クローバーの天使
俺は地方のテレビ局のADをやっている。
主に担当しているのはバラエティだ。
今日は
『視聴者から募った疑問を、
タレントが解決する。』
という番組のロケに来ている。
疑問の内容はこうだ。
『私には6歳の娘がいます。
娘は、四ツ葉のクローバーを見つける天才で
この間は10分で20個も見つける事が
できました。
ただ困った事に、
見つけるとすぐに食べてしまうのです。
何故見つけられるのか、
何故食べてしまうのか、
解明いただけないでしょうか。
よろしくお願いいたします。』
ロケが始まった。
関西弁のタレントが軽快なトークをしながら
視聴者と待ち合わせた公園に向かう。
いた。あの娘だ。
メールを送ってきた母親と一緒にいる。
タレントがにこやかに話しかけた。
「あらぁー可愛いやんかぁ!
こんにちはー!」
「・・・ゎ」
女の子が何か呟いた。
恐らく「こんにちは」と言ったのだろう。
すると母親がすかさず
「こら!カナエ!ちゃんと挨拶しなさい!
すみません、ちゃんと挨拶できなくて・・
ちゃんとしなさいよ!」
「いやいや、いいんですよー。
よろしくなーカナエちゃん言うんかー。」
ああ、ここはカットだな。
こういう躾の厳しい親にあたる事は
実は結構ある。
酷い場合はお蔵入りなんて事もざらだ。
今回は放送されればいいけど・・。
タレントがアドリブも混じえながら、
台本の流れに沿って進めていく。
そしていよいよ、
四ツ葉を探してもらうタイミングが来た。
ここが山場だ。
探し始めて10秒、
カナエちゃんが何か拾って食べた。
(え?嘘?本当に?早過ぎる・・凄い!)
全員が今回のロケの成功を確信した。
「え、ちょっと待って、もう見つけたん?
凄いやん・・
いや正直もうちょっとかかる思てたから、
凄すぎてちょっと引いてもうたわ。」
タレントが撮れ高を刻んでいく。
今度は逃すまいと、
タレントとカメラマンが
カナエちゃんの近くに張り付く。
するとカナエちゃんがまた何かを拾った。
すかさずタレントが
「お、なんか見つけたん?
ちょっとおじさんに見せてぇや」
と流れを作る。
カナエちゃんがチラッと見せてくれたそれは
間違いなく緑色の葉っぱが四枚あった。
四ツ葉だ。凄い。
カメラがそれをアップで撮ろうと更に近付く。
するとカナエちゃんは焦ったように
それを食べてしまった。
「あら、食べてもたー!
なんでぇ?それ美味いん?」
カナエちゃんはコクリとうなづく。
単純に美味いのなら
『何故食べてしまうのか』
の検証は必要ない。
この子なりの趣向なのだろう。
その後も黙々と
カナエちゃんは四ツ葉を拾い続ける。
10分経って・・結果、25枚であった。
凄過ぎる・・。
それから専門家の検証が始まった。
が、カナエちゃんの体調が優れず、
あまり検証は進まなかった。
そりゃ公園の草を拾って食べてたら
体調がいいワケない。
変な趣向に生まれてしまった自分を
責める事なく、
この子には素直に生きて欲しいな。
検証はあまりできなかったものの、
高速で四ツ葉を見つけていく天使の姿で
撮れ高は充分。
私たちは母親にある程度の謝礼を渡し
帰り支度をしていた。
「すみません、
皆様、ありがとうございました。
これで失礼いたしますー。
ほら、カナエ!」
「・・・」
「もう!・・すいません、
では、失礼いたしますー。」
母親はカナエちゃんの手を引いて帰っていく。
その時、
母親とカナエちゃんの会話が聞こえた。
「今日もうまくやったわね。
また今日みたいに上手にやるのよ。」
「・・ぃ、ぃたい!・・」
母親はカナエちゃんの親指を強く握った。
緑に変色してしまうほど、強く。
意味怖詰め合わせ(1話完結) mayopuro @mayopuro
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