はどのルートで行くかだな」
「どうせなら美味しい物がある街とかいいんじゃない」
俺たちは夜通し海に向かうまでの経路を話し合った。
___________
「よし。これで準備は完了だな」
イース商会での買い物を終えた三日後の早朝。この三日間で必要な物をそろえたり、海までに通る道を決めたりと準備を終えた。
さらに、
「これが新しい馬車?少し狭くなったけど、二人なら十分ね。それに綺麗」
そう新しい馬車を買った。イースさんにせっかく奴隷商を辞めたのだから馬車も変えたらどうかと言われて新しい馬車を買ったのだ。
奴隷商をしていた時の馬車は物資に加えて大人数の奴隷を運ぶ必要があったのでそれなりの大きさがあった。
新しい馬車は前のに比べれば小さくはなったが、二人なら十分な広さがあり、長旅にも耐えられるような設計になっている。
「これ高かったでしょ?」
「いや確かに想定外の出費ではあったが、前の馬車を下取りしてもらえたからな、普通に買うよりもかなり安かったよ。本当にイースさんには頭が上がらないよ」
「本当にいい人ね」
「あぁ、あれほど人が出来た人はそういないだろうな」
「そうでもないと思うけどね」
シロは何故か俺を見てくる。
「なんだ?」
「別に何でもないけど、いい人同士は引かれるのかなぁ~tって思っただけ。あ、あれイースさんじゃない?」
シロが指さす方向にはイースさんが手を振りながらこちらに向かってくる姿が見える。
「やぁ、せっかくの旅立ちだからね。見送りに来たよ」
「わざわざありがとうございます。本当に色々とお世話になりました」
「うん。君たちが無事に帰ってくることを願ってるよ。それとシロさん」
「え、は、はい」
イースさんに手招きされてシロは驚きながら近づいて行く。
イースさんは近づいてきたシロのフードで隠れている目を合わせる。
「どうかショウのことをよろしく頼むよ。彼は優しい子だけど両親に恵まれなかった。どうか彼の支えになってくれ」
「はい。もちろんです」
「それと、ショウとの関係に進展があればぜひ教えてくれ」
「……気づいてたんですか?」
「君は見た目よりも分かりやすいよ。まぁ当の本人は気づいていないみたいだけど」
「そうなんですよね。はぁ~」
ため息を吐くシロと共にイースさんは苦笑する。
「大丈夫。君たちはこれから長い時を共にするんだ。チャンスはいつだってあるさ。武運を祈ってるよ」
「はい!頑張ります」
会話を終えるとシロが馬車に乗り込む。
俺も馬車に乗り馬の手綱を手に取る。
「それじゃあイースさん行ってきます」
「あぁ、行ってらっしゃい」
俺たちはイースさんに見送られて馬を走らせる。
そして街を出たところでシロが隣に座ってくる。
「そういえばイースさんとどんな話したんだ?」
「あなたの助けになってほしいって言われたわ」
「そうか。イースさんは心配性だな」
「それだけあなたを大事に思ってるってことじゃない?」
「……そうかもな」
俺は手綱を強く握り、走る速度を上げた。
奴隷商と売れ残り奴隷少女 影束ライト @rait0
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