第27話 そしてはじまり

「はい、チーズ」


 カシャ。

 頬を寄せるように密着すると、伊織が頭上に掲げたスマホのシャッターを切った。


「えへへ。どさくさ紛れにツーショゲット! って、天吹君、どうしたの? 死にそうな顔して?」

「……いや、てっきり刺されるかと思ったから……」

「ないない! 好きな子にそんな事するわけないよ!?」


 とんでもないという風に伊織が否定する。


「で、でも、終わりとか、僕が悪いとか言ってなかった?」


 だから勘違いしたのだ。

 モナカも同じで、駆け寄ろうとした途中でずっこけて地面でヒクヒクしている。


「あぁ、それ。だから、おわりにするの。天吹君見守り同盟は今日でおしまい、解散だよ」


 伊織の言葉に、見守り同盟の三人が泡を食って慌てだした。


「おいセイレーン!? 解散って、どういう事だよ!」

「そんな話、ボクは聞いてないぞ!」

「説明してくださいまし!」

「だって天吹君に彼女が出来ちゃったし。これ以上見守ってても仕方ないでしょ?」


 あっけらかんと伊織は言う。


「そ、それはそうだけどよ……」


 三人は顔を見合わせた。


 彼女達にとって天吹君見守り同盟は部活のようなものだった。個性的過ぎるが故にそれぞれに問題を抱え、共に琥珀に助けてもらった縁で知り合った仲間である。


 解散なんて言われたら寂しい。


「そんな顔しないでよ。同盟が解散しても、あたし達の友情は変わらないでしょ? これからは、恋のライバルとして一緒に頑張ろう!」

「……なるほど。そういう事ですの」

「ふっ。それは冴えた答えだ。流石だよ、セイレーン」

「へへっ。ここからが本当の勝負って事か」

「あの、どういう事か説明して貰えると助けるんですけど」


 一瞬で蚊帳の外に置かれてしまった琥珀が尋ねる。


「天吹君見守り同盟、ルールその一!」

「同盟メンバーは抜け駆け禁止だ」

「天吹君の心の準備が整うまで、全力で見守るべしですわ!」

「天吹君に彼女が出来てみんなルール破っちゃったし、勝手に彼女を作っちゃった天吹君を守ってあげる義理はもうないってこと」


 あてつけるように伊織が言う。

 精一杯の仕返しと言った所だろう。


「そんなもの必要ありません。これからは、私が琥珀君を守りますから」


 隣に立ったモナカが、琥珀の肩を抱いてぎゅっと引き寄せる。

 それで琥珀もホッとした。なんだか、我が家に帰って来たみたいな気分だ。


「あっそ。精々頑張ってね、モナカちゃん。あたしは全力で琥珀君を寝取りに行くから」

「えぇ!?」

「……なるほど。諦めるつもりはないという事ですか」


「当たり前でしょ。高校生の恋愛なんかそうそう長続きしないし。簡単にくっついたカップルは簡単に別れるって言うしね。モナカちゃんと付き合ったって事は、琥珀君はもう彼女作ってもオッケーってことだし、狙わない手はないでしょ」

