親子水入らず


 これまで親子でのんびりとお茶を楽しむ機会が今まで殆ど設ける事が出来なかったので、とても嬉しい。

 今日はお土産も買ってきたので、一緒に準備してもらうよう指示を出し、外出着から着替えてサロンに向かうと、既に皆様揃っていて私が一番最後で、お待たせしてしまったみたい。



「お待たせしてしまい、申し訳ありません」

「いいのよ。さぁ座りなさい」



 私がソファ席に着くと侍女たちが手早くお茶を準備し、準備をお願いしたケーキが並ぶと、お母様が歓声を上げた。

 色んな種類があったので、沢山買ってしまったので並べてみるだけでも目で楽しめる。

 買い過ぎかなと思ったけれど、そんな事もなく、買ってよかったわ。

 早速お母様が食べたいケーキを選び、侍女が取り分ける。

 お母様もケーキを二つ選び、お父様は一つ、お兄様達も先程食べたので、小さめのケーキを一つずつ選んでいた。

 私はというと、やっぱり悩んでしまう。

 先ほど二つ食べたので、一つをどれにしましょう。

 悩んだ末、イチゴをふんだんに使ったタルトに決めた。



「これはどこのパティシエのケーキかしら? 初めて見るわね」

「お兄様達と街を歩いているときにふと見つけた“レーヴ”という名のカフェのケーキですわ。私も初めて食べたのですが、とっても美味しかったのでお母様達にも食べて頂きたくて、つい買い過ぎてしまいました」

「これは、いくつでも食べてしまいそうな、甘さ控えめなのね。味も上品だわ」

「ふむ、よく見つけたね。これは流行っていただろう?」

「そうですね、私達がお店に入ったときは丁度席が空いたので直ぐに座れましたけど、周囲の話を聞く限りではいつもはもっと人が多いそうですわ」




 そう、丁度席が空いて本当に運がよかったわ。

 こんなに美味しければ貴族の間でも流行る事間違いないわ。

 カフェで食べるだけでなく、お持ち帰りできるところが嬉しいので、店員に話を聞くと、事前に注文を頂ければ用意できると、なのでお茶会を開くときにでも出すことが出来るところもポイントが高いので、お母様にもそうお伝えすると「それはいいわね!」と仰ったので、きっと次のお茶会を開くときにし注文する事でしょう。



「他に何を見てきたんだい?」

「宝飾品店でお買い物をして、ブティックにも行きましたわ。折角自由を手に入れましたので、また街へ行くための服と、最近ご無沙汰になっておりますが、またお兄様に鍛えて頂きたくて、訓練用の服の注文をしてきたのです」

「いや、セスは剣術はからっきしだろう? 何故訓練するんだ?」

「全く使えないよりはましの程度にはなっておきたいのと、運動不足になりたくないからですわ。魔術は流石に屋敷では訓練できませんでしょう? そうしたら必然的にそうなるのです」

「ふむ、それだったら今度魔術師団の練習場を使用できるよう取り計らおうか?」

「お父様、職権乱用はいけませんわ」

「職権乱用じゃないよ。私もたまには練習場に顔を出しているので、私と一緒に訓練すればいい」



 だから、それが職権乱用というものなのですよ、お父様。

 あまり喜ばしい事ではないけれど、そうしないと訓練できないのも確か⋯⋯、ここはお父様に甘えておきましょう。



「それにしても、貴女が宝飾品を購入するなんて珍しいわね」

「そうですね。たまにはいいかなと思いまして⋯⋯」

「ふふっ。ちょっとは女性としての意識が高まってきたのかしらね。⋯⋯普通は婚約者がいた頃の方がそういう意識は高まるはずなんだけど。相手が相手でしたからね。それも仕方が無いことだわ」




