10話 犯人を探して


 捜査は困難を極めた。

 一年から三年の教室、はたまた職員室からありとあらゆる部屋に入って聞き回ったり、探し回ったりしたものの、何も手掛かりは見つからず…果てに果てた私は教室に戻って死んでいた。


「なんも分かんないよ〜……」

「ははっ、相変わらずのようだねぇ」


 ぐでーっと机に突っ伏す私を見て、他人事のようにケラケラと笑うユカ。

 そんなユカに苛立ちを覚えるものの、体力のない私は特に何もすることなく大きくため息を吐いた。


「はぁ………あれ以降事件は起きてないみたいだし、犯人の特徴なんて薄暗いからよく分かってないみたいだから探しようにも無理だよぉ」

「へぇ、まるで砂の中から砂金を手に入れるみたいな難易度じゃん」


 そう、まさにそれだ。

 犯人自体は絞られている、それは間違いなくこの学園にいる誰かだ、外部からの侵入なんてないんだからそれしか有り得ない。

 なんだけど…学園の人間なんて生徒と先生を含めるとそれはもう数え切れない数になってしまう訳で……。


「そんなん絶対見つけられるわけないじゃんかよ〜!!」


 とまぁ、そんな感じで弱音を吐く私なのだった。

 

「けどまぁ、絞れているってことは確かに迫りつつあるってことじゃん」

「ユカ…」

「それじゃあ私が一つアドバイスをしてやろう、一度犯人の候補を絞ってみたらどうだ?」

「絞る?」


 訳もわからず首を捻る私、けれどユカはクスクスと笑って私の前で人差し指を立てる。


「先生か生徒か分かんないなら、そのどちらかに絞ればいいんだよ、そうすりゃ少しは楽になるだろ?」

「た、たしかに…でもさぁ、それはいいとしてどうやって犯人を探せば…」

「生徒の中に犯人がいるなら、じゃあ盗んだ下着はどこに隠す?」

「ええ…隠すって言われてもなぁ」


 そう言われても、なんも思い浮かばないんですけど…。

 そもそも、私にはそういう趣味嗜好は持ち合わせていないから犯人の考えなんて分かるわけが……あ、犯人の考えが分かりそうな人いた…。


 あっと思い出して、教室の隅でクラスメイト達に可愛がられている変態に視線を移す。

 何可愛がられてんですかあの人は!!と怒りに支配されそうになったけど、今はそういう訳にはいかないとかぶりを振って、先輩を呼びつけた。


「はいはい何ですかご主人様!」


 架空の尻尾を振って、にぱーっと笑顔な先輩。

 最近、ご主人様呼びにも慣れてきた自分がいる…というよりまぁ先輩にご主人様って呼ばれるのはなんか良…いってそんな場合じゃなくて!!


「もし、先輩が下着泥棒だったとして隠すならどこにしますか?」

「え?学校の敷地内に隠すとバレるから寮の中かなぁ…?同室の子がいたとしても人の物を見るような子なんていないからね」

「なるほど…じゃあもしかすると…」


 先輩の話を聞いて、すぐにユカの方を見ると二人してこくりと頷く。


「一つ一つ部屋の中を探せば、盗まれた下着があるかもしれないってコト」


 そしてそれが…犯人!

 ようやく見えてきた犯人への道筋、私は両手にぐっと力を入れて気合を入れるのだった…。



「ねぇご主人様♪」

「はい、なんですか先輩?」


 ようやく犯人への道筋も見えて、放課後になったから寮へと帰ろうとした矢先に私は先輩に呼び止められる。

 少し上機嫌な声に、何か嬉しいことでもあったのかな?と思いながら振り向いた。

 しかし、すぐに無視すればよかったと後悔する。先輩の両手はわきわきと指を動かしていてすぐに呼び止めた理由を察する。


「えっへへ〜♪」


 だらしない笑みを浮かべる先輩を見て、私は大きくため息を吐く。

 どうしてこの人はぁ……!!

