第5話

――ドタバタドタバタッ、ドタバタドタバタッ


 誰? 何の音?


 ……廊下に皆いる? その足音?


 皆って誰?


 さっきの子供に、赤ひげのおじさん、おばさんに、切腹してた人……。


 ……みんな集まってきたんだ……。


 そう、もう良いや。


 一緒に入ってきてもらって。


 ……そうね、そのつもりね。


――ガチャッ、ギィィィィィ……


 ……やっと会えたね。……怖い? 私の姿……。


 そんなに怖くないって……ちょっと。


 あなたが、この方が良いって言ったのよ。あの時、私の服は白装束の定番が一番怖いって。


 えっ? そうよ、もう終わりよ。


 ……もちろん、これで最後じゃないわっ。


 お客さんが寝室にたどり着いたら、ここで私が「実は助けてもらいたいなんて嘘よ、私を殺した君が許せない」って言って、襲い掛かるの。


 で、それでお客さんは逃げて下に降りて行って、外へ逃げ切ってゴールよ。


 え? その段取りはしなくて良いのかって?


 もう良いの。


 ……怒ってる? だって?


 怒るに決まってるじゃない!


 グダクダじゃない! むー!


 パパ、ママ、お兄ちゃん、かずや。そしてついでに、あんたも含め、ここで反省会をするわよ!


 ……そう、お化け屋敷になったきっかけ夫婦がパパとママよ。赤ひげつけてるのがパパ、その隣がママよ。


 ちょっと挨拶は後にしてよ。


 で子供部屋に居た、かずやの役はその夫婦の子供よ。


 風呂場で切腹してたのが、お兄ちゃんのやってた役よ。


 何? ……うずくまってるだけなんだから疲れたも恥ずかしいもないでしょ。


 反省会はあんたも居なさい。


 ダメ、関係なくない。


 ヘッドホンもいつまで付けてんの、とっとと外してちゃんと私の話を聞く。


 ……このままでも聞こえてくる?


 あっ、私のマイクも点けっぱなしか……もう何でも良いわ。始めるわよ、まず最初から。


 え? 何でも良いけど朝の7時に呼び出すんじゃない?


 だから、こんな時間にって謝ったじゃない。


 しょうがないでしょ、パパが午前中に医者に行かなきゃならないんだから。重い咳してたでしょ、あんたも聞いたでしょ。


 そんな事より、その時話した内容はどうだった?


 実際にお客さんにも、お化け屋敷に入る前に、あんたに昨日渡したヘッドホンを着けてもらうの。


 そこから幽霊の私の声が急に聞こえてきたって設定。ささやき声で語りかけられると怖くて良いでしょ。


 そうでしょ、ふふふ、昔に殺したという謎めく私を助けに来るって導入よ。


 これは入る前に聞いてもらうわ。


 で、あんたが来る途中にしたお化け屋敷のバックグラウンド話は、屋敷の前でスピーカーで流すの。


 並んでいる時なんかに聞いてもらう。


 お化け屋敷がどんな所かが、これで理解してもらえるわ。これでフリはOK。


 私の囁き声も怖かったよね。


 所々で、はははははって急に狂ったように笑う演出も良かったんじゃない?


 ああ、別に聞いてもらえなくても、構わないよ。


 そう、あくまで設定だしね。


 でもま、聞くでしょ。聞けば怖さも倍増よ、きっと。


 ……ま、それでここまでは完璧よ。


 ……ここからよ……あんたが到着してからよ……。


 懐中電灯を渡して玄関の門の前に来たお客さんを、2階にいる私が見ているけど姿が見えない演出よ。ゴールの場所も提示する、大事なところ。


 そんな所でよパパ、何で和室の窓を開けてんのっ、もーー。


 ……暑かったんだ?


 我慢しなさいよっ、むー。


 あと、あんた。家に入って最初、廊下の奥に変な影ができたって言ってたわね。


 ……持ち場についてなかったのは誰?


 お兄ちゃん、何やってたのよぉ。


 ちゃんと準備しててっ、ちゃんとやってよねっ。


 ……あと変な臭い?


 それは元々……使ってない空き家の匂いよ……どうしようもないわ。


 何よ、ちょうど家の裏に空き家があるから利用しただけじゃない。


 良いのよ、うるさいなぁ。


 それでよ、リビングで板張りの壁の中からネズミが動き回ってるから、ちゃんと駆除しとかないと。


 あと虫も、相当いるみたいね……。


 え、あれはフリじゃなかったのかって?


 違うわよ。


 ……ヤスデで死んだとか、ネズミって言われてる霊媒師とか?


 ああ、そんな話あったわね……。


 ホントだ、偶然ね……。


 うーん……使えるかも……。


 でも駆除はしないと、さすがにホントに虫とかでたらお客さん来なくなっちゃう。


 残念ね……けど諦めるしかないわ。


 そうだ、リビングで探している時に2階で足音が聞こえたんだっけ?


 ……かずや、何やってたの……。


 ……暇でしかたなかったってねぇ……ドタバタして遊ばないのっ、わかったっ?


 で、かずや、あの時タンスを倒しちゃったの?


 ……タンスにぶら下がってたら、そのまま倒れちゃった……怪我する所だった……。


 はあぁぁ……。


 そうね、ママからちゃんと叱っといて。


 で……その後リビングに鍵がなくて移動してもらう時。


 ちょっとパパ、和室の襖まで開けるのよぉ。


 ……だから暑かった、じゃないの!


 え?……それも改善ポイント?


 暑かったらお客さんも嫌か……そうね、考えとく……。


 あとパパ、咳で苦しかったのは分かるけど、後ろ歩きしてくる時、ぶつかっててどうすんの。


 ママも、パパの事が心配だからって勝手に物置のドアを開けて中に入れないで。お化け屋敷の雰囲気が台無しじゃない。


 移動するあんたも、階段はちゃんと見なかったでしょうね。


 見ちゃダメなんだから、あそこはまだ飾り付けしてないから。


 こだわるところよ!


 何よ、何でも良いって……。


 良くない!


 家中、それっぽく壁に影の絵とか描いたり、糸で蜘蛛の巣を作ったりしたのに、階段だけ綺麗な花柄の壁だったら意味ないじゃない。世界観の崩壊よ。


 ……黒幕を張って誤魔化すわよ、買ってくるの忘れてたのっ。


 そんな事より家鳴りやばくない。こんなもんなの、古い家って。


 ……私の方が怖かったよ。


 ……そんで、あとは……風呂場……。


 浴槽の人体、良かったでしょ。私が作ったのよ、大変だったのよ。


 ふふーんっ。


 そう、作り良かったでしょ。


 お客さんに、実際水の中に手を突っ込んで探させるの。


 やりすぎって?


 ……え、そう。


 腸とか無理? せっかく作ったのに、あの腸大変だったんだから、厚手のゴミ袋を……。


 はいはい、やめればいいんでしょ。


 あ、あとあの時、お兄ちゃん笑っちゃったのはなんで?


 私の彼氏とのやり取り見て仲いいなって……何よその分けのわからない理由は!


 そうだ、パパとママも、なんで目の前に現れるの!


 付き合ってる奴はどんな奴か見たかった?


 何言ってんの!


 もうっ!


 ちょっとあんたも、何、照れながら自己紹介とかしてるの! 後だってば!


 むーーー!


 そんな事よりパパ…… リビングで暴れてたネズミは駆除できたの? 壁から飛び出してきて暴れてたみたいだけど!


 ……出来てないの……。


 壁を蹴破って、またどっかに逃げられた……。


 早く捕まえといてよ……。


 ……前途多難ね……。


 まぁ最初のリハだし、改善してまた呼ぶから。あんたまた来て頂戴。


 ……お前のためならいくらでも協力してくれるって……もう、ありがと……。


 ちょっと皆、ヒューヒューってはやすな……。


 ああっ、もうっ! がーー!


 良い皆! 商店街の夏祭りまであと1か月。私達の、空き家を利用してのお化け屋敷。必ず成功させるわよ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

呪われた家 月コーヒー @akasawaon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