背徳でも耽美でもなく、熱き血潮が冷える間もなく

え、元カレのママと!?
人によってはペタジーニが友達のママと結婚した時以上の衝撃かもしれません。しかし、この物語では本当に女子高生が元カレのお母さんと付き合い、パートナーとして生きていくことになるのです。

大丈夫、未亡人とかじゃなくてちゃんと略奪愛ですよ。そして、熱い。

主人公の義花は父子家庭。生まれた頃に母親を亡くしながらも、近所の津嶋家の咲子に我が子のように育てられてきました。その傍にはいつも津嶋家の一人息子、仁輔がいます。双子のように関わってきて、でも、もう二人とも高校生。家族のようだけど家族じゃない、でも、家族になることもできる男と女。これからどういう仲になればいいのかな……。そんな風に悩みながらも、ある日仁輔に告白されて付き合うことに。このまま全て丸く収まりそうなそんな感じ、けど付き合う内に本当の気持ちが見えてきて……本当のお話が始まる。あらすじはこんなもの。

全体通してドロドロしているかと言えば、そんなでもない。結婚式場に駆け込んで花嫁をかっさらうような激しさもない。登場人物はみんなとても理性的。理性的、だけど抑えられない感情の迸りが本作を駆け巡ります。荒ぶる気持ちは止まらない、でも自棄にならずどうにか言葉で向き合う義花達。大変素晴らしい! 不義や禁忌を犯す背徳感や、日常を超越した耽美に浸るのではなく、この物語はつまらぬ現実の荒野を歩もうとしているのです。舞台も連載当時(2022年12月)を踏襲した現代日本のとある地方。疫病だ何だで萎びていく我が国の足元で、同性愛や年齢差が何だと生きていく。立ちはだかる問題や葛藤に対しては、社会や状況に合わせつつも最大限自分と相手の意志を尊重しようとする。まさに賢く誠実にあろうとする現代人の姿の最先端でしょう。今のこの国で女性が既婚女性と交際することの意味と、そのロマンティックさをどちらも省かずに美しく書いたのが本作の卓越した点であり、素晴らしさなのです。

そして、その重大なテーマと義花や仁輔達を正面から対決させる原動力が、彼女達自身の“熱血”さ。青春を走る若者達の凄まじい情動こそが、読者を本作から掴んで離さぬ力強さとなっています。前向きで、眩い。親の代から続く絡まりに絡まった因果にいっぱい悩んで、ちゃんと答えを見つけていく。す、すごい体力だ……。当時の俺でも潰れていたろう、凄まじい重さの過去と戦います。作中では義花達の趣味として、よく日曜朝にやっているようなヒーローのことが言及されるんですが、あのヒーロー達の持つ熱血さが確かに子ども達を暖めているんだな、と思わず目を細めたくなるような気持ちになりました。

とは言え、恋する乙女は何時だって熱いもの。
赤い唇が褪せる間も、熱い血潮が冷える間もなく滾っている。
貴方もこの機会に、この燃えるような愛の物語を味わってみませんか?