強くて色気のあるおじ様を所望します!
月陽
よくある展開
只今、私はよくある展開に遭遇しています。
遭遇、というのは語弊がありますが、私としては第三者のような感覚なのです。
それで、どのような展開かと申しますと、有体に言えば婚約破棄の真っただ中⋯⋯それもよくある断罪というものです。
そして、断罪されているのはこの私、セレスティーヌ・レア・クレージュ。
一応この国の公爵令嬢です。
そうそう、何故よくある展開なのか、気になりますわよね?
これもよくあるのですが、私には前世の記憶があるのです。
それは産まれた時からはっきりと意識にあり、前世ではラノベが大好きな親友から色んな話をそれはもう自身も小説を読んでいるかのような感覚に陥るくらい詳細に話を聞いており、冒頭の“よくある展開”と表現したのです。
勿論、今私が生きているこの世界ではこういったことはそうあり得ません。
今回のような件はこの世界においてはとても稀なのです。
ですが、その稀な事が我が身に起こっているので、非常に面倒臭い事この上ないのです。
この世界の貴族社会は政略結婚なんて当たり前でそれに関しては特に何かを思うことはありませんが、私も漏れなく父が渋々決めた結婚相手、そのお相手というのは、もうおわかりですよね? 王族、それも第一王子なのですが⋯⋯これが少々面倒な話なのですよ。
第一王子は、その⋯⋯少々頭の方がですね、弱いのです。
それを補う為に私があてがわれた訳なのですが、それも国王陛下直々の“お願い”で婚約したのです。
元々父も断っていたようなのですが、懇願に懇願されて、渋々、本当に渋々と了承したといった具合ですね。
ですので、私は特にお相手である第一王子の事などどうとも想ってはいないのです。
えぇ、これっぽっちも全く、ミリ単位で何も想っておりません。
なのですが⋯⋯何故か私が彼を愛していると思い込んでいるのですよ、その第一王子が。
そういう素振りは全くと言っていい程に態度には表わしていないのですけどね。
可笑しな話ですよね。
どちらかというと面倒、というか寧ろ嫌悪の対象、陛下には申し訳ないけれど、もう本当にどうでもいい存在でしたので、態度にもそのように出ていたと思うのですが⋯⋯これが全く分かっていなかったようです。
残念なことに。
もしかしたらそれすらも、彼の都合のいい様に解釈されていたのかもしれません。
そう考えるとほんっっっとうに面倒臭い! あのバカ王子!
あっ⋯⋯いけないわ。つい言葉が乱れてしまいました。
さて、そろそろ彼と彼の側近達の意味不明な言いがかりは聞き飽きましたわね。
ちらっと、陛下と宰相であるお父様を見ましたが、陛下は凍えるような冷ややかな表情で、お父様はとてもいい笑顔でした。
対照的な表情をされていますが、見ている此方は背筋が凍りそうです。
あぁ、忘れていました。
一体何処でこの“よくある展開”が開催されているかと申しますと、本日は学園の卒業式なのです。
ね、今時“よくある展開”でしょう?
それよりも、もうこれには飽きたので、茶番を終わらせるべく、そろそろ口を出してもよろしいかしら。
「⋯⋯貴様! さっきから人の話を聞いているのか!?」
あら、私が思いに耽っているのがバレたかしら。
⋯⋯あぁ、反論しなかったので奇怪しいと思われたのかしら。
やっぱり面倒、だけどそうも言ってられませんね。
一応当事者なのだから。
「お話はきちんと聞いておりますわ。要約しますと、殿下の想い人である、ラスティ・ピマン・フィセル子爵令嬢に私が嫌がらせの数々を行ったとか、そのようなお話でしたわね。証拠もなくよくそこまで御託を言えるのかと私、感心していましたの」
「ふんっ! 私がラスを愛しているのに対して醜い嫉妬心に溢れている汚い令嬢が無意識に彼女を陥れていたのだろう! だから自分では分かっていないのだ。呆れてものが言えないな」
本当にお馬鹿さんですわね。
呆れてものが言えないのは此方の台詞ですわ。
あぁ、もうほんとにどうしてくれよう、このボンクラ王子!
