第51話 転生者、葛藤する


 珍しく大人しくしながら、一歩引いた感じで私達を見つめる瀬貝君。


 ミークちゃんと聖ちゃん抱きしめあう、以前の私なら失神仕掛けない後光が指すような光景。

 二人は二言、三言言葉を交わし離れる。


 別れ際、私とと久方君に深くお辞儀をしてお礼を言ってきた。


 恐らく図書館の件だろう。

 この映画の事を伝えたのは私だから。


 聖ちゃんと別れた後は、ビルに入っているカフェに入る事にした。


 カフェで映画の感想を語り合いながら、紅葉ちゃんからちょっとした知識を得た。


 なんでも映画は実話を元にしているらしい。


 私は映画があるという事しか知らなかったので少し驚いた。


 恐らく入れ替わりはフィクションだとは思うが、私という存在がいるのだから、この世界ではそれすら完全に否定は出来ない。


「楓さん、じゃああの二人は実在してるんてすか?」


 かなり食付き気味に紅葉ちゃんに詰め寄るミークちゃん。

 映画を見て号泣していたので、思い入れが段違いで凄いのだろう。


「えっ、ええ、近親婚が可能になったのはあの映画に出てくる兄のモデルになった人のお陰だと聞いたわよ。何でも遺伝子研究の第一人者だとか」


 それも、知らなかった。

 私はゲームの設定上でそうなっているだけだと深く考えていなかったが、この世界には近親婚が可能になった背景がちゃんと存在していたらしい。


「えー、それじゃああの二人は」


「うん、モデルになった兄妹はこの国で最初の近親婚カップルらしいよ」


「そっかー、本当に結ばれたんだー」


 夢見がちな瞳でミークちゃんが久方君を見詰める。

 本当に久方君の事が大好きなんだなと分かる。


 たがら本当は大好きなミークちゃんを応援してあげないといけないのに、凄く胸の奥が痛む。


「あっ、ズルいよ妹ちゃん映画を出汁にして迫るつもりでしょう」


「ふっふん、今までは妹という立ち位置はハンデになってたけど、これを見た後ならお兄ちゃんも認識を改めるはず」


「駄目だよ諒也君。映画はあくまで実話を元にしたフィクションだからね。流されて決断しちゃ」


 映画に後押しされ勢いづくミークちゃんを慌てて牽制する紅葉ちゃん。


 それを傍観者として見守る私。


 そして、思ってしまう。

 これがモニター越しならどれだけ良かったかと。


 今まで楽しめていた筈のやり取りに、上手く反応できない。


 図書館で気付いたときに決めたはずなのに。

 大好きなミークちゃんと親友になってくれた紅葉ちゃん、二人を応援しようと、どちらと結ばれても久方君として祝福しようと思っていた。


 だから、彼はもう正巳君ではなく、久方君で別人だと心の中で言い聞かせてみる。


 でも、どうしても姿が重なってしまう。

 聖ちゃんは普段の何気ない違いから瀬貝君を、兄を別人ではないかと思い始めたように、何気ない仕草や言葉遣いが彼を正巳君だと意識させてしまう。


 だから確証を得てからは距離を少し置こうとした。

 気持ちを誤魔化すために……。


 でも、本当は見たくなかっただけかもしれない、正巳君が他の女の子と仲良くしている姿を、親友に嫉妬する醜い私自身を……。


 だから本当は今日はこうして二人と仲良くする正巳君を久方君として見ることで踏ん切りを付けるつもりだった。

 

 辛いけど大好きな人の未来を祝福したかったから。


 だけど、やっぱり駄目だった。

 初めて好きになった相手は、姿が変わっても、やっぱり今でも大好きだと実感させられる。


 そんな思いが強くなればなるほど、朧気だった記憶が今までの出来事と重なる。


 

 初めて出逢った図書館での事。


 より強く正巳君を意識するようになった痴漢から助けてくれた出来事。


 決定的に好きになってしまった。

 イジメから私を救ってくれたあの瞬間。


 そして臆病で踏み出せずに日和っていた私に、自分から勇気を出して告白してくれた、あの時の言葉。


 私の、明日野未来としての記憶と元となったの大垣優卯オオガキ ユウとしての記録が混入し混在し始める。


 まるで目の前が本当に壊れたモニターのように、ノイズが侵食して目の前を埋め尽くして行く。


「ねえ、未来大丈夫?」


 私がおかしくなった事に気付いて紅葉ちゃんが声を掛けてくれる。

 でも、その声すら酷く歪で、スローモーション再生したような間延びした音にしか聞こえない。


「おい、明日野……だ……う……」


 大好きな正巳君も心配して声を掛けてくれているけど、もう私の耳には届かない。


『ごめんね』


 私は心の中でそう謝ると、耐えられなくなり意識を手放し暗い渦の底へと落ちて行った。






 そして次に目を覚ました時。

 目の前にいたのは、紅葉ちゃんのお姉さん、彩葉さんだった。

 


 


――――――――――――――――――――


少しづつ書き溜めていたのを放出しました。

間隔が空いたにも関わらず読んで下さる皆様に感謝します。

 

しばらく年末のバタバタが続きそうで、また更新が滞りそうです申し訳ありません。


 また、少しづつでも書き溜めて行き、お目に掛ける事が出来れば幸いです。


 改めて、いつも読んで下さりありがとうございます。

 


 




 

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恋愛ゲームの世界にごく普通な俺が当て馬キャラとして転生してきた話 〜ゲームの世界だなんて知らない俺はハーレム主人公のフラグを無自覚に叩き折って無双します〜 コアラvsラッコ @beeline-3taro

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