よくある展開のその後


 屋敷に帰って来たので、今回の件をお母様に報告に行こうと思ったら、そのお母様に捕まりました。

 というか、待ち構えていた感じですね、これは。

 公爵家お抱えの影が報告したのでしょう。

 と言うことは全てご存じですのね。

 ご存じだけれど、私からの話も聞きたいとそう言うことなのでしょう。

 それだけでなく、叱られる予感がします⋯⋯

 さて、母に捕まり部屋へ連れていかれてソファに座り、侍女達が手早くお茶の準備と私の為に軽食を出してくれます。

 お腹が空いていたのでとても有り難いです。

 私は彼女達にお礼を伝えると、そそくさと部屋を後にします。

 此処にはお母様と私の二人きり⋯⋯

 うーん⋯⋯、これは中々怒っていらっしゃるようです。

 何時までも黙っているのもよろしくないので⋯⋯意を決して話してみましょう。



「おか「全て分かっていますよ」」



 ⋯⋯でしょうね



「ようやくあの愚かな王子と婚約を白紙に出来たことは上々です。ですが⋯⋯」



 ですが⋯⋯なんでしょうか?

 いえ、何となく言われることは分かっていますよ。



「あの愚か者に対して対応が甘すぎますよ。何故もっときつく言ってやらなかったのですか?  情でも湧きましたか?」

「いえ、全く無いですわ。ただ、話の通じない者にうんざりし過ぎて、早々に終わらせたかったのです」

「全く! 対応に手を抜くだなんて⋯⋯いつから貴女はそんなに甘くなったのですか?」

「ですがお母様。流石に陛下や皆様の前でというのは手を抜きませんと、国内は勿論、諸外国の方々に王家の醜聞を広げるだけですわ。そうなったら後々面倒だと思いませんか?」

「それはそうなのだけれど⋯⋯貴女は悔しくないのですか?」

「私は特に。⋯⋯私自身より周囲の人達が怒ってくださってますので、何とも思っていませんわ。やっとあの阿保王子から解放されたのです。一番嬉しいのはそこですわ!」

「⋯⋯そうね。貴女には沢山我慢させてしまったものね」

「というわけで、お母様。暫く私に婚約者は必要ありませんわ。暫く! 自由を楽しみたいです」

「そうね。暫くは自由を楽しみなさい。お父様にもそう伝えましょう」

「ありがとうございます!」



 お母様からもお許しをいただいたので、何をしようか考えなくちゃ!

 私は部屋に戻ってまずはゆっくりと湯に浸かって今日の疲れを癒す。

 やはりゆっくりと湯に浸かるのは良いことよね。

 生き返るようです。

 あっ、もう言葉遣いもそれ程気にしなくていいかしらね。

 勿論口に出すときは公爵令嬢らしくするからいいよね。

 あぁ、ほんと生き返るわ。

 ちょっとおじさんみたいな事を思ってしまったけれど、それだけあのボンクラに我慢させられていたので、少しは許してほしい。

 さて、今後はどうしようかしら。

 と言っても、結局陛下の判断で私の今後が決まりそうな気もしないこともない。

 執務もあのボンクラが謹慎になった為に滞るだろうし、まだ第二王子のユベール殿下はまだ十歳。

 といっても、ユベール殿下はボンクラよりも全然優秀なので、もしかしたら内容を把握している私に回ってくるか、ユベール殿下の補佐に入るか⋯⋯

 働くのは嫌いではないし、途中で投げ出すとうのも気が引ける。

 こう言うところは前世日本人の生真面目な気質が出ている気がするわ。

 まぁ今そこを考えても仕方ないし、陛下からの呼び出しがあるまでは少し大人しくしておきましょう。


 湯から上がり、就寝の準備をして久しぶりにゆっくりと読書を堪能しよう!