再度ちらりと父を見ると、やってしまえと言わんばかりの視線を向けてきたので、陛下には申し訳ないけれど、遠慮なく反撃させていただきます!
「ふふっ、呆れてものが言えないのは私の方ですわ」
「なんだと!」
「先程から黙って聞いていれば、きちんと調べもしないで無意識に私が苛めたと? 貴方様の想い人の話ばかりの話しを偏って聞いていたのでしょうね。名ばかりな側近方にも呆れてしまいますわ。まともな思考の方はいらっしゃいませんの?」
「なっ! それは私達が無能だとでも言いたいのか!」
矛先がバカ王子の側近に向けると流石に怒ったようですわね。
怒ったところで怖くもなんともないのですけれど。
「あら、無能までは口にしておりませんわ。ですが、そのように解釈をするとは、ご自分達の事をよく解っていらっしゃいますのね。感心いたします」
「よくもそのような侮辱を!」
「侮辱? 特に侮辱はしておりませんわ。事実を申し上げただけですもの。それに、無能だと仰ったのはご自分達でしょう? その通りなのですけれどね。片方の意見だけを聞きその話が真実なのか、証拠があるのか、目撃者がいるのか、もう片方の意見はどうなのかをきちんと調査をした上で証拠を得てからお話しされるのでしたら分かりますわ。ですが、愛に目が眩んで片方の意見ばかりを聞き、よく調べもしない不確かな証言だけで提示できる証拠もないのによく国王陛下がご臨席される卒業式というのこ場所でこのような茶番を繰り広げたものですね。呆れを通り越して感心致しますわ。ですけど、他の方々にとってはとても迷惑なのですよ。それともこのような大勢の皆様の前で提示できる証拠があおりなのでしょうか? あると仰るならば、早々に全て纏めてこの場で今直ぐに提示してくださいませ」
私は一息に告げると顔を赤くしてぶるぶると震えている。
お猿さんみたいね。
「証拠などと! 気弱な子爵令嬢が公爵令嬢にやられただけで上からの暴力だろう! どうせ家の力を使って証拠隠滅をしたのだろう。考えれば分かる事だ」
「貴方様のいう事は最もですわね。でしたら、今この現状を見れば私は暴力を振るわれていることになりますわね。貴方様はこの国の王子なのですから。しかもこのような大勢の中での言葉の暴力、暴力よりももっと酷い状況ですわ」
「何を言っているんだ? これは暴力ではない。ラスがお前に苛められたのだから今はそれを断罪しているのだ! それを暴力などと、よくぬけぬけと言えるな! 馬鹿なのか?」
プチンッ!
馬鹿に馬鹿と言われてしまいましたわ。
あぁ、このお話の通じない愚か者、始末した方が早いのでは?
頭が痛くなってきました⋯⋯。
「失礼を承知で申し上げますが、貴方様が馬鹿だという事が露見してしまいましたわね。権力を使ってやりたい放題。見るに堪えません」
「はぁ!? 馬鹿はお前だろう!」
「馬鹿は貴方様です。では先ほどからつらつらと話しをしていた事への返答を律儀に致しましょう。まずは、貴方様の想い人が水を掛けられたその日、その時間帯でしたら私は生徒会室におりましたので、生徒会の皆様が証人です。次に想い人の持ち物が無くなったと話していた日は、その日の前後合わせて五日程、家の用事で領に戻っておりましたので、学園を欠席しておりそもそも王都におりませんでした。次に突き飛ばされたという日は、その日も同じく学園は欠席しております。宮廷で貴方様が溜めていた執務を私が代わりに行っていたからです。これの証言者は宮廷の各部署の方々です。そして暴言を言われたという事ですが、暴言ではなく、貴族社会において当たり前とされている常識をお教えしていたのです。証人は私の親友ですわ。まだありましたわね。階段から突き落とされた、その日も貴方様の代わりに執務と視察を、貴方様の弟君である第二王子のユベール殿下と一緒に行動しておりましたので、ユベール殿下と側近方が証人です。次、教科書を破られた辺りからは学園には来ておりません。ずっと宮廷にて、誰か様が溜めに溜めていた執務を行う為、執務室に詰めておりましたので破りようがありません。これの証人は誰か様の侍従と各部署の方々です。彼等に誰か様が溜めた書類をどうにかして欲しいと直々に懇願されましたので。まだ続けますか?」
私が淡々と事実を述べていると、あちらは呆気にとられ、周囲の皆様は第一王子達を冷ややかな目で見ていました。
はぁ。話を過ぎて喉が渇きましたわ。
そろそろ終わってほしいですわね。
ところがそう簡単にはいかないのがこの展開だ。
案の定始まった。
「酷いですわ! 私が何をしたというのです! ずっと陰で私の事を苛めておきながら⋯⋯ジェット様、あの方平気で嘘をついています! 怖いですわ!」
「あぁ、そんなに泣かないで、ラス。あの愚かな女は此処から追い出すからね」
うっわぁ⋯⋯気持ちわるっ!