 お母様も中々の毒舌具合です。

 まだプレゼントの事は秘密なので、言えませんが、仕上がったときの皆様の反応が楽しみだわ。



「それで、街は楽しかったかい?」

「はい! とても楽しかったですわ。本当に久しぶりだったので、私が記憶している街とやはり変わっておりました」

「すまないな。お前には長い間不自由な思いをさせた」

「お父様、その話は終わりです。もう過ぎたことですから。私はこれから自由を謳歌するのです! ですので、暫く婚約とかのお話は一切受けないでくださいませ」

「分かったよ。だけど流石にずっと、と言うのは無理があるぞ。⋯⋯私としては手放したくないのが本音だが」



 お父様が私を溺愛して下さるのはとても嬉しい。

 そして今回の件があるので、早々直ぐには話は来ないでしょう。

 というか、来てほしくない。

 まぁ、話が来てしまったら⋯⋯ふふっ、その時に対処するだけよ。



「私の事よりも、お兄様はどうなのです?」



 そう、私の事よりもお兄様はどうなの?

 私の一歳年上のお兄様はまだ婚約者がいらっしゃらない。

 まぁ女性と比べて男性なので婚姻が遅くて何も言われはしないのだけれど⋯⋯

 浮いた話が一切ないのよね、私のお兄様には。

 


「私は今仕事が楽しいからまだ必要ないかな。それに父上が若くて健在だから急ぐ必要も無いしね。⋯⋯そんな事を聞くなんて、セスは私が他の女性に取られてもいいの?」



 何その聞き方!

 お兄様、妹としてはお兄様の側に居たいです!

 ですが、それではお兄様の名誉にきずが付いてしまう。

 シスコンは程々に⋯⋯って、そんな捨てられたようなお顔をされては口に出して言えない!



「私もお兄様には側にいて欲しいですわ。変な女性に引っかかってほしくはありません」

「あぁ、周囲には変な女もいるからね。気をつけるよ」

「お気をつけてくださいね」



 これはまだまだお相手見つけるのは先ですわね。

 お父様達も急かすことはせず、まぁ急いで変な相手を見つけるよりはまし⋯⋯といっても、お兄様の事だから変な女には引っかからないでしょう。

 どちらかと言うと捕まったお相手が大変かもしれないけれど。

 


「リアンは気になる方とかはいないのかしら?」

「僕もそういうのはいいです。もう本当に面倒臭くてたまりませんから」

「あら、学園でなにかあったの?」

「がめつい女が多くて嫌になりますよ、母上」

「最近の子は礼儀がなっていないのかしら?」



 まぁ、私がそれを体験しておりますので、彼女達を庇う事は出来ません。

 するつもりも毛頭ないけれどね。



「そうですね、少々甘くなっている方々が多いような気がしますわ。あまり緩くなりすぎますと他国、友好国以外の方々には余計付け入るスキを与えてしまうかもしれませんわね」

「ふむ、教育が甘くなっているのか⋯⋯、学園の教育はどうなんだ?」

「そうですわね。学園は特に、変わりなく思いますが、ですが相手に注意を出来る人が少なくなっているように思います。見て見ぬふりをしている方が多いですわ。そして正々堂々とではなく、陰でこそこそと⋯⋯」

「各家庭の教育が甘くなってきているのか、人の顔色ばかり伺い過ぎて何も言えないか。まぁどちらにしても少し貴族達、親世代もそうだが子供達の気を引き締める必要があるな」



