最近の魔法使い事情

eLe(エル)

魔法使いって楽?

 これは俺たちパーティが結成して数ヶ月後の話。


 メンバーは全員冒険者学校を卒業して、各職業の専門学校に進学。そこで1年間の実習を経て試験に合格し修了証が貰えると、晴れて希望のジョブに就けるというわけだ。


「思えばエンジニアなんて選ばずに、魔法使いを選んでおけばよかったぜ」


「え?」


 杖の手入れをしていた魔法使いのソーラがその声に反応した。俺は補助に徹するエンジニアのバイロ。そして剣士のエコルと3人でパーティを組んでいた。


「それ思ったー。あたしも魔法いいなーって思ったけど、勉強が嫌だったから剣士にしたけどね」


「エコルはどう見ても前衛職じゃない……魔法使い、そんなに良く見える?」


 エコルはスクワットしながら、魔法を放つようなポーズをして見せた。


「だって、バンバーン! って遠くから敵を燃やすって快感でしょ!」


「それに、体力仕事じゃないもんな。マナが有る限り戦えるってのも便利だ」


「あ、確かに。えー、やっぱりあたしも勉強頑張って魔法使いにしとけばよかったぁー」


「いや、だからお前はソーラの言う通り脳筋だから魔法使いは無理だろうけど」


「なんでよ! だって呪文唱えるだけでしょ!」


「そういうとこな」


「……あのね、そんな楽じゃないのよ、魔法使いって」


 ソーラは俺たちの会話を聞いて、随分と引きつった顔をしていた。


「いや、そりゃわかるけど」


「違うの、多分バイロが思ってる大変とは違うの。……聞く?」


 俺とエコルは揃って頷いた。


 **


 私は魔法学校に進んで、ワクワクしていた。今にも魔法使いになってどんどん魔物を倒してやるんだ、って燃えていた。


「あら、貴方も魔法使い志望? 私はサマ。よろしくね?」


「私はソーラよ、よろしくねサマ。お互い素敵な魔法使い目指して頑張りましょう」


「素敵な、なんて甘いわ。なるからには一流の、でしょ?」


 サマは見るからに良い所のツンツンしたお嬢様。けど、聞いていくととても優秀で、他にも友達が出来てここから魔法漬けの日々。そう思っていたら……


「魔力節約?」


「そうです。今この世界のマナは枯渇していますから、出来るだけ魔法使いには効率の良い魔法と、節約を心掛けてもらいます」


「は、はぁ」


 教師からそう言われて、最初はそういうものかと思ったが、この違和感がどんどんエスカレートしていった。学校で使うマナは太陽光を変換して作るから、雨の日は座学。しかも冷暖房は節約のため使えないので、体温調整は自己管理。


「暑い……昨日は寒すぎたのに、どうなってるのこの学校周りの気候……」


「おかしいじゃない! 冷暖房くらいつけさせなさいよ!!」


 やっと晴れた日に魔法の実践演習だと思ったら、


「はい、それじゃあ森に向かいます。杖に使えそうなものを各自拾って、ナイフで形を整えるように」


「杖自作!?」


 何でも、資源は何でも使い回す。使い捨てしない、とかなんとかで大抵のものは現地で作らされた。


 魔法を当てる的は粘土に円を描いた盤のようなもので、2人1組になって片方が重たい盤を掲げる。もう一人がその的目掛けて魔法を放つものの、炎魔法なら毎回火傷するし、水魔法はびしょ濡れ。ちょっと外したら危うく大怪我。


「なんなのよこれ!!!」


「本当、嫌になっちゃうわね……」


「あんまりよ。もっとスマートに魔法使いになれると思ったのに」


「なんなら剣士とかより泥臭いことやってる……食堂の食器も全部葉っぱとか枝だし」


 サマと文句を言いながらなんとか卒業手前まで漕ぎ着けた。ところが最後の最後で。


「それでは、最後の授業です。いざマナ不足になった時のために、皆さんにはこれから1週間自給自足の生活をしていただきます」


「……は?」


 そう言われて渡されたサバイバルナイフ一本で、私たちは森の奥に放り出された。その時点でサマはブチ切れて学校を辞めてしまった。


 意地で残った私も、いよいよ限界だった。


「もう、もうなんなのよこれええええ!!!」


 誰もいない森の奥で思わず叫んだ。だっておかしいでしょ!


 森の奥はやたらマナの伝達が悪くて、虫やら獣から避難するために洞窟に入ったら全く魔力が使えない。ってことはもうこれ、魔法使い関係ないじゃない。


 結局私含めて2、3人だけが生き残って、学校に戻った。最後の方は葉っぱだけ食べて、習った呪文なんかほとんど覚えてなかった。


 **


「という話」


「……なんか、魔法使い学校って卒業率低いからめっちゃ厳しいのかと思ってたけど」


「厳しいの意味が違うだろ! てかマナって何、電波なの? 太陽光なの?」


「それでも魔法使いが楽だとか、魔法使いになりたいって思う?」


「「いいえ、結構です」」


 俺とエコルは口を揃えて頭を下げた。ソーラの目が少し怖かったから。


 後衛で楽だな、なんてそりゃちょっと思ってたけど。ごめんなさい、ソーラさん。俺も今の仕事を全うするよ。そりゃ、この仕事も辛いけどね。


 なんて、同じことを考えたのかエコルも剣を素振りし始めて。


「へぇ〜、二人とも。急にやる気出して偉いじゃない。いつも楽してる私に、もっと楽させてくれるってこと?」


「い、いやソーラ! そういう意味でいったわけじゃ!」


「そ、そうだよ! ソーラはめっちゃすごい魔法使いだよ!」


「ふーん? ま、いざお荷物になったら、私はいつでも一人で生きていけるし?」


「そんなこと言わないでくれよー!!」


「ソーラは最高の魔法使いだよー!!」


「ふふ、冗談よ」


 二人の必死のよいしょは、しばらくの間続いたのだった。

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