嬉しい話と面倒事


 私はお父様と共に陛下の執務室を訪れていた。

 今日からユベール殿下の補佐として働くので、そのご挨拶も兼ねて⋯⋯なのだけど、何故かお茶を楽しんでいるこの状況は一体⋯⋯。

 ちなみに今日は学園がお休みなのでユベール殿下もこの場にいらっしゃるので殿下にもご挨拶をした後ソファへと座った。



「セレスティーヌ嬢、一週間の休息は恙無く過ごせたかな?」

「はい。お陰様で楽しく過ごせましたわ」

「それは良かった。では今日からユベールの補佐として従事してもらうわけだが、当初の予定通り週三日で良い。しかし、セレスティーヌ嬢の能力を遊ばせておくのはかなり勿体無いので、令嬢が良ければもう一つ仕事を頼みたい」

「陛下、娘を扱き使うなと言った筈ですが? もうお忘れになったのですか」

「待て! 忘れてないしそう怒るな。扱き使おうとしているわけじゃない!」



 その陛下のお言葉をお父様は胡乱気に見ていた。

 コホンと気分を変えるように咳をすると、陛下は私達に説明を始めた。



「ユベールの補佐だけでなく、もうすぐ弟が帰ってくるんだ。ついでにあいつの補佐も頼みたい。というか、こっちが本命だ」

「フォルジュ大公殿下がお戻りになられるのですか?」

「あぁ。朝一番で手紙が届いた」



 フォルジュ大公殿下は陛下の四つ下の弟君、クロヴィス・ミエル・フォートリエ・フォルジュ大公殿下の事で、この国フォートリエは隣国ミュルデルとの小競り合いが続いていて、そこに大公殿下が対応されていらっしゃったのですが、それがようやく終わりお戻りになるようだ。

 ちなみにご紹介がかなり遅れましたが、陛下のお名前は、グラシアン・ネージュ・フォートリエ陛下。

 遅すぎる紹介で申し訳ないです。

 忘れてたわけじゃないのよ。

 話を戻して何故私がクロヴィス様の臨時補佐官への話に戻りましょう。



「ミュルデルとの小競り合いもようやく終結し、後始末も終わったので戻ってくる。ただ、あいつの補佐官の二人が暫く見張りで残してくると言っていたから、こっちで即動ける者が必要なのだ。そこで、セレスティーヌ嬢の出番というわけだ」

「セスは優秀だが、流石に殿下の即戦力には難しいでしょう」

「いや、お前も知っての通りあいつは人の好き嫌いが激しいからな。あの偏屈を相手にできるのはセス嬢しかいないだろう。あいつもセス嬢なら文句は言わない。⋯⋯むしろ喜ぶ」

「陛下、まさかとは思いますが?」

「まぁ、そこはあいつ次第だろう? あいつもいい年なんだ。俺達がどうこう言う問題じゃない。⋯⋯まぁ気になるといえば年齢だよな」



 陛下とお父様は学園からの親友同士なので、たまにこうして口調が軽くなるのですが、一体何のお話をされているのでしょうか。

 最後のお話は私にはさっぱりですので、まぁ無視しておきましょう。

 たけど、クロヴィス様が戻られるのは嬉しいわ。

 補佐が務まるかは分からないけれど、私で良ければ受けたいと思う。

 寧ろ頑張るわ!



「で、どうかな、セレスティーヌ嬢? 受けてくれるかな」

「私で良ければ、喜んでお受けいたします」

「よし! あいつの喜ぶ顔が見られるな! いやーいい仕事をした」

「おい! やっぱりそっち狙いか!」

「落ち着けって。俺は可愛い弟の為にちょっと動いただけだ。後は知らん」

「そこにセスを巻き込むな!」

「いや、セス嬢も嬉しそうにしてるじゃないか」



 陛下達が何のお話をされているかさっぱりわからないけれど、大公殿下は尊敬出来る方なので、そんな方の補佐官としてお仕事出来るのは本当に嬉しいわ。

 お父様は何か言いたげな顔をしているけれどね。



「さて、この話は一旦終いだ。此処からはこの間の件だが⋯⋯」



 この間の事ってあの阿呆王子と残念令嬢の事ね。

 陛下のお話では令嬢と離れたことで、王子は少し冷静さを取り戻した様子だけど、少しの反省をする程度で私への謝罪の気持ちとか、そういったものは皆無らしい。

 あの場で婚約破棄を言い渡したことについては多少なりとも悪いと思っているようだけど、ただそれだけだと。

 まだあの令嬢の事を気にしているのか、口にするのは彼女の事ばかり。

 側近達に関しては冷静に、何故王子を諫めなかったのかという反省と、何故そこまであの令嬢に肩入れしたのかと、自身でも分からないのたとか。

 何か裏がありそうよね。

 これはあれかしら、よく聞く魅了とかそんな類の物が使われていたり⋯⋯?

 魔術だと痕跡が残るからもしそうなら既に分かっているだろうし⋯⋯そうすると香水?

 いえそれなら匂いですぐに分かるわね。

 だったら魔道具かしら。



「セス、何か気になることでもあるのか?」

「いえ、気になるといえばあるのですけれど、その前に令嬢は今どのような感じなのでしょう?」

「今は牢獄に収監中だが、取り調べではただただ愚息の事を気にしているだけだな」

「彼女は香水とか、何かつけていましたでしょうか? 若しくは魔道具的なものは⋯⋯」

「あぁ、魔道具は持っていなかったな。香水はつけていたようだ。甘ったるい匂いが酷いと言っていたな。それももう殆ど無くなったようだが⋯⋯」

「その匂いを嗅いだ騎士達には何も異変はなかったのでしょうか?」

「特にそのような報告は無いな」



 香水ではないのかしら。

 それとも効果が薄れているとか、あぁ、取り調べをする者達はもしかしたらそういったモノを無効にする魔道具を身に着けているのかもしれない。



「セレスティーヌ嬢?」

「申し訳ございません。少し考え事を」

「セス、何を考えていた?」

「憶測で申し訳ないのですが。もしかしたら、王子やその側近達は魅了にかかっていたのではと思いまして」

「あぁ、その可能性は大いにある。ただ魔術を掛けられた痕跡はないから、セス嬢が気にしていた香水等の可能性もあったが、それも違うようだからな。他のものかもしれない」

「という事はすでにお調べになられているのですね」

「調べている最中、と言ったところだな。物が無ければ物的証拠にならんからな」



 確かに。

 地道に調べないといけない、という事ですね。

 自供してくれると早いですけど。



「側近達に関しては、今の所は監視付きだが各家庭で再教育となった。愚息に関してはまだ暫く監禁だ。仮に魅了されていたのであれば、まずそれを完全に抜かなければならん」

「少し時間がかかりそうですね」

「そうだな、今回のはそれだけではないだろう。これも進展があればまた報告しよう」

「はい。ありがとうございます」

「では、ユベールの件だが⋯⋯」

「ようやく僕の話ですか」

「なんだ、拗ねたのか?」

「そのような事はありません。ですが尊敬するセスお姉様が補佐に付いてくださるなんて嬉しくて早く話をしたいと思っていただけです」

「ユベール、セス嬢はもうあいつの婚約者ではないからお姉様というのはどうかと思うぞ」

「分かっています。けど、僕にとっては尊敬するお姉様です」

「殿下、お気持ちは嬉しいのですが、流石に公ではお呼びにならない方がよろしいですわ」

「その時はきちんとクレージュ嬢とお呼びしますので安心してください」

「分かっているならいい」



 ユベール殿下は可愛らしく素直な方なので、恐れながら弟がもう一人いるようで可愛がってしまいそうになり、いつも自制するのが大変。

 それはさておき、週三日という事だけれど、最初は各日だと仕事に支障をきたしそうなので、三日続けてユベール殿下の元で働くことになり、残りの四日を大公殿下がお戻りになったらそちらで働く、勿論休日はあるけれど、それは大公殿下と決めるため、お戻りになられるまでは取り敢えず週三日の勤務で決定した。

 陛下達と話が終わったので、私はユベール殿下に付き添い、殿下の執務室へと向かった。

 殿下の執務室に着き中へ入ると、そこには二人の側近候補がとても忙しそうにしている。

 兄があのような事を仕出かしたので、兄が受け持っていた執務の殆どがユベール殿下に来てしまったのね。

 まだ十歳という年齢ですけど、兄よりも弟の方が優秀、といってもこの量は流石にないわ。



「慌ただしくてすみません。僕の側近候補とはもう面識もあるので紹介は省きますね。お姉様には早速手伝って頂きたいのです。流石にこの量を捌き切るのが難しくて。それと、この二人にお姉様の効率のいいやり方を教えて欲しいのです」

「畏まりました。これは⋯⋯思ったよりも中々の量ですわね。私のやり方でよろしいでしょうか?」

「勿論です」

「畏まりました。では早速お二人に聞きますが、仕分けは済んでいるのかしら?」

「こちらはまだ仕分けが済んでない分で、こちらは殿下に目を通していただきたい書類になります」

「分かりました。先ずはセネヴィル卿は殿下の手伝いを。ブラジリエ卿は私の仕分けを見て覚えてください。交代で覚えてもらいますね」

「「はい! よろしくお願いいたします」」



 補佐の二人は十四歳と十三歳でお二人共に学園の後輩。

 十四歳のカミーユ・リム・セネヴィル、セネヴィル公爵家の嫡男。

 もう一人はフロラン・ブラジリエ、ブラジリエ伯爵家の次男で二人共優秀なのだけれど、流石に急に執務の量が増えると捌ききれないようね。

 私は仕分けできていない書類に目を通しながら重要案件とそうでないもの、更に期日の早いものとそうでないものに分類し、メモを挟みます。

 そのやり方をブラジリエ卿は真剣に確認しているのが印象的で、やる気十分で好感が持てる。

 書類を確認していると、中には違う書類も混ざっていたのが数枚あり、ブラジリエ卿に書類を届けて貰うついでに少し早いけれど先に休憩に行くように伝えると、「殿下やカミーユ様を差し置いて先に休憩なんて!」と恐縮していたけれど、仕事をしているので関係ないので「気にしていては休憩なんて行けませんよ」と殿下の執務室を追い出した。

 その後、セネヴィル卿の仕事具合を見ながら私も急ぎの書類に目を通し、時には殿下の質問や相談に乗りながら捌いていく。

 休憩から戻ったブラジリエ卿を入れ替わりで、セネヴィル卿に休憩へ行くように伝え、ブラジリエ卿には先程のセネヴィル卿の続きを引継いでもらう。

 そうやってお二人の仕事ぶりを確認しつつ、指示をだし、時には教えていく。

 そしてセネヴィル卿が休憩から戻ってきたので、殿下に休憩をとっていただく。

 殿下は私に先に行くようにと仰ったのですが、まだ十歳でいらっしゃるので、あまりお昼を大幅に過ぎてしまうとご成長に支障をきたすのはよくありませんので、お先にと伝えると渋々食事をしに部屋を移動された。

 それなら何故一番初めに休憩に行かなかったのか、と思うかもしれないが、殿下には下の者達への気遣いを、二人にはその時により先に休憩を取り効率を上げることを覚えてもらう為だ。

 殿下がいらっしゃらない時間にご覧になった書類等を各部署に届けるよう伝え、私は気になっていた書類に目を通す。

 この書類は殿下に、ではなく父が私に回した書類なのだけど、少し面倒なものだった。

 その面倒な書類というのが例の騒動に関してなのですけど⋯⋯どうしましょうか、これ。

 内容は、阿呆王子の元側近達の親からの要望書。

 その要望というのが、私の元で扱き使ってやってほしいとの事。

 私がこれから忙しくなるという事を耳に挟んだのか、ユベール殿下の執務を手伝う週三日間の間、同じく私の自由に使っていいと。


 

(面倒くさい! 熨斗をつけて返品するわ。断固受け取り拒否よ!)



 そう声を大にして言いたいけれど、陛下とお父様からの手紙には、この件に関しては私が決めるようにと、そして明後日私に会いに王宮へ来ると記載されていたのを見る限り可否を直接言わないといけないようね。

 まぁその会う時はお父様も一緒だと言う事ですが⋯⋯

 一体何をお考えなのでしょうね。

 面倒ではあるけれど、皆様一体何を話すのか楽しみね。

 とんでもない事を言ってきたら一刀両断すればいいだけの事よ。

 

 さて、この件は置いといて、殿下の執務が優先です。

 暫く黙々と書類と睨めっこしていると殿下が戻られたので二人に指示を出して私は休憩を頂く。

 そしてその休憩を有効活用する為、お父様の執務室へと足を進める。

 勿論先触れは出してありますので、失礼には当たることはないしきちんと返事を頂いているのでお父様の、宰相執務室へと着くと直様中へと通される。

 


「失礼致します」

「セス、ソファに掛けて少し待ちなさい」

「はい」



 ソファに掛けると、侍従がお茶と軽食を準備してくれたのを見て不思議に思い彼を見ると「閣下の指示です」と一言。

 私がお昼を食べていないことはお見通しだったみたい。

 お礼を言い、早速頂きます。

 食べやすくサンドイッチで主に野菜を挟んでいるので程良くお腹が満たされる。

 そして自然な甘みがあるフルーツティーに癒やされる。

 私がお腹を満たされたのを見計らったかのようにお父様がソファに移動してきた。



「セスの用事はあれかな?」

「そうですわ。あれです。何故了承されたのですか?」

「私が喜々として了承したと思うかい?」

「いいえ」



 お父様が何もなく了承したとは思っていません。

 ですが、何かしら企んではいらっしゃることでしょうが質問に質問で返さないで欲しいです。



「なにをお考えでいらっしゃるのですか?」

「セスにはあれの元側近三人を矯正して欲しい。今回馬鹿をやらかしたが、元々の素質は悪くないから矯正できればユベール殿下の補佐官に抜擢することも出来るし、違う場面でも使えるだろう。だが、そこで矯正できなければ⋯⋯この先期待は出来まい」

「その矯正期間はどのくらいお考えなのでしょう?」

「私の中では少し長い目で見てまずは三ヵ月」

「お父様にしては甘すぎる位長い期間を設けましたね」

「まぁ、な⋯⋯」



 あぁ、これは陛下からの支持なのですね。

 そして各親からの嘆願とここで少し慈悲を見せておいて、後の判断で何かしら地獄に落とす⋯⋯といったところでしょうか。

 ですが、その三ヵ月間の私が犠牲になる⋯⋯

 これは、何か要求してもよろしいかしら。

 私には何の得もないし、寧ろストレスが溜まりそうね。

 表情にそれらが出ていたのか、お父様は苦笑されてしまった。



「セス、言葉通り遠慮なく扱き使っていい。どんな些細な事でも遠慮せずに使え。期間内であっても使えなければ切っていい。後の判断は明後日実際会ったときに決めていいし、最終判断はセスに任せる」

「分かりましたわ」



 取り敢えずは明後日の様子見せてから決めましょう。

 あまりお父様のお仕事をお邪魔するわけにもいきませんしね。

 私は早々に殿下の執務室へと戻り、残りの時間で溜まっている執務を出来るだけ片付けることに専念した。


 

 

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