 難しい問題ですわね。

 家庭の教育には流石に口出しは出来ないし。

 一つ手があるとしたら、社交界で話題に引き出し苦言を呈するか⋯⋯

 それが出来るのは、王妃殿下のお茶会や三大公爵家が開くお茶会等ですわね。

 今の三大公爵家はとても良好な関係なので、お母様からそれとなく話題に上がるように手を回せば見直しされるかもしれません。

 まぁこの件に他の二公爵家が賛同するかは分かりませんが⋯⋯いえ、賛同いたしますわね。

 あのお二人方、夫人たちを怒らせると中々怖いのですよ。

 ちらりとお母様を見ると、私と同じことを考えていたようで、私に任せなさい、というような笑みを浮かべていた。

 だけど何か企んでいるような笑みでもあります。

 これは⋯⋯巻き込まれるかもしれないわかせ。

 そうなったら諦めるしかありませんね。


 さて、楽しいお茶会は過ぎていき、夕食を家族そろって頂きます。

 今日は数年ぶりに一日家族と一緒に過ごし、とても楽しく、幸せな一日で本当に久々に心から笑えた気がする。

 明日からはリアンはきちんと学園へ行きなさい、とお母様に釘を刺されて渋々頷いていたわね。

 といってももう少ししたら学園も休みに入りますので、また一緒に過ごすことができるので、少しの我慢なのだけど。

 お父様は勿論お仕事がありますし、ジルお兄様も同じくお仕事、そしてお母様は早々に実行に移すようでお茶会を開く算段をされていた。

 私はと言えば、丸一日読書三昧。

 だけど、夜はきちんと寝るわ!

 でないとまた叱られてしまうからね。


 そして翌朝、朝食を皆で頂いた後は、部屋でゆっくりと読書の時間。

 ロゼに淹れてもらった美味しいお茶を堪能しつつ、読書に耽ります。

 午後からはお天気がいいので庭園で同じく読書三昧。

 そうして一日、また一日と日が過ぎていきました。

 自由っていいわね!

 好きな事を一日中出来るなんて!

 こういった時間が本当に大切よね。

 そうやって楽しい時間なんてあっという間に過ぎていき、気づけば王宮へ赴く前日となっていた。

 今日は私の自由を楽しむ最終日。

 ここ数日読書を楽しんでいたけれど、今日は注文していた宝飾品が出来たと連絡があったので、昼食後に街にロゼと共にお店に足を運び、不備があれば直ぐに直して貰う為に品を確かめていた。

 一つ一つ丁寧に確認をし、細工も凝っていて私がお願いした通りに仕上がっていたのでとても満足。

 少し急かして作ってもらったので、チップも弾んでおく。

 何を注文したかは後でのお楽しみです。

 この次は⋯⋯この間のカフェにロゼとカフェに行きましょう。



「ロゼ、次はこの間のカフェに行きましょう!」

「この間の、と言いますと、ジルベール様達と一緒に行ったというカフェですか?」

「そうよ。一緒にお茶をしましょう」

「お嬢様とご一緒できるなんて光栄です」

「いつもお世話になっているし、ロゼにもあのケーキを堪能してほしいわ」



 ロゼは元々男爵家のご令嬢だったのですが、二年前に結婚した後も、こうして私に仕えてくれているのでとても助かっている。

 因みにその結婚相手は同じくクレージュ家に仕えてくれている、ジルお兄様の補佐官で名をメルヴィン・モーリア、モーリア伯爵家の三男だ。

 三男なので家を継ぐこともなく、成人と同時に家を出て公爵家に従事しているので彼も公爵家に来てそれなりに経つ。

 ロゼには今まであまりお礼を出来ていなかったので、こうやって二人で出掛けたときにお礼をしたいと思っていたので、やっと機会が巡ってきて良かったわ。

 この間と同じくらいの時間にお店に着くと、この間よりも人が多く、少し待ってからお店に入店し、早速注文をするのだけれど、ロゼもケーキをどうしようかとても悩んで、私と同じ二種類選べるプレートにし、ケーキは私とは別々のものを頼んだので、どんなケーキが来るかとても楽しみ。

 少ししてからケーキと飲み物が運ばれてくると、いつもの仕事中の感じと違ってロゼも顔を綻ばせていたのを見ると、来て良かったと感じる。



「お店で注文するとこのような凝った盛り付けで出てくるのですね。ただケーキが乗っているだけでなく、季節のフルーツまで可愛く盛り付けされていて、見た目も楽しめますね」

「味もよく、視覚からも楽しめるの」

「なるほど、流行るわけですね」

「早速いただきましょう」



 今日も安定の美味しさです!

