エピローグ
「ああああああああ悔しぃぃぃぃぃいいいいっ!!」
日の沈みかけた海浜公園で、ひときわ大きな声が上がる。場所が場所だけに、海に向かって抑えきれない思いを叫んでいるのかと思いきや、その少女はしゃがみこんで頭を抱え、思いっきり地面に向かって叫んでいた。
ただひたすらに「悔しい」と。
そんな少女の傍らで、豪快に笑う人影がふたつ。
「っははは! これでクレハも、一人前のプレイヤーだな。いや、負けを知らずに人は成長できんからなぁ」
女性はそんな言葉とは裏腹に、少女をなだめるように背中をさする。
「ようやく俺の悔しさが分かったみたいだな。ま、日々努力を怠らないことだな、クレハ後輩」
茶化すようにそう言って、少年はその口調に似合う晴れやかな顔をする。
そんな和気あいあいとした雰囲気の三人の下へ、一人の青年が声をかけた。
「やあ、二人ともお疲れ様。序盤は少しはらはらしたけど、すごくいい試合だったよ」
さわやかに話しかけるその青年に、少年は晴れやかな顔を一転させ、好戦的なまなざしを向ける。
「ミナトさん。今年は戦えなくて残念です。今度戦うときは、俺にもあの気迫を見せてください」
少年の言葉に、青年は「うーん」と悩む素振りを見せる。そして考えた末に「やめておくよ」と結論を出した。
「そんなっ!」
少年は納得がいかないというように食って掛かる。が、青年もそんな少年に対し、さわやかな微笑みを消して挑戦的に言い放った。
「気迫で君に勝てるなら苦労はしない。君に勝つため、僕がどれだけ作戦を練ってると思ってるんだ。冷静さを失った僕では、勝負にすらならない。……言っただろう、僕を本気にさせてくれるのはシン君、君だけだと」
青年の言葉が予想外のものだったのか、少年は驚いたような、すこしこそばゆいような顔でその言葉を受け止める。
「それじゃあ、僕は一足先に全日本に行くことにするよ。インターハイ、頑張ってね」
最後にそう言い残して、青年は三人の下から去っていく。その後ろ姿を見て、少年は「全日本か……」と誰に言うでもなくつぶやいた。
そんな少年を見て、女性は一人微笑みを浮かべた。
「じゃあ、私もそろそろ学校に戻ろう。大会の報告もしないといけないしな」
言うが早いか、女性は少年と少女を置いてその場を去る。二人の呼び止める声にひらひらと手を振ってこたえ、小さな声でつぶやいた。
「子供の夢なんて、叶わないものだと思っていたのにな」
その声はきっと、彼女自身に向けたものだったのだろう。
残された二人は、無言のままで海を見つめていた。いざ二人きりになって、なんと声を掛けたらいいかわからない。そんなむず痒い雰囲気を、さざ波の音だけがつなぎとめていた。
「あー」
頬を指先で掻きながら、少年が言いにくそうに口を開く。
「試合中に言いかけた――」
「教えない」
しかし言い終わるのを待たずして、その会話は少女によって強制終了された。ふくれっ面で海を眺める少女の顔は、夕焼けの光のせいか、あるいはまったく別の理由があるのか、ほんのりと赤く染まっていた。
そんな少女を見て、少年もまたその頬を赤く染める。聞きたいことは確かにあったけれど、今はまだ、このままの関係を続けていくのもいいかもしれない。そんな風に言い訳をして、その質問を飲み込もうとした。その時、
「私が勝ったら、言うから」
ぼそっとつぶやかれたその言葉に、少年は再び、その顔に笑みを浮かべた。
「なら一生言えないな」
「なによ、それ! 来年の夏には嫌でも聞かせてあげるから、覚悟しててよね!」
本気の軽口を言い合いながら、自然と二人は笑い合う。その中で少年はひとり、決意を新たにする。
――次も勝つ。そしてその時は、自分からこの気持ちを伝えよう、と。
SC - Sorcery・Combat 遥 奏多 @kanata-harka
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