 呆れと諦めを込めたため息を吐き終えて、私はイヤイヤながらも「わかりました」と小さく呟いて、微かな抵抗として首輪に繋がる鎖を引っ張る。


 まぁ、確かに…約束はしましたから…。


「先輩のへんたい…」

「よくいわれる〜」


 じゃらじゃらと音を立てて、私達は人気のない廊下を進む。

 変態って言われるくらいなら、言われないよう気をつけてくださいよ……ばか。



「ん…ここなら、人もいないでしょう」

「うぇっへっへぇ〜」

「先輩きもいです」

「だって楽しみだったから〜!」


 そうですか、私は楽しみじゃなかったですけどね!

 ここは人が寄り付かないことで有名なトイレ、この近くの教室に行くこと自体あまりない事からこのトイレも次第に使われなくなっていった。

 まぁ、だから…。


 静けさに包まれたトイレに音が響く。

 ぷちぷちとボタンが外れる音がすると、すぐにしゅるり…と布が擦れる音が耳に届いた。

 そして、もう一度プチッと小さな音がする。


 するりと右手でそれを外し終えると、先輩は喜びのあまりに「おお〜」と歓声の声を漏らした。

 対して私は恥ずかしさに頬を真っ赤に染めてから、持っていたブラを先輩に手渡した。


「やっぱりご主人様のはおっきいねぇ…」

「ジロジロ見ないでください…」


 うっとりとした表情で先輩は私のブラを見つめると、思わず口から大きさの事を言及する。

 何気にコンプレックスだから、そういうの言わないで欲しいけど…。

 こうも嬉しそうだと怒るに怒れない、だからブラから私の方へと視線誘導させて…手で覆っていた胸を先輩の前に曝け出した。


「や、約束ですから…揉んでもいいですよ?」

「やった♡」


 目を細めて、妖しく笑う先輩。

 別に、胸を揉ませるのは今日が初めてじゃない…。

 交流会や、その後にもこっそりと揉ませてる。けど、けどまぁ…。


 やはりどれだけ変態でも先輩は先輩で、私の好きな人な訳で…。だからすごく。


(ドキドキするぅ……!!)


 高鳴る鼓動がバレてないか不安になる。

 ドキドキバクバクとスピーカーみたいに私の耳へと鳴り響いていて、すごく恥ずかしい。

 それでも、先輩はうっとりとした瞳で私の胸を見て…その両手でそっと柔らかく包み込んだ。


「やっぱり、ふかふかで柔らかいなぁ…♡」

「か、感想を言わないでください!」

「え〜?」


 子供みたいにそう言って、手に持っていた二つの双丘をふにふにと弄ぶ。

 何度もその感触を味わい、感じて、確かめてから上機嫌だった先輩は何故か首を傾げた。


「………んー」

「どうしたんですか?」

「なんか、足りないって思って」

「た、足りない?なにがですか?」


 何を言ってるんだこの人…とドン引きしながらも私を聞く。

 すると、先輩は至って真面目な顔つきでつぶやいた。


「舐めたり乳首触ってもいい?」

「は?」


 だ、だめに…。


「決まってるじゃないですかぁ!」

「わぁ!?そんなに大きな声出すとバレちゃうよ!」

「そ、そうですけど!先輩が変なこと言い出すから!」


 そう、一体何を言い出してるんだこの人は!!

 わ、私の胸を揉むのに飽き足らず…ち、ちく…びまで触ったり、舐めるとか…。


「変態ですよ!!」

「変態なんですけどね?」


 そうでしたね!!


「ねぇねぇ、それでどうなの…ご主人様?」

「え、う…くっ!それは」


 じりじりと個室のトイレで追い詰められて、私は逃げ場を失う。


 なんでこの人はいつもこう…私の予想外の事をしてくるんだ!

 多分、このままノーって言ったら先輩は酷く落ち込むのかも知れない…正直、私としてはそんな先輩は見たくないもので……。


 それでも、先輩に舐められたりするのは嫌で……あーーーもう!!

 私の方が先輩よりも上なのに!飼い主なのに!なんでいつもこんな事になっちゃうかなぁ!!


「……あ」


 いや、待てよ。

 飼い主らしくないから私は先輩に舐められてるんじゃ…。

 じゃあ先輩より上に立つようしっかりすれば……。


 よし、と覚悟を決めて…私は口を開く。

 そして。


「じゃ、じゃあ…」

「先輩も…胸触らせてください」

「……へぇ!?」

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