8話 ほんね
交流会当日、我が校の体育館にて多数の他校の生徒がやってくる。
それはかなり有名な進学校だったり、金持ち学校だったり。とはいえ生徒会にも入ってない私は特にこれといった準備もなく、ただただ交流会が終わるのを待つだけ…かに思えたが。
「……ホントに、やらないとダメなの?」
「頼むよハル、このままだと他校のクソ共にイジられるんだよ」
お前だけが頼りだ、お姉ちゃんはそう言って私の肩を強く叩いた。
そんなお姉ちゃんの背後にいるのはポチの姿だ、相変わらず変態を発揮していて見るに堪えない…。
結局、あれだけ時間を使ったものの変わらずじまいで調教は終わった。
根を変えることは出来ないんだなぁと酷く実感し、お小遣いアップも諦めた頃…未だ諦めないお姉ちゃんに呼ばれてここまでやって来たわけなのだけど…。
「お前がおっぱいを揉ませれば全て解決するんだ!!」
控室にてお姉ちゃんの声が反響する。
全て解決…そう、全て解決。
私が先輩に胸を揉ませれば…一時的にだけど元に戻るというそんな約束。
それを、もう何度も何度も言われて…私は。
「………わかった」
はぁ…と大きく溜息を吐く。
ここは諦め、私が犠牲になるなら…もうそうするしかない。
お姉ちゃんがよくやったと言わんばかりに目を輝かせて私を見ていて、なんだかムカつく。
「とりあえず!お姉ちゃんは出てって!」
「あ、うん。そうだな!頼むぞー!」
バタンっ。
お姉ちゃんが居なくなって、部屋に残るのは私と先輩だけになる。
私は震える身体をなんとか止めると、制服のボタンをいくつか外す。
ぷちぷちと一つ二つと外されて、しゅるりと布の擦れる音と共に制服から肌色が少しだけ露出する。
「……先輩」
震える口を尖らせて、強がるように先輩を呼ぶとジーッと見ていた先輩はびくりと身体を震わせた。
それが、少し面白くて。
「ふふっ、なにビビってるんですか」
「あ、いや…まさか冗談半分で言ってたコトをやるなんて」
「だってやらなきゃ真面目にしてくれないですよね?」
「そうだけど……でも、ハルちゃんは嫌なんでしょ?」
上目遣いで先輩は私を見つめる。
そりゃあ、嫌ですよ。すごい嫌です。
例えそれが女の人でも自分の身体を易々と触らせたくはない。けど。
大好きな人なら…少しだけ触られてもいいかもしれない。
「す、すこしだけ…ですから」
ひとつ、ふたつ、みっつ…よっつ、いつつ。
ぷちりぷちりと全てのボタンを外し終えて、制服がはらりと別れると、明るい色の下着が姿を表した。
真ん中には膨れ上がった二つの双丘。
「…ど、どうぞ」
どきどきどきと胸が高鳴る。
ちくちくちくと痛みが走る。
呼吸は荒れて、視界は狭まる、これが恐怖なのか焦りなのか恋なのか分からない。
この感情は先輩もおんなじで、荒げた息のまま先輩は確認するように口を開けた。
「いいの?」
「いいんです」
「ほ、ほんとに?」
「ほんとうです…」
だから…なるべく早く。
「揉んでください……」
頬が…熱い。
全身が焼けたみたいな熱さなのに、凍り漬けにされてるみたいに冷えている。
ドキドキドキドキと心臓だけが煩いほど鼓動を打って…先輩の手が少しずつ迫る。
そして、ふにっ…て確かな感触を感じた。
「わ、わわ…あァァ…」
「なんて声出してるんですか、先輩」
変な声。
全身を真っ赤にして声にもならない叫び声をあげる先輩が面白くて、クスリと笑う。
「だ、だって…」
「もしかして、あんなことしてた割に初めてでした?」
「い、いや…初めてなわけ、ないけど…その、本当に揉めるなんて思ってなかった…から」
俯いて、ぽしょぽしょと呟く先輩。
その割にはしっかりと両手の指が味わうように私の胸を揉む。
ふにふに、ぷにぷに…。
単に揉まれてるだけなのに、なんだか変な気分が奥底から込み上げてくる…。
じんわりとした快楽に近い…変な感情、私はそれが怖くて話題を口にする。
「どうして…んっ、先輩は胸を揉ませろ、なんって言ったんですか?」
「そ、それは…」
さっきの会話を振り返ると、ただ揉みたいなんて欲求だけでこんな事は言わなかったと思う。もしかして…先輩は。
「もしかして、イヤだったんですか?」
「………」
「先輩は人気だし、凄いから…多分それが疲れになってたんじゃないんですか?」
だから人前に出る交流会をあれだけ拒んでいた…そういう事なんじゃないかと思う。
言い終えると、先輩は顔を上げて苦笑を溢す。
「まぁ…うん、そんなとこ」
「私が変態なのは昔からだけど…私って人に頼られるの苦手なの」
意外でしょ?と言って先輩は続ける。
「私は昔からなんでも出来たからさ、皆私にやらせようとするの…でも、なんでもかんでも私に押し付けられてるみたいで、段々とイヤになって…」
「…だから盗撮がバレた事をキッカケにああやってふざけて、そういうイメージを消してたって訳ですか?」
「うん…まぁ、すごく楽しかったけどねぇ!」
相変わらず変態ですね。
笑顔で答えた先輩に、いつもみたいに罵倒を吐き捨てて、私は思う。
初めて、好きな人の弱いところを見た。
初めて、好きな人の本音を知った。
私は強い先輩が好きだ、頼られて何でもこなす完璧に近い先輩が。
でも、それは私の理想の押し付けで、私は先輩を追い込んでいた…。だから。
「先輩、逃げましょうか?」
「…へ?」
せめもの罪滅ぼし、そして本当の先輩をもっと知りたい。一緒に居たい。
「逃げましょうって言ったんです、どうせ逃げたってお姉ちゃんがなんとかしてくれますよ!」
「え、いや…でも」
いいの?と私を見つめる。
「いいんです!怒られそうになったら、私も怒られますから!!」
たとえどれだけ救いようのない変態でも、実は人に頼られるのが嫌いでも。
私は先輩が好きなんだから。先輩の飼い主なんだから!
「犬の不始末は飼い主である私が取ります!それに、犬の散歩は好きですから」
「ハルちゃん…」
先輩の頭を撫で終えると、その手を取った。
扉の向こうにはお姉ちゃんがいるから、窓から二人で逃げ出した。
結局、交流会は先輩不在に終わったがお姉ちゃんの手によって上手いこと終わりを迎えた。
けど、逃げ出した私達はこっぴどく叱られたのだった…。
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