一族の長
カストルを追いかける事に決めた僕達は、すぐさま彼が向かった方向へと駆け出した。
しかし、その後すぐに明らかに走る速度が違うことから、直ぐに姿を見失ってしまった。
「くっそ、速すぎだろあの人達。もう影も姿も見えやしないじゃないか」
僕は文句を言いながらも、走ることはやめなかった。カストルの姿はもう見えないが、それでも彼がどこに向かってるかは大体分かってる。
カストルの目的、いやマド族の長が追ってるのは十中八九オオモリサマの下だろう。
オオモリサマがどこに向かってるのかは、森の様子を観察すれば良い。なんせ、そこだけ見るからに朽ち果て、腐ってるのだからすぐに分かる。
「ねぇ、さっきは勢いで同意しちゃったけど追いかけてどうするの? 私達に出来ることなんてあるこな?」
クレアちゃんはハルティに跨りながら、僕の横を並走して問いかけてくる。
その質問に対して僕は走りながら、僕の思惑、つまりはマド族に恩を売れるんじゃないかと言うことを伝える。
「私そんな事全然思いつかなかった……ノワくん天才だ!」
「はぁはぁ、そいつはどうも!」
褒めてくれるのは嬉しいが、慣れない山の中を走るのは無茶苦茶しんどい。出来る事なら僕もハルティに乗せて欲しいもんだ。
そんな事を考えながらも走り続けている、正面から何やら巨大なものが這いずるような音が聞こえてくる。
奴だ、オオモリサマはこの近くにいる。
その事を自覚すると、自然と足が止まりそうになる。それでも震える足を自身の手で叩きながらも、足を音を殺し、スピードも出来るだけ落とさないようにしつつ前へと進む。
その後すぐ、オオモリサマがその姿を見せた。全身が見える距離ではないが、白黒の世界にヤツの緑はよく映える。
相変わらず、気味が悪い見た目をしているオオモリサマは、此方に気づく事なく依然森を侵食しながら進んでいた。
周りを見れば、今通っている場所以外にも木々が腐ってる場所があり、随分と森の奥へと辿り着いたんじゃないかと推測できる。
「おい」
「——っ!」
心臓が飛び出るかと思った。
後ろを見ればカストルが僕の肩を掴み困ったものを見る目で僕の事を見ていた。
「こんな所で何やってんだ。待っとけって言ったのによ」
「でも……」
「でもじゃねぇよ、死にたいのか」
「……死にたくはない。でも僕にも目的があるんだ」
死ぬのはごめんだ、あれほど苦しいし、痛い経験は二度としたくない。それでも、森を抜けるためにもここで引き下がるわけにはいかない。何とかここでマド族の長に借りを作って、森を抜けさせてもらう。
「はっ、こりゃ何言っても無駄かもな……お前が何考えてるのかは知らないが、俺は自分命を捨ててまでお前を助けないからな! 自分の身は自分で守れよ」
「カストルは優しいね」
僕はカストルの言葉を聞き、自然とそう思った。
「はぁ?」
カストルは何を言ってるんだと言わんばかりに眉を顰める。
「だって自分の命の保障さえあれば、また助けてくれるんでしょ?」
「ふん、……もう勝手にしろ」
僕の言葉に面食らったのか一瞬言葉を失ったカストルだが、その後照れ臭くなったのか顔を背けて吐き捨てるようにそう言った。
「で、カストルは何でマド族の長を追いかけたの?」
「おい! 知ってて着いて来たんじゃ無いのかよ」
「うん、でもあの人を助けに行くんですよね?」
「ああそうだ、時間がないし走りながら話すぞ」
そう言うとカストルは再びオオモリサマの通った後を辿るように走り始める。しかし、先程とは違い僕にも着いていける速度でだ。
「ザックリと説明するとな、この先にはマド族の集落があるんだよ」
「……それってまずいんじゃ」
「そうだ、だからアイツは俺達よりもそっちを優先したんだ」
なるほど、確かに僕達に構ってる暇はなさそうだ。
「でも、マド族の長はどうするつもりですか?」
「大方自分の事を囮にでもして、オオモリサマの進む方向を帰るつもりだろうが……」
「そんな事出来るんですか?」
「間違いなく死ぬだろうよ。でも俺はアイツを死なせたくはねぇ、だから助ける」
そう言ったカストルの顔を見ることは出来なかったが、それでもその言葉からカストルの覚悟を感じ取れた。
そうこうしているうちに、気がつけばオオモリサマを追い越して、少し先へと進む事に成功していた。
辺りの様子も少しずつ変わってきており、森の腐っている部分がよく目立つようになって来た。
そんな時、僕達から少しな離れた場所で大きな笛の音が聞こえてきた。
後方ではオオモリサマがその音に反応したのか、今までゆっくりと進んでいた巨体が、音の方へと途轍もない速度で加速し始める。
「……始めやがったな。俺達も行くぞ!」
色盲の少年、異世界にて色彩を求める ミチシルベ @Miti3162
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。色盲の少年、異世界にて色彩を求めるの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます