11話


 素っ頓狂な声が耳元で響く。

 いつもふざけている変態な先輩から発せられる、意外で驚きに満ち溢れた声に私はニヤリと口角を歪める。


 効果あり。

 いつも振り回されてばかりだったからか、先輩はかなりの驚き様で私の発言を確認しようと手足をバタつかせながら問い詰める。


「な、何を…えと、じょ、ジョーダンだよね!?」

「なにそんなに驚いてるんですか…先輩、いつもやられてばっかりなんだから、私だって反撃くらいチャンスがあったっていいでしょ?」

「そ、そうなのかな!?」

「そうなんです!!」


 渋る先輩を押し切って、私はぐぐいっと詰め寄ってみせる。

 いつもの先輩とは違う、予想外に慌てる姿は見ていて背筋がくすぐったい…。


 何か変な気持ちが芽生えそうになるのをグッと堪えながら、私は本心を叫ぶ様に告げる。

 私が先輩のご主人様である事を、私が上なんだってことを!!


「せ、先輩は私のこと…下に見過ぎなんですっ!だ、だから!!わ、私が先輩の上なんだって見せつけてやりますから!!」

「うぇっ、へぁっ!?」


 トイレの個室で高らかに宣言して。

 ギラリと輝く鎖を引っ張り、先輩を私の方へと無理矢理抱き寄せる。

 そして、私の両手は先輩の胸へと直進して…指先に柔らかな感触が伝った。


「ぁ…!」

「は、ハル…ちゃ…!」


 ふにっと…柔らかい。

 指先に神経を集中させながら、次に先輩の胸を両の掌で包み込む…。


「わ、ぁっ…」


 子供っぽい声が溢れ返りながら、私は掌に伝わる熱を感じ、そして指を動かす。

 ボールを掴むような感じで…でも痛くないように優しく丁寧に相手を気遣うように触れながら…私は先輩の胸を揉む。


 わ、私今…先輩の身体に触れてる。

 先輩の胸を揉んでいる!!


 まるで夢心地。

 あれだけ切に願っていた妄想が、今では現実として叶っているのに…私の脳は追いついてこれない。

 曖昧で夢見のようなこの感覚に身を委ねながら、私は迅る心臓のまま先輩を見つめる。


「ふふっ、なんですか…その顔」


 微笑みが私の口から漏れた。

 だって思わず笑ってしまうくらい、意外な表情だったんだから仕方ないよね?

 いつもみたいな変態な先輩でも、真面目な先輩でもない羞恥に塗れたその表情は可笑しいと思えてしまうくらい…。


「み、見ないで…ハルちゃん」

「いやです…見ます」


 可愛い表情だった。


 その後も、熱に浮かされているような気分のまま、私は先輩の胸を触れて、揉んで、撫でてを繰り返し続けて。

 充分に堪能した時には、私は息を荒げたまま先輩と見つめ合っていた。


「は、はぁっはぁっ…」

「ハルちゃんも…ず、ずいぶんと変態になっちゃったね?」

「せ、先輩に言われたくないです…そ、それに」


 それに。


「私は先輩のご主人様ですよ?ハルちゃんじゃなくて…別の呼び方があるんじゃないんですか?」

「…はる、ご、ご主人様ったら、かなり染まったみたいだね」

「いいえ、染まったんじゃなくて…これは」


 じゃらりと金属の音が擦れる。

 私は繋がれた鎖を手に持って、ぐいっと強く引っ張って。

 氷のような、凛とした声色で先輩の耳元で囁いた。


「躾です」

「…っ!?」


 ゾクゾクと先輩の…ポチの身体が震えるのを私は見逃さなかった。

 やっぱり、ポチは変態だ…どうしようもなくて、私の胸が好きで…盗撮もするような変態不審者。


 だから私はこれ以上、変態の好きにさせるわけにはいかない。

 この変態は私の犬で私のモノ。


「だから、ポチには約束通り舐めたりしても……良いですよ?」


 制服を脱いで、少し艶のある声で私は先輩を迎える入れる。

 両手を広げて、上目遣いのまま…高鳴る鼓動を隠す事なく熱を帯びた身体を見せつける。


「ぁ、ぇ…その、いいの?ご主人様」

「約束だから…その、早くしてくれると」


 自分で言ってて恥ずかしい。

 けど、広げた両手を今更閉じる事なんて出来やしない。

 ごくりと生唾を飲む音が聞こえて…先輩はにじり寄るようにその両手を私の胸へと差し伸べる。


 そして、つんっと指先が触れると…今まで出した事のない声が私の口から漏れた。


「ひゃぁっ⁉︎」


 咄嗟に両手で口を塞ぐ。

 けど、先輩は聞き逃してなんていなかった。

 頬を赤く染めて…今のが幻聴なんかじゃないと確認するみたいに、おずおずと聞く。


「い、いまのって…その」

「……は、はやくしましょう、人が来るかもしれないでしょ!?」

「ね、ねぇ!今のもう一回!!すっごくエッチで!!」

「あまりにしつこいと…もうやめにしますよ?」

「そ、それは…」


 互いに頬を染めあって、先輩の動きが再開する。

 さっきも揉まれた筈なのに、何故かさっきよりも敏感で…変な気分になる。

 そして、荒い息遣いのまま…先輩の顔が私の方へと近づいてくるとチラリと私の方へ視線を向ける。


「ほ、ほんとに…吸っていい?」

「さ、さっきまでの勢いはどうしたんですか…」

「だ、だってすごい恥ずかしくなって…」

「いいって言ったんですから、良いんです。あ、もしかして怖くなりました?」

「こ、怖くなんてなってないからね!?そ、そこまで言うならホントに吸っちゃうから、舐めちゃうからねご主人様!!」

「はい…いいですよ、ポチ」


 クスクスと小さく微笑んで、いつもより劣勢に追い込まれた先輩を見て私は優越感に浸る。

 この気持ちが…今はどんなものなのか私は知らない。


 けど、悪くはないな…なんて思い始めてる辺り、私も変態になってるんじゃないかなって思ったり。


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