 忙しくても好きな本は読んでいたのだけれど、ゆっくり落ち着いて読むことが出来なかったので、読みたい本が溜まっているわ。

 国内の本だけに留まらず、国外の本も取り寄せていて、読んでいない本が山積みになっていた。

 暫くはこれで過ごせそうね⋯⋯



 ふと明るくなっているのに気づき、外を見ると夜が明けて太陽が顔を出していた⋯⋯

 嬉しくてつい読み耽っていて寝るのを忘れたわ⋯⋯

 丁度読み終わったので、軽く身体を動かす。

 ずっと同じ体制で読んでいたので身体がポキポキとなる。

 朝一番で日の光を浴びるのも良いものね。

 今日も良いお天気になりそう。

 そうだわ! 今日の昼間庭園で読書をしましょう。

 良い考えだわ。

 今日の予定を外の空気を吸いながら決めたところで、私の専属侍女が控えめにノックをし部屋に入ってきた。

 そして、私が起きていて「おはよう」と声をかけると驚き、直ぐに視線をテーブルに移す。

 あっ、寝ないで本を読んだのがバレてしまった⋯⋯まずい。



「おはようございます。お嬢様。何故起きているのでしょう?  そして何故あんなにもテーブルの上に本が重なっているのかお聞きしても?」



 うーん⋯⋯朝からロゼの目が笑っていない。



「お嬢様、色んな柵から解放されたからと言って羽目をはずして寝もせずに本を読み耽るのは如何なものかと。お肌にもよろしくありません!」

「ごめんなさい。ロゼ。つい嬉しくて⋯⋯気を付けるわ」

「本当にお気をつけくださいませ。さぁ、お仕度を致しましょう。本日の朝食後、旦那様からお話しがあるそうですよ」

「もう?  もう少し時間かかるかと思ったのだけれど⋯⋯」



 私の考えていた読書期間は早くも終わりかしら⋯⋯

 少し残念に思いつつ、ロゼに用意を整えて貰い、お父様達が待つ食堂へ向かった。

 中には既にお父様、お母様にお兄様と弟のジュリアンが揃っていた。



「おはようございます」

「あぁ、おはよう。良く眠れたかな?」

「旦那様、お嬢様は寝ないで本を読んでいたようです」



 私が口を開く前にロゼが暴露してしまった⋯⋯

 お母様の目が怒っている!

 お父様はやはりなといった感じでバレているし。



「セス、貴女は何をしているのかしら。自由になったからといって、夜はきちんと寝なさい! お肌にも健康にも悪いわ」

「申し訳ありません。お母様。朝からロゼにも叱られましたわ」

「セスらしいな。だが、お母様の言うことも最もだから気を付けなさい」

「はい」

「セスがいつも通りで安心したよ」

「ジルお兄様、あの程度でどうともなりませんわ」

「姉上が自由になって嬉しいです」

「ありがとう、リアン」

「話は後だ、先に朝食をいただこう」



 皆揃っての朝食が久しぶりで、落ち着くわ。

 やはりご飯は皆で食べるのが一番ね。

 久しぶりにご飯が美味しく感じられる。

 何時もよりも多く食べてしまい、お腹が苦しい。

 朝食が済み、私達はゆっくりと話が出来るよう部屋を移動し、食後のお茶を飲みながら、早速お父様は本題にはいった。



「昨夜の件だが、ジルとリアンも既に知っているな?」

「はい。セスが公であの阿保王子に暴言吐かれた件ですよね」

「そうだが、その通りだが阿保王子は一応止めなさい」

「一応気を付けます」



お父様は一応「阿保王子」呼びを注意されましたが、全く本気で注意していませんね。

あの場にはお父様もいらっしゃったわけですし、そう呼びたくもなりますものね。



「本題に戻るぞ。まず、第一王子は謹慎と王位継承権の剥奪が決まった。今後の反省次第で第二王子のユベール殿下の補佐に付くかが決まる。もし反省の意がなければ、今収容された白銀棟から変わり“荊の塔”に幽閉又は子が出来ぬ術を施し国外追放処分かになる。反省の機会は与えるが、果たしてどうだろうな」

「なるほど⋯⋯反省次第で甘い対応になるのですね」

「まぁ、あれに補佐が勤まるかは別だが、多分幽閉になるだろうな」



 反省しなさそうですものね。

 あの子爵令嬢はどうなったのでしょう。

 王子が謹慎だと、あの令嬢も謹慎もしくは修道院送りでしょうか⋯⋯



「セス、あの令嬢だが、子爵家から追放されたので既に令嬢ではない。取り調べがあるので白銀の棟から一般の牢に移され、今日から取り調べが始まる。最終、修道院か、はたまた南方のアンフェール行きか決まる。どちらにしても生涯幽閉も決まったも同然だな」



 子爵は早々に娘を見限ったのね。

 これほどすっぱりと切り捨てるなんて、子爵も裏で絡んでるのかもしれない。

 


「そうだ。今日は昼から王宮へ行くのでセスはそのつもりでいなさい」

「今日ですか?」

「あぁ、陛下が謝罪したいと言ってな」



 謝罪するならこちらに来なさい、と本来なら言いたい所ですが、相手が国王陛下なのでそうはいかない。

 気は乗らないけど、行くしかないでしょう。



「分かりましたわ」



 早くも私の読書の時間が無くなりました。

 残念でならない。


 王宮へはお父様と一緒のようなのだけど、お仕事は? と思わなくもないのですが、「部下に任せてある」の一言。

 その部下の方々、大丈夫かしらね。

 お父様は、宰相として仕事量もかなり多いはず⋯⋯

 だけど今回の件は余りにあまりな出来事だったので、お父様が一緒で助かる。

 王宮につくと陛下の侍従が待機していて、真っ直ぐに陛下の応接間へと案内されると、既に陛下と王妃陛下、そして第二王子のユベール殿下がいらっしゃった。



「陛下、ご機嫌麗しく」



 お父様は笑顔ですけど、全くご機嫌麗しくない声音でご挨拶をした。

 まぁお二人は同じ年の親友同士らしいので、これが通常運転らしく、陛下も慣れていらっしゃるようで「全く麗しくない声音で話すな!」と軽口をたたいていらっしゃった。



「国王陛下、王妃殿下、並びに第二王子殿下にご挨拶申し上げます」

「セレスティーヌ嬢、堅苦しい挨拶はいい。まずは掛けなさい」

「はい。失礼いたします」



 陛下のお言葉で、お父様と共にソファへと座ると、手早くお茶の準備がされ、侍女達は退出し、私達だけとなったところで陛下達は私に対し、それはもう申し訳無さそうに頭を深く下げたので、流石の私も驚いてしまいました。



「陛下! 王妃様も、頭をお上げください」

「いや、この度はセレスティーヌ嬢には多大な迷惑を掛けた事、誠に申し訳ない。まさかあそこまで愚かだとは⋯⋯王としても親としても不甲斐なく思う」

「全くだ! 大事な娘をあの様に晒して、何度後ろから刺してやろうと思ったことか!」



 お父様がそれを言うと洒落になりませんからね!

 お父様は宰相の位についていますが、魔術師としての腕も確かで、宰相になっていなかったら魔術師団長の位についていてもおかしくない程。

 ほら、陛下も顔色を無くしていらっしゃる⋯⋯



「お父様のお気持ちはとても嬉しいですわ。ですが、発言が物騒ですので程々になさってください。それに、後からなんていけませわ。やるなら前からです!」

「それもそうだな。セスは正々堂々としていてお父様は誇りに思うよ」

「⋯⋯相変わらずセレスティーヌ嬢は見かけによらず過激だな」

「そうでしょうか?」



 過激ではないと思うのですけど、陛下にはそのように評価をされたしまいました。



「兎に角だ、彼奴の処遇は昨日話した通りだ。今までセレスティーヌ嬢には彼奴の補佐をして貰い、感謝する。今回の件で其方に醜聞が無いよう婚約は白紙とし、第一王子の処遇も公表する。そして、セレスティーヌ嬢の良き縁談を王家が責任を持って探すことを約束する」

「それに関してはお断り申し上げますわ」

「何故だ?」

「暫く婚約とか結婚の話はご遠慮したいのです⋯⋯」



 やっと自由になれたというのに、また縛られるのは懲り懲りです。

 ずっとは無理でも、暫くは自由を謳歌したいのよ。



「本当にごめんなさい。セレスティーヌ嬢。貴女がそんなに傷付いていたなんて⋯⋯」

「王妃殿下、お謝りにならないでくださいませ。傷ついてはいません。むしろ開放されてホッとしていますので暫く一人を楽しみたいのですわ」

「⋯⋯やはりセレスティーヌ嬢はクレージュ家の人間だな。笑顔で毒を吐く」



 陛下は何かぶつぶつと仰っていますけれど、表情からして特に気にする必要はなさそうね。

 お父様も気にされてはいないのでよろしいのでしょう。



「わかった。セレスティーヌ嬢の希望は考慮する。もし婚姻したくなったらいつでも言ってほしい。責任は取る」



(いえ⋯⋯責任とか取らなくて結構ですわ。むしろ迷惑)



 流石に声に出しては言わなかったけれど、心の中で全力で拒否しました。



「話がそれだけなら帰りますよ」

「待て! まだあるセレスティーヌ嬢にはお願いがあるのだ」

「陛下? まさか私の可愛い娘を扱き使おうとしてるんじゃないでしょうね?」



(お父様のその笑顔で相手に詰め寄るところがとても素敵です!)



 ではなくて、陛下の言いたい事は私にも分かりますが、私も気になっているので週二ぐらいでならお受けしてもいいと思うのよ。

 少しは働かないといけないでしょう?

 働かざるも食うべからず⋯⋯



「別に扱き使おうと思ってるわけじゃない! 少し手伝って欲しいだけだ! 特にユベールの事を頼みたいのだ」

「⋯⋯まぁあの阿、コホン。兄がああだったので、ユベール殿下には反面教師で頑張っていただかないと。セス、断ってもいいがどうする?」

「そうですね⋯⋯」



 ただ執務を手伝え、というお話ではないのね。

 それだったら、週三でお受けしてもいいかしらね



「では、週三日でお受けいたします」

「それでも良い! すまないがよろしく頼む」

「僕からもお礼を。セレスティーヌ嬢がいてくれると心強いです。よろしくお願いします」

「畏まりました。殿下、こちらこそよろしくお願い致します」



 それからこれからの事を少しお話をして、お父様と共に屋敷に帰ってきました。

 というかお父様、屋敷に戻ってきてからでなんてすが、本当にお仕事確認せずに戻ってきてよろしかったのかしら⋯⋯

 ちょっと部下の方々の事が心配ではあるが、久しぶりにお父様と一緒にいれることが嬉しいので、気にせず今日を楽しみましょう。





 

 

 








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