森の変化
「大体理解したか? あれがオオモリ様と呼ばれてる存在だ」
カストルはオオモリサマが立ち去るのを見つめながら、その後僕達に語りかけてきた。
「とても……嫌な感じ……」
クレアちゃんは下を向いて、体を少し震わせながらそう呟いた。
僕も似たような感じで、何かされた訳じゃないのに先ほどの光景を思い出すとぶるりと寒気がする。
「あれが……あれが守り神だなんて信じられません」
僕は思わず思った事を口に出してしまう。
「まあだろうな、俺も同じ意見だ。実際数ヶ月前まではあんな姿じゃなかったし、あそこまで活動的でもなかったからな」
しかし、カストルはそれが当然だと言わんばかりにすぐさまそれを肯定した。
それに、数ヶ月前までは違う姿だったというのは一体どう言う事なんだろうか?確かマド族が変わったっていうのも——
「何となく察しは付いてると思うが、オオモリ様があんな姿になったのと、マド族の現状は大きく関係してる」
「どういう事ですか?」
「今マド族が森を封鎖してるのは、オオモリ様の姿を人の目に見せないようにするためだ。何故だか分かるか?」
僕は今までに出てきた情報を目を瞑り、整理しながら考える。確か、オオモリサマはマド族の守り神的な存在だ。でも現状は森を荒らす化け物の姿をしている。もしアイツが人の目についたらどうなる?
僕はハッとして目を開ける。
「そうか、人がオオモリサマを討伐しようとしに来るのをマド族は恐れてるのか……」
「その通りだ、加えるなら自分達の問題を外部から手を出されたくないんだろう。今のマド族はオオモリ様が荒ぶっているのは自分達の責任だと考えてるみたいだしな」
その言葉を聞いて僕はオオモリサマが通った後を見つめた。そこには、木々は腐り落ち、地面に生えていた草花も枯れている惨状が広がっていた。
「でもこのままだと森が……」
このままアイツが動き回っていたらそのうち森全体が腐り落ちてしまう。数ヶ月前からこの様子だと、もしかしたら森の中枢部は既に……
「ああ、分かってる。だから俺はマド族の中でオオモリサマを駆除すべきだと、倒すべき存在だと主張したんだ」
「でもそれは無理だったんですね?」
「そうだ、俺の現状を見れば分かる通り、見事マド族を追い出されて一匹狼をやってるって訳だ」
カストルから話を聞いた事でこの森で何が起こってるのか大体把握する事ができた。
要するに、森を守っていたはずの神様が何かが原因で森に仇なす存在となった。そして、それを隠すためにマド族は森の奥へ人を入れないようにしてる訳だ。
「でもカストルさんは何でマド族だったのに、オオモリサマを倒そうと思えたの? 他の人達はそう考えなかったみたいだけど」
クレアちゃんは首を傾げながらカストルにそう質問する。確かに、僕もそこは疑問に思った。
「……俺にも色々あったんだよ。そんな事より、お前達はこれからどうするんだ?」
クレアちゃんの質問に思うところがあったのか、その質問を受け流して、カストルは僕達に問いかける。
「う〜ん、森を強行突破するのは現実的じゃないんですよね?」
「そうだな、中枢部はオオモリサマによって汚染されて人が通れるような環境じゃないし、何よりマド族監視が厳しい」
となると、取れる手段は迂回しかないのか……、かなりのタイムロスになるな。早くしないとエレさんを助けれないかもしれないのに。
僕は今後の指針を話そうと思い、クレアちゃんとハルティの方へ体を向けたその時——
ざざっと近くの木々が揺れたと思うと、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「……なんだ、まだこの森に居たのか。さっさと去れば良いものを……」
「——っ」
「おいおい、マド族の長ってのは暇なのか? よく合うじゃねぇか」
二度あることは三度あるとはいうが、三度目の対面は出来ればしたくなかった。僕達のことを追ってきたのだろうか?
「……ふん。お前達も目障りだが、今はそれよりもする事がある。見逃してやるから、失せろ」
しかし、僕の心配とは裏腹に目的は僕達ではないようだ。それに何か急いでるように見える。
「おい! 何かあったのか?」
「お前には関係ない」
カストルは声を掛けるも、相手はそう短く告げると再び森の奥へと走り出した。
あの方向は、確かオオモリサマが向かった方向じゃ……
「ちっ、そう言うことか! お前達は戻ってて良いぞ!」
カストルは去りゆく彼女の姿を見つめながら、何か分かったのかそう言って、マド族の長と同じように森の奥へと駆け出した。
「……行こう。ただ事じゃなさそうだ。何か手伝えることがあるかもしれない」
「うん」
僕なんかに手伝えることがあるのかは疑問ではあるが、もし力になれればマド族とも多少は友好関係を結べて森を横断できるかもしれない。
それに、オオモリサマの正体も気になる。なんで僕に色が見えたのか、出来ればそれも解明したいというのも本音だ。
そんな打算を浮かべながら、僕達はカストルの後を追うように森の奥へと進んでいった。
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