元カレのママと付き合う女の話
市亀
プロローグ:愛と罪を数えながら
あたし、
まずは産みの母、九郷
もう一人。育ての母……ではないのだけれど、実質ママだと思える
。
もちろんあたしのパパも、働きながら必死に育ててくれた。パパと咲子さんが勤める製薬会社の皆さんにも、随分とお世話になったらしい。
とはいえ幼い頃、一番身近にいたのは咲子さんと仁輔である。あたしには咲子さんのことを母親だと思い込んでいた時期もあったそうだし、高校生になった今だって一番安心するのは彼女のそばだ。母親で、姉で、親友で――法的には他人でも家族以上の存在だったし、ゆくゆくは本当に家族になりたいと思ってきた。
それで仁輔はというと、もはや兄弟なので異性と意識しづらい。ただ、あまりに自然に一緒にいられるので、好きになれるだろうとは思っていた。幼い彼に求婚された記憶もあるし、今のあたしだって彼に疎まれてはいない。
彼と結婚して、晴れて咲子さんの義理の娘になって、両家で仲良く暮らしていくのだろうと思っていた。
そのはずが。
あたしは仁輔と付き合って、仁輔を振って。
咲子さんへの恋心に気づいて。
大人たちが抱えてきた想いに触れて。
生きる道に、悩んで、選んで。
やがて、咲子さんとお付き合いすることになる。
さて、これからあたしたちが振り返るのは。
ある大切な人を拒んで、別の大切な人と結ばれた道。
ある家族を引き裂いて、別の家族を咲かせた道。
ある仁義を破り、別の仁義を通す道。
罪を背負い愛を重ね、人生へ歩き出す道。
具体的に言うと、元カレのママと付き合う女の話だ。
そして、彼とあたしのヒーローオリジンだ。
さあ、人生の岐路となった高二の夏の話をしようじゃないか。
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