「そういう事! むしろオレ達は、この日の為に頑張ってたって感じだしな!」

「うむ。例えるなら、禁漁解禁といった所か」

「ですわ! 天吹君! わたくしは必ずや天吹君のお眼鏡に叶う最強お嬢様になりますから、待っていてくださいましね!」


「いや、あの、だから僕には彼女がいるんだけど……」

「言っても無駄ですよ。聞く気なんかどうせないんですから」


 諦めたようにモナカは言う。

 確かに、人の気持ちをどうこうする事など出来はしないのだが。


「そういう事。あと、同盟が解散したら今まであたし達が抑えてた子達も天吹君を狙うようになると思うから、覚悟しておくように」

「オレらが寝取る前に変な女に浮気したら怒るからな!」

「そんな事のないように、モナカ君はくれぐれも天吹君の事をよろしく頼むよ」

「えぇ、今しばらくは天吹君をあなたに預けてさし上げますわ! おーっほっほ!」

「じゃ、そういう事で。、天吹君」


 不敵な笑みを浮かべると、伊織は仲間を連れて去って行った。


「…………なんだか、大変な事になっちゃったね」


 ただ告白を断るだけのつもりだったのだが。

 けれど、そもそも彼女らは好意で琥珀を守ってくれていたのだ。

 これまでの活動に感謝する事はあっても、やめたからと言って恨むのは筋違いだろう。


「何の心配もありません。……と言ったら嘘になりますけど。琥珀君は最後まで、私の事を一番に考えてくれました。……なんというか、とても嬉しかったです」


 照れているのだろう。

 ムスッと赤くなりながら、嬉しそうにモナカが言う。


「そりゃそうだよ。モナカちゃんは僕の大事な彼女なんだから」


 それを貫けた事だけは、琥珀もちょっと誇らしかった。

 それはそれとして、琥珀は遠ざかる元見守り同盟の面々に向かって叫んだ。


「見守り同盟さん! 今日までありがとうございました!」


 彼女等がどんな事をしてくれていたのか、琥珀は一つも知りはしない。

 だとしても、あるいはだからこそ、しっかりとお礼を言わなければいけないと思った。


 四人の美少女は振り返らず、格好つけて右手を緩く掲げるだけである。

 そんな姿に、琥珀はちょっと見惚れてしまった。


 もちろん彼女はお見通しで、ムッとして琥珀のお尻を抓るのだが。


「ひぎぃ!? 痛いよモナカちゃん!?」

「琥珀君が他の女に色目を使うからです」

「使ってないよ!?」

「わかってます! でも……あんまり他の女に優しくしないで下さい。琥珀君はただでさえイケメンなんですから。無駄にライバルを増やされると、彼女としては困ります」

「ど、努力はするけど……」


 モナカの嫉妬は可愛いけれど、助けられたらお礼をしたいし、困っている人は助けたい。

 人として、そこは多分譲れないと思う。


「……真に受けないで下さい。ただのわがままですから。それよりお腹が空きました。帰りに焼肉でもどうですか? もちろん私の奢りで」

「う~ん。気持ちは嬉しいけど、僕は家で食べるから。それに、奢って貰ってばっかりじゃ悪いし」

「私が行きたくて誘ってるので、お金の事は気にしないで欲しいんですけど」

「そうかもしれないけど……。一応僕にも、彼女の前で格好つけたいって思うくらいの見栄はあるわけで……。そうだ、帰り道にタピオカ屋さんがあったでしょ? あれはどう? 今日は僕が奢るからさ!」

「いいですね。タピオカは大好きです」


 そういうわけで、二人でタピオカを飲みながら帰った。

 その途中、思い出したようにモナカは言う。


「そう言えば琥珀君、なんでも言う事を聞いてくれるって言いましたよね」

「うん、言ったよ。どんな事でも、モナカちゃんのお願いなら出来るだけ頑張るよ」


 なにを言われるのだろうとドキドキしていると、モナカは不意にそっぽを向いた。


「……私、デートがしたいです」



―――――――――――――


 ご愛読ありがとうとございました。


 ストックはまだ少しあるのですが、キリがいいので一旦ここで完結にしようと思います。

 

 本作は【学校一の美少女が醜い嫌われ者の俺を好きになるわけないだろうが!!!】を書いていて、もっとコンパクトでギャグマンガみたいな話を書いてみたいなという所から始まりました。


 その後、もっと設定をコンパクトにしてギャグ要素抑えめで【君を不幸にした僕は二度と彼女を作らないと決めた。←ご心配なく、最強ヒロインになって戻ってきたのでまた彼女にして下さい】というリメイク作を始めたという経緯があります。


 モナカちゃんの設定を出す前に終わってしまうので、ここにネタバレを書いておきます。世紀末みたいに荒れた中学校でスケ番をやっており、普通の女の子みたいにちやほやされたくて裏で清楚系Vチューバー(手書きの落書きみたいな立ち絵一枚)をやっているという設定で進めておりました。


 文ちゃんと苺ちゃんはその後復縁し、琥珀に感謝しつつ、その事を伝えられずにいる事を後悔しています。琥珀君の知らないところであの後苺ちゃんは女子グループにイジメられ、お人好しの文ちゃんは結局苺ちゃんを庇う事に。それで苺ちゃんは本当の意味で文ちゃんを好きになり、今ではラブラブカップルという設定です。この後のデートで琥珀と出くわし、どうして文ちゃん!? 琥珀はショックを受けて逃げ出し、モナカが二人を拉致って琥珀に詫びを入れさせ、お前のお陰で俺達ちゃんと恋人になれたんだ! と琥珀のイケメンコンプレックスが解消され、仲直りの後にそれはそれとしてモナカに〆られる、という展開を想定しておりました。


 ダイジェストネタバレで申し訳ないのですが、一応気になる方もいるかもしれないので記載しておきます。



 修羅場要素の練習のつもりでもあったのですが、彼女が出来てしまうと色々難しいなと実感しました。一途な男の子ばかり書いているので、次はクズ男を書いてみたいですね。

 


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訳ありイケメンが彼女を作ったら、あたしも好きだったのにと美少女達が修羅ばりました。 斜偲泳(ななしの えい) @74NOA

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