9話 またまた事件発生!


 その日、事件は起きた。

 とある水泳部員がロッカー室へと移動した時、なにやらガサガサの何かを漁る音が響いていた…。

 なんだろう?と不思議に思った部員はそーっと音を立てずに壁から頭を出した。


 電気の付いてない、薄暗いロッカー室。

 そこには一つだけ空いたロッカーと、その前にはロッカーを漁る人影が…。

 

「ひっ…!」


 途端に怖くなって悲鳴が溢れた。

 後退と共にぺたんと足音が鳴り響いて、人影はこちらを睨むと、すぐに背を向けて暗闇に消えていった…。


 後で確認すると、ロッカー室に入れていた私物がいくつか無くなっていたそうな…。

 そして、それら全ては…。



「パンツなんだよ」


 いつもはふざけ気味のお姉ちゃんが、やけに真剣な眼差しで私達を見つめて言った。

 パンツという単語を聞いて、強張っていた身体が途端に解けた。


「ぱ、パンツ…?」


 もっとこう、財布の中身とかそういうのかと思ってたけど…パンツなの!?

 これまた変態な犯人が現れたなぁ…ん?

 

 ふと、犯人に心当たりがあった。

 こんな変態な手口をする人なんて、ただ一人しか有り得なかったからだ。

 私は思わず隣で四つん這いになって聞いていた先輩を睨みつける。


「ま、まさか…またやったんですか!?」


 蔑みの籠った瞳で糾弾する私。

 けれど、先輩は焦った表情で否定しながら首を横に振るう。


「ち、違うよ!?私やってないからね!?」

「犯人はみんなそう言うんですよ!!」

「それじゃあ何言っても無駄じゃない!?」

 

 元々信用ないんだから何言っても無駄に決まってるでしょうがこの駄犬!!

 私は飼い主として、駄犬の首に付いている首輪を思いっきり掴んでお姉ちゃんに頭を下げる。


「私の監視が怠ってて…本当にすみま!!」


 せんでしたーー!!と言い切る前にお姉ちゃんは「待った」と両手でポーズを取ると、こほんと咳払いをした。


「事件が起きたのは1週間前、そん時二人は何してた?」

「え?その時は確か…」

「ユウちゃんの部屋でお泊まりしたよー!」


 はいっ!!と元気よくポチが立ち上がる。

 そうだ、その日はポチが我儘言って私の部屋でお泊まりする約束をしたんだった。

 わざわざ寮母さんの許可を取ってのお泊まり会だったけど、先輩とユカがいろんな話をしてて付いていけなかった記憶が……。


 あ、じゃあつまり…。


「そう、そいつは確定シロなんだよ」

「ほらぁ!やってないって言ってたのに!」

「う、疑ってすみません…先輩」


 うんとお姉ちゃんは頷いて、濡れ衣を着せられた先輩は「うがー!」と怒り全開で制服を引っ張る。

 私はすぐさま謝るけれど、先輩の怒りは収まらずに人差し指を私に向けて。


「じゃあ、後でおっぱい揉ませて!」


 私の胸を見ながら言った。


「う、あ…えと、後で…ですよね?」

「うん、後で!あ、でも今からでもいいよ?」

「後で大丈夫ですから!!」

「やったぁっ♪」

「え?なに二人とも、もうそんな関係なの?」


 一通りの流れを見ていたお姉ちゃんが声を上げる。

 ま、まぁ…交流会の一件からは私も少しだけ緩くなったと言いますか…先輩が触りたいと言うなら少しだけ…触らせてもいいと思ったり…思わなかったり?


 いや、今は関係なくて!!


「と、とりあえず!私達が呼ばれた理由はなんなんです?」

「そう、私からお願いしたいのは…その犯人を捕まえて…私のパンツを取り返してほしい」

「「…へ?」」


 思わず、二人して声がハモる。

 取り返す?お姉ちゃんのパンツを…?


「え、お姉ちゃん被害者なの?」

「……ウン」


 顔を真っ赤に染めて、小さく頷くと聞いてもいないのに独白を始める。


「その日…お前らが泊まりと聞いて、デパートに行って新しく下着を変えたんだ…」

「その時、思い切って派手な下着を買ったんだが…その日結構暑かったから、学校に行って水泳部と混ざる形でプールに入ったんだが……」


 顔を両手で覆って、お姉ちゃんは深く溜息を吐いた。


「まさか盗まれるとは思わないじゃんかぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「お、お姉ちゃん…」

「兎に角だ!!もし犯人が盗んだ下着をばら撒いて、私の派手な下着がバレると思うと気が気でないんだ!!犯人を捕まえてくれぇぇ!!」


 身を大きく乗り出して、涙目のままお姉ちゃんは私に抱き付くと、じわりと涙が制服に滲んだ。

 こ、こんなお姉ちゃんの姿を見るのは初めてだ。

 

 知らない一面を見て、思わず生唾を飲み込むと同時に私は決意する。

 両手をぐっと握りしめて、胸に当てる。


「任せてください!!下着泥棒なんてこの私が許すわけないじゃないですか!」

「ほんとか!?」

「ええ!ようし!そうなれば早速探しに行きましょうポチ!」

「…え、私も!?」


 当たり前ですよ。

 嫌がるポチを無理矢理連れて、私は生徒会室から立ち去る。

 とはいえ…。


「どうやって探そうかな…」


 相変わらず、無策のまま飛び出して私は首を捻るのだった。

 

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