あっといけないいけない、言葉遣いが⋯⋯。
はぁ、あの想い人の中身のない言葉も、あの頭空っぽな阿呆王子も⋯⋯。
本当にどうしたらいいのかしら。
事実を述べても懲りない、というか全く分かっていないのね。
あのような人達ってどのようにあしらえばいいのかしらね。
難しいですわ。
「おい! 何をしている! さっさとあの女を摘み出せ!」
「「「⋯⋯」」」
あの阿呆王子の言葉に誰も動きませんよ、残念ながらね。
ただ、側近が動こうとしたので、逆に陛下の手の者に止められていました。
「そこまでだ⋯⋯」
「父上! ようやくあの女との婚約破棄を認めていただけるのですね! ラス、これでやっと一緒になれるよ!」
「まぁ! 嬉しいですわ!」
うわぁ⋯⋯感心するくらい前向きに受け取りましたわね。
流石の陛下も頭を押さえているわ⋯⋯。
「お前は少し黙れ。そして出ていくのはお前とフィセル子爵令嬢だ。セレスティーヌ嬢は事実無根だからな。だが、お前との婚約は白紙にする。そして第一王子、クルジェットには白銀棟での謹慎を申し付ける。側近たちも同様だ。連れていけ!」
「「「はっ!」」」
陛下のお言葉で阿呆王子達一行は連れていかれた。
勿論令嬢も同じく連行された。
ちなみに白銀棟は王族のみならず、貴族達がそれなりの事を犯した時に収容される言わば貴族版の牢屋だ。
連れていかれる時、皆騒いでいたけれど、騎士には全く力では歯が立たないので、呆気なく此処から居なくなった。
ようやく静かになったわ。
「我が愚息が騒がせてすまない。特にセレスティーヌ嬢には申し訳ない事をした。卒業生の皆には気にせず最後まで楽しんでほしい」
「陛下、私に非が無いとは言え、この場を騒がせたことに違いありません。私も退室したく存じます」
何よりも疲れたので早く帰りたいのです。
「令嬢には迷惑をかけたな。屋敷でゆるりと休むがよい。この件に関しては後日話がしたい。日取りは公爵に伝えるので一緒に王宮へ来てくれると有難い」
「畏まりました。では御前失礼いたします」
そのままホールを出て馬車を待たせている広場に向かう。
そこには私の従者がいて、こんなに早くに戻ってくるとは思っていなかったのでとても驚いていた。
「お嬢様、このように早く何か問題でも?」
「ふふふ、あったわよ! ようやく解放されたのよ! やったわ!」
「なるほど、それはようございました!」
内容は何も話していないけれど、優秀な彼は何の事か直ぐに分かったのか一緒に喜んてくれた。
優秀だわ。
どこかの誰かとは大違いね。
「本当にね! こんなに嬉しい事はないわ! 早く帰りましょう」
「畏まりました」
はぁ、やっと息ができるわ。
やっとよ! やっと解放された!
今夜はいい夢見られそうね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます