休日の始まり


 ユベール殿下の補佐に付くのは一週間後となったので、それまでは自由を満喫する。

 まずは、お買い物がしたいのだけど⋯⋯

 よく考えると、直接お店に出向くなんてもう何年前の事なのと言いたい位前の事なので、久しぶりに直接王都の活気を直で味わいたいし、色んなお店を見て回りたいという欲求に素直に従い外出をした。

 もちろん私は公爵家の者なので、直に見に行くことをしなくてもいいのだけど、来てもらうのとこちらから出向くのでは全く気分が違うので、それになによりも王都を歩きたい!

 一人で外出は流石にさせてもらえないので、付添はいるけどね。

 因みに付添とはジルお兄様。

 ジルベール・ルイ・クレージュ、クレージュ公爵家の嫡男で次期公爵。

 現在王宮にてお父様の補佐として勤務しているのてすが、お兄様もお父様と同じく文武両道で、騎士団や魔法師団の方々は引き抜こうと躍起になっていらっしゃるとか。

 流石は自慢のお兄様です。

 今日は私に付き添うため休暇を取ってきたと、お父様と同じくやり手なのですよ。

 他にも見えないところで護衛の為に付いてきている人達はいるけどね。

 気兼ねなく楽しめるようにと姿は隠してくれている。



「久しぶりだね。セスとこうして出掛けるのは。あのバカのせいで兄妹で出掛けることもままならなかったからね。だけどこれからはいっぱい出掛けようね」

「お兄様、今日はありがとうございます。私も一緒にお出掛けすることができて嬉しいですわ」

「まずはどこに行こうか?」

「そうですね。宝飾品を見たいのですわ」

「珍しいね。セスが宝飾品に興味があるなんて⋯⋯」



 お兄様がそういうのも無理はないのですが、私としては別に私自身の宝飾がほしいという訳ではないのです。

 これは後のお楽しみなので、お兄様には秘密。



「私、これでも女ですので、たまにはみたいと思うのですよ」

「では私が選んでもいいかな?」

「お兄様に選んでいただけたら嬉しいですわ」



 私自身のはお兄様に選んで頂いて、その空きに選んでしまいましょう。

 話をしていると公爵家お抱えの宝飾品店に着いた。

 お兄様にエスコートしてもらい店内に入ると、教育が行き届いた店員が出迎え、私達は二階にある特別室へ案内されるのですが、一階は手の届きやすい宝飾類が、二階は希少価値の高い宝飾類や純度の高い宝石、細工が置いてある。

 個室も完備されているけれど、私は自身で店内を見て回りたかったので、少しお兄様とは別々に一つ一つ見て回る。

 宝石のみ売っていたり、凝った細工のしたアクセサリーから様々な種類が取り揃えられている。

 私は先ずは宝石から選ぶのだけど、どれにしようかしら。

 やはり、公爵家特有の瞳の色と同じ赤系の宝石にしましょう!

 これならお母様もお喜びになるわ。

 後は赤でもどの宝石にするか⋯⋯

 んー⋯⋯あっ! 良いものを見つけたわ!

 ふふっ、宝石はこれに決定ね。

 レッドベリル。

 宝石言葉も魔窟な王宮で働くお父様達にぴったりね。

 先ずはこれを魔力を込めてから加工してもらうのだけれど、ちらりとお兄様を見たらまだご覧になっている様子。

 お兄様も真剣に考えていらっしゃるようなので、お兄様にひと声かけて個室を用意してもらい、私はそちらへ移動する。

 お兄様がここに来ないよう、店員さんに念押しして、ささっと加工してしまいましょう。

 一つ一つ丁寧にお父様達の安全を願いながら魔力を込める。

 家族分なので少し量があるが、手抜きはしないし、私も公爵家に恥じない程の魔力はあるので大したことないのよ。

 そうして出来上がった宝石を、私を含めた家族分アクセサリーに加工してもらうよう依頼してここでの私の用事は終了。

 加工が終わったらまた取りに来るので保管してもらうようにお願いをしてお兄様の元へ戻ると、丁度買い終わったようでにこやかな笑顔を浮かべていた。



「セスの用事は終わったの?」

「はい。注文をしましたので、出来上がりを待つだけですわ」

「そうか。では次に行こうか」

「はい!」



 次に向かったのは本屋。

 まだ読んでない本はあるものの、注文していた本が入荷したという事なので今回は直接取りに来たのだけれど⋯⋯

 何故かそこには弟のリュシアン・メル・クレージュが私達二人を待ち構えていた。



「兄上、姉上。僕だけ置いていくなんて酷いですよ!」

「いや、今日は学園だろう? 何をしているんだ」

「大丈夫です。成績は常にトップですので、一日休んだからと言ってどうにもなりません! それより、せっかく姉上が自由になったのに僕だけ除け者なんて酷すぎますよ! どうして誘ってくれなかったのですか」

「リアンは学園があるからまた今度一緒に出掛けようと思っていたのよ。ごめんなさい。除け者になんて思っていないわ」

「来てしまったものは仕方ないな。リアン、今日だけだ」

「ありがとうございます!」  




 リアンも一緒に店内へと入り、今日は取り敢えず注文していた本だけを受け取り、本屋を後にする。

 その次は少し早いけれど昼食を頂くのに何処にしようかとリアンと話していたら、お兄様が既に予約しているところがあるとの事で、そちらへと向かうと、学園で密かに話題になっていたレストランで、私は行けないだろうと思っていた場所だったので、思わず嬉しくてお兄様に抱きついてしまった。



「セスは此処に行ってみたいと思っていたのを知っていたからね。ここで良かった?」

「勿論ですわ! とても嬉しいです。連れてきてくださってありがとうございます」

「此処、中々予約取れないところだよね? 兄上いつ予約取ったの?」

「リアンは知らなくていいよ」



 あっ、これは聞いてはいけない話だわ。

 お兄様ったら何を言って予約をもぎ取ったのかしら。

 というか、リアンと合流し、一名急に増えたけれど、人数は大丈夫なのかしら⋯⋯

 考えてもお兄様の事だから手抜かりはないものね。 

 私はそのお兄様とリアンと一緒にレストランに入り、すぐさま個室へと案内されるのですが、ここは全個室で、個室の内装それぞれ違うデザインになっているという店内も凝ったデザインなので、貴族達もお忍びで訪れるものが多いという話。

 勿論味も一級品で食事の内容はコースになっていて、その日によって違うということで、何度も利用する人がいるらしく、デート場所の一つとしても人気が高いのだとか。

 確かに個室だし、周囲を気にすることなく食事が出来るのは嬉しいわ。 

 今日のコースは王都では珍しい海の幸が使われていて、色んな魚料理が味わえ、何よりも初めて食べる料理もあり、お兄様達と楽しく話をしながらこんなに素敵なお料理を頂けるなんて嬉しいです。

 そして魚料理はやはり前世を思い出すわ。

 この世界の料理もあるけれど、中には白身魚を使ったカルパッチョやポワレ等もあるのだけれど、前世日本人の私としてはお寿司やお刺身等を食べたいと思うのよ。

 洋食より和食を欲してしまうのは許してほしいところ。

 魚介とお米が手に入れば作れるのだけれど、魚介よりお米を手に入れるのが難しい。

 この国とお米を主とする国とは交易が盛んではなく、まぁこの国から一番遠いので、中々此処までは入って来ないのが難点。

 残念すぎる。

 文句を言っても仕方がないので、我慢するけど、お肉が主のこの国でも魚は食べられるので、そこは有り難く思わなければならない。

 たけど、お米が恋しくなる時はあるのですよ。

 我儘は言わないですけど。

 心の中で思うことは許してください。

 食事が終わりデザートいただく。

 さっぱりとしたグレープフルーツのグラニテ。

 口当たりがよくて食後によく合うわ。



「どうだったかな?」

「ここまでふんだんに使った魚介のお食事が頂けてとても嬉しかったですわ。それにとてもおいしかったです。何よりもこうしてゆっくりとお兄様とリアンとのお食事が楽しくて! また来たいですわね」

「セスが楽しそうで良かった。久しぶりに素の笑顔が見れたよ」

「私、そんなに作り笑顔でしたか?」

「「ずっと作り笑顔だったから、あの阿呆を暗殺しようかと何度も思ったよ!」」



 あら、リアンまで⋯⋯

 物騒な兄と弟ですが、私も実は思っていたのでお二人を窘める事は出来ない。

 それよりも⋯⋯



「そんなに分かりやすかったでしょうか⋯⋯」



 いつも表情にはとても気を付けていたのに気づかれていたなんて⋯⋯自信なくしそう。



「いや、家族にしかわからない程度だよ。だから安心していい」

「よかったです」



 それを聞いて安心しました。

 厳しい王妃教育を受けてきたにもかかわらず、だめでした⋯⋯なんて流石に自分を責めたくなってしまうから。



「さて、食事も済んだし、次行こうか。セスはどこか行きたいところはあるかな?」

「ブティックに行きたいですわ。ドレスではなくて、街歩き用に仕立てたいのです」

「分かった。ではまずそこに行こうか」



 今まで街に来れることが無かったので、作らなかったけれど、これからはいつでも来れるので何着か作っておきたいし、何よりもこちらの方が楽なのです。

 後は久しぶりに身体を動かしたいので、それ用に数点。

 あっ、お兄様にお願いしていなかったわ。

 


「お兄様、お願いがあるのですが」

「何でも言ってごらん?」

「久しぶりに鍛えていただきたいのです。身体が訛ってしまいますから」

「構わないよ」

「ありがとうございます!」

「僕ももうすぐ学園が休みになりますから、一緒に鍛えてください!」

「勿論だ。リアン、遠慮はしないからな」

「はい! よろしくお願いします」



 実は剣術はあまり得意ではなく、だけど全く使えないよりはまし、といった程度に倣っていて、魔力が底を尽きた時に少しでも自衛するために倣っていて、まぁ私の魔力が尽きるくらいの危険な目に合うかといったら合わないかもしれないけれど、備えあれば憂いなし。

 ただ私が倣いたいだけというのもあります。

 ブティックに着くと、まずはソファ席に案内され、カタログを持ってきてもらい中を見てから、ちょっぴりデザインを変更する。

 全く同じというのは流石にしない。

 たとえ街歩き用、訓練用と言えども手抜きはしません。

 私はささっとデザイナーと打ち合わせをしてしまう。

 何故なら、こういったところに男性であるお兄様達を退屈させるのは私が気が引けるから、あまりお待たせしないようにテキパキと話を進める。

 お兄様達は「ゆっくり選んでいいよ」と言ってくれるけれど、私がお待たせするのが嫌なのです。



「お待たせいたしました」

「もういいの?」

「はい。もう済みましたわ」

「そうか。次はどこに行きましょうか? お嬢様」

「もう! お兄様ったら。お兄様達は行きたい場所とかはないのですか?」

「私は特にないよ」

「リアンは?」

「僕も特にないです。姉上の行きたい場所でいいですよ」

「そうね⋯⋯では、少しふらっと街を歩きませんか? 素敵なお店に出会えるかもしれません」

「いいね。そうしようか」



 久しぶりの街だからゆっくりと街を歩いてこの雰囲気を堪能したい。

 屋敷や学園、王宮にいてるとこれは味わえないもの。

 お兄様達とこうやって歩いているだけでもとても楽しく感じる、というのはやはり今までの鬱憤が溜まり過ぎているのかもしれません。

 訓練といったけれど、剣術だけでなく、考えたら魔術もぶっ放したいかも⋯⋯

 また言葉が乱れてしまいました。

 魔術師団に顔を出してみようかしら。

 流石に屋敷では無理ですものね。

 それにしても、活気があっていいわね。

 開放感をひしひしと感じられる。

 大分歩いたところで、いい雰囲気のカフェを見つけたので、少し休憩をどうかとお兄様達に提案すると、「いいよ」と、本当に今日は私のしたい様に付き合ってくれるみたい。

 チリンチリンッと涼やかなベルが鳴り響く。

 店内はとても開放的な明るい雰囲気で、やはり女性客が多く、私達が店内に入ると、お兄様達が珍しいのか、チラチラとこちらに視線がささる。

 お兄様もリアンも見目麗しいですものね。

 店員に席を案内され、早速メニューを見せてもらうと、とても美味しそうなケーキが沢山あり、見た目からも楽しめるものばかりで、とても迷ってしまう。

 私が楽しそうにメニューを見ていたものだから、お兄様達に笑われてしまいました。

 


「セス、いくつでも注文していいよ。食べきれなかったら私達も手伝うから」

「いいえ、流石にそれは、止めておきますわ。私は好きなケーキを二つ選べるプレートにしますわ。美味しかったらお父様達にも買って帰りましょう」

「ではそうしようか」



 早速ケーキの注文をして待つ事しばらくすると、メニュー表に載せてる絵と同じで、見た目がとても可愛らしいケーキが運ばれてきた。

 お兄様達も実は甘いものが好きだったりする。

 男の方でも甘い物好きな方は多いのよね。

 さて、前世ならここで映える写真を撮ったりするところなのだけれど、この世界にはそういった物がないので、目に焼き付ける。

 写真に残すのも素敵だけれど、こうやって目できちんと見てきれいなもの、美しい景色を心に記憶するのも大切な事だと思うの。

 そして肝心のお味ですが⋯⋯うん! とっても美味しいわ!

 甘すぎないクリームにフルーツの自然な甘みと合わさってもしつこくなく、そしてこれは⋯⋯ヨーグルトかな、少し酸味もあり、後に引かないのでこれは気を付けないと食べすぎてしまいそう。

 そして飲み物はストレートで紅茶を頂く。

 三つは食べれたかも!

 確実に太るでしょうけどね⋯⋯

 それにしてもほんとに美味しいわ!

 あぁ、幸せ。



「セスは本当に美味しそうに食べるよね。妹が可愛すぎるよ」

「兄上に同感です。姉上が可愛すぎて、ずっと家に居て欲しいです」

「それだったら、婿養子を貰うのも良いかもしれないな」

「そうですね! そして僕と一緒に兄上をお支えするのです!」



 二人して一体何を言っているのかしら⋯⋯

 私も出来るならずっと屋敷に居たいですけど、無理でしょうね。

 先のことを考えても仕方がないし、今はこの自由を大いに満喫することが大事なのよ!

 ケーキを美味しく頂いた後にお父様達のお土産を買い店を後にした。

 今日はゆっくりとお買い物とお食事を楽しんだのでそろそろ屋敷に戻ろうかな。

 

 屋敷に着くと丁度お父様も王宮から戻られたみたいで、屋敷に入らず私達が馬車から降りるのを待っていらっしゃった。

 それより、お仕事終わるのが早すぎません?

 いつもはお帰りが遅かったりするのに⋯⋯

 疑問に思いつつもお父様にお帰りなさいとただいまの挨拶をして一緒に屋敷へ入ると、お母様が出迎えてくれました。



「お帰りなさいませ」

「ただいま。変わりはなかったか?」

「特にありませんわ」

「そうか。子供たちも皆戻ったから、久し振りにこれからお茶でもしようか」

「いいですわね! 早速準備致しますわ。皆も着替えていらっしゃい」

「はい、母上」



 お父様の提案で皆でお茶を楽しむ事になり、準備の為全員一度部屋に下がり、サロンへ集合することとなった。






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