次世代の動画配信

@Dimension_pillow

次世代の動画配信

 「やあ、よく来たね。調子はどうだい」

 ここは郊外にあるビルの一室。タカシ氏は友人のハヤ博士の研究室を訪ねて来た。

 「全く困ったものです。仕事をやめて動画配信でお金を稼ごうとしましたが、ほとんど視聴者が見に来てくれません」

 とタカシ氏は、厳しい現状を説明した。それを聞いて、ハヤ博士は言った。

 「近頃は動画を扱う人も増えたからな。日々変化していく動画の海の中で、安定して一定の再生数をキープするのは難しいだろう」

 「はい、今日はそんな問題を解決できる発明があると聞いて来ました」

 「うむ、これを見てくれ」

 そういうとハヤ博士は、モニターに映った映像を見せた。そこには現実の世界とはかけ離れた、異世界のような風景が圧倒的な世界観とグラフィックで映し出されていた。

 「きみにはここに映っている世界に入り、あちらの世界の住人として配信活動をしてもらう。といっても、実際にこの世界のなかに入り込むわけではない。このコントローラーを使ってアバターを動かし、君はそのアバターの声を当てるのだ」

 画面に表示された美形の3Dアバター、そして自信たっぷりに説明を始めたハヤ博士に対し、タカシ氏は困惑しながら言った。

 「すみません博士、言いにくいのですが、それはもう何年か前に多くの人が試みています。映像の進化はすごいですが、これでは発明とは言えません」

 「その通り。ここからが重要なのだ」

 そしてハヤ博士は実際にコントローラーを使いながら説明を続けた。

 「この世界は箱庭のようになっていてな、オープンワールドというやつだ。これを動画配信のためだけに約3793万平方キロメートル分用意した。きみにはこの中を自由に探検してもらう」

 「かなり広いですね。しかし、それでは広大な世界をただ歩き回るゲーム配信と大して変わらないのではないでしょうか」

 「そこで私の出番だ」

 そういうとハヤ博士は自分のPCを起動し、何かを打ち込むと、先ほどまで一人だった3Dアバターの近くにもう一人のアバターが出てきた。

 「これが私が操作するアバターだ、仮にCちゃんとしよう。私はこのキャラクターの持つビデオカメラを通して、きみと、きみのいる世界をうつす。そして配信にはこのビデオカメラを通して撮った異世界の映像だけが流れるというわけだ」

 「なるほど、世界観を崩さずにあたかも異世界で実際に動画を撮影しているような演出ができるということですね」

 「その通りだ」

 満足した顔でさっそくテスト配信をしようとするハヤ博士に、タカシ氏は質問した。

 「ところで、異世界の住人という設定の私たちですが、なぜ動画を配信するのでしょうか」

 「ああ、それは配信の導入の一部として、ちゃんと設定済みだ。異世界の住人の二人組が冒険の途中に奇妙な機械を拾う、それをいじっていたら機械の電源が入り、偶然時空を超えた配信が始まってしまうという流れだ」

 「なるほど、配信されているとは知らずにカメラを使い始めるのですね。では視聴者からのコメントはどのように対応するのでしょうか」

 「もちろんその辺りも考えてある。私が作ったこの異世界は、実は今の文明が謎のエネルギーで滅んだ先の未来という裏設定があってな。よって、奇跡的に使う言語が同じでなおかつ視聴者のコメントを拾うスマホのような機械端末を偶然拾っていたとしても世界観的に何の問題もないのだ」

 「これだけしっかりとした世界観があれば、あとは私たちが異世界の住人になりきるだけで絵になりますね」

 「そうだ。さらに、もしもの時のための言い訳もいくつか用意してある。例えば配信が急に止まったり、映像が乱れた時などは異世界のエネルギーのせいにしてなんとでも雰囲気を守れる」

 「なるほど」

 「世界観が崩れそうな雰囲気の時や、視聴者に世界観の設定について痛いところをつかれた時には、私が裏で管理者権限を使い、異世界のバケモノを君と視聴者の前に突然登場させることで、その場をうやむやにすることもできるというわけだ」

  タカシ氏はハヤ博士の発明に感心し、大いに喜んだ。

 「これはすごい発明だ。しかしそういえば、世界観を崩さずにどうやってお金を稼ぐんです」

 「その点についても考えてある。この世界は文明が一度滅んだことで、食糧や生活用品などの値段が高く、調達が難しいという設定にしてある。その異世界に通じる端末を使って視聴者からの電子のマネーを受け取るといい」

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