他の旅人
「イヴとスーリは、あまりお話しないんだね?」
呆然とする俺の横で、コルソさんがイヴとスーリに声を掛けた。
俺はイヴの無言に慣れてるし、スーリは口を開くと問題起こしそうだから放置してたんだけど、コルソさんの対人スキルは、それを是としなかったらしい。
「はい」
イヴは問いかけられれば応える。スーリはガン無視。
「旅の途中だものね!疲れてるでしょう。寛いでもらえって言われたのに、沢山お喋りしちゃった~」
スーリの社交的とはとても言えない態度に、俺はひやひやしたけどコルソさんは気を悪くはしてないようだ。
明るくて大らかで話し上手。地球だったら大勢の飲み会に是非一人は欲しいタイプ。
「私の家は隣だから何かあったら声かけて~ゆっくり休んでね~」
移動プレートの使い方や水場の場所を、ひととおり教えてくれた後、彼女は部屋を出て行った。
他の町のことや、ルクに関する情報をもう少し聞きたかったけど、確かにちょっと長く話しすぎた。
それに俺が別世界から来たと気付いてるオルダさんのことを考えると、コルソさんに今、下手な嘘をつきたくない。
なんでもアリな世界だし、別世界から来たくらい大したことなくね?言っちゃってもよくね?
そもそも俺は、嘘と秘密が苦手だ。だいたいのトラブルをややこしくするのは、その二つだからだ。
疲れてるし、寝心地の良さそうなベッドもあるし、ひと眠りしたいところだけど、先にやらなきゃいけない事がある。
「スーリ、ちょっと来い」
柱を舐めるのをやめて、テクテクと寄ってきた。
「なんだ」
「一緒に来るなら、人間のルールを覚えなきゃ駄目って言ったよな?」
「うん」
「今日のお前の行動は、人間レベル0だ」
「それはまちがいだ。スーリはちゃんと二つ足をやっている」
ふんぞり返る幼女。そういう仕草だけは上手いよな。
敬語使えとまでは言わないが、初対面の人に対する態度は直させねば。
「全然出来てない。突然怒鳴られたり嫌なこと言われたら、お前だって嫌だろ?」
「アベルはスーリに、いつもする」
「……それは、お前が怒られるような事をするからだ」
「スーリは、ここが嫌いだ。怒る理由がある」
「なんで嫌うんだよ。みんな良い人そうだし、歓迎してくれたろ?」
「スーリ達を阻んでる」
地図を作ってた時にも言ってたな。確かにここは石だらけで、大地というか土がない。
スーリが過ごしやすい場所ではないのは分かる。
そういえばここに来てからは、ウロチョロせず俺とイヴの近くにずっと居たし、動きも何だか怠慢で元気がなさそうに見える。
思ったより我慢してたのか。
「……一度ゴルディに戻るか?」
「うん!」
ここへ来て初めて、こいつの笑顔見たな。
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俺たちはコルソさんに断ってから、外へ出た。
岩壁を通ったら、ゴルディの側に誰かが立っているのに気付く。
村で話題になってたみたいだし、誰か見に来たのかな?
「よぉ」
俺たちに気付いて声を掛けて来たが、コールフの人ではないと、すぐに分った。
色の濃い肌に南国風のカラフルな服、髪は固そうな銀髪で、頭には飾りじゃなく、バンダナを巻いてる男性だ。
「こんにちは」
謎の人物だが、敵意はないようなので挨拶を返す。
こういう時こそスーリの不躾な質問の出番なんだけど、早速大地を転がりまわってて、役に立ちそうもない。
「勝手に見て悪かったな。それにしてもスゲェな。この魔法道具」
「はぁ。どうも。どちら様ですか?」
態度デカいなコイツ。ゴルディにベタベタ触ってるのも気に食わないけど、それ以上にイヴのことをジロジロ見