 ロゼが嬉しそうに食べているのを見て私も嬉しくなります。

 今日のお土産は今日はケーキではなく、焼き菓子を買って帰ろうかしら。

 この間はケーキだったし、うん、そうしましょう。



「ロゼ、もう少しゆっくりとお話したいのだけれど、お外にはまだ待っている方々もいらっしゃるし、お店を出ましょう」

「はい、お嬢様」



 食べ終わり、ロゼとはもう少しお話したかったけれど、まだ外には待っている方もいるので、私達はお土産を買って早々にお店を後にした。

 今日の予定はこれだけだったので、屋敷に戻り、今日は家族が皆揃って夕食を頂けるということなので、食後にプレゼントを渡そうと整理し、そわそわとその時を待ちます。

 お父様達、喜んでくれるかしら。

 時間が過ぎ、お父様達が帰ってきて全員揃ったところで夕食をいた後にゆっくり話ができるように食堂から部屋に移動し、その時にロゼにプレゼントを準備してもらうよう伝える。

 部屋に届くまではお父様達と今日の出来事を話ししていると、ロゼが戻ってきた。

  


「お父様、少しよろしいでしょうか」

「どうした?」

「実は、お父様達には今回の件で大分ご迷惑をお掛けしてしまいましたし、今迄も沢山助けて頂きましたので、お礼を兼ねてプレゼントを用意しましたの」



 私はそう言うと、お父様達に手渡しで渡していく。

 もちろんお兄様とリアンにも渡すと、とても嬉しそうに微笑んでいた。



「そんな事を気にしなくてもいいのに⋯⋯可愛い娘を助けるのも、迷惑をかけられるのも大したことではない」

「セスったら⋯⋯もしかして珍しく宝飾品店に行ったのはこれの為かしら?」

「はい。お母様のお察しの通りです」

「折角の娘からのプレゼントだ。開けてもいいかい?」

「気に入っていただけるといいのですけど」



 お父様にはカフスボタンを、お母様には髪留め、ジルお兄様にはブローチ、リアンにはお兄様と同じくブローチを、そして私自身の分にはピアスを購入したのです。

 デザインも皆似たものにして、宝石もお揃いです。

 ブローチは色んな所に付けれるように小ぶりで、タイを止める時にアクセントにも出来ますし、勿論襟元に付けてもおかしくないようなデザインにしてみました。

 


「家族全員お揃いとは、セス大切に使うよ。ありがとう」

「どれも素敵な意匠ね。これは貴女が考えたのかしら?」

「はい。宝石からすべて共通したデザインにしたくて私が考えましたの。気に入って頂けて良かったですわ」

「私とリアンが一番似ているね。だけど似ているだけでなく、品があって使いやすそうなところもいい。大切にするよ」

「僕も大切に使いますね! 姉上ありがとうございます」



 皆に気に入って頂けて、本当に嬉しいわ。

 夜会で全員お揃いで出席したいと思ってしまうほどにね。

 私は暫く遠慮したいところですが⋯⋯



「実は私からもプレゼントがあるんだ」



 ジルお兄様はそういうと、小ぶりの箱を私に渡してきたので、お礼を言い早速開けてみると、そこには華奢で繊細なデザインのクレージュ家の瞳の赤、お兄様が選んだのはまさかの私と同じレッドベリルと、お母様の瞳の色のアクアマリンの二つがはめ込まれたブレスレット。

 


「ジルお兄様、ありがとうございます。とっても素敵ですわ」

「いいよ。今まで耐えて頑張ってきたからね。本当にお疲れさま」

「ジルは本当に妹思いね」

「当たり前ですよ、母上。それに明日からまた大変でしょう?」

「大変って、何が大変なのでしょうか?」



 明日からは週三回でユベール殿下の補佐に着く初日。

 毎日という事も無いので大変も何もないと思うのですけど?

 何かあるのでしょうか。



「補佐の事ならそう大変でもないだろう。セスの能力ならな。大変というのはまぁ噂の事だな。それも無視していい。もし面倒な輩がいたら言いなさい。こちらで対処する」



 それって、この間の騒動の件ですか⋯⋯

 きっと面白おかしく噂しているものがいるのでしょうね。

 陰でこそこそ噂する事しかできない小物を相手にする必要ないわね。



「セス、明日は私と共に王宮へ行き、まずは陛下にお会いするからそのつもりで居なさい」

「分かりましたわ」



 今日で自由時間は終わり。

 明日からは殿下の補佐として働くので、また気を引き締めないと。

 王宮は魔窟だから、気は抜けないわ。





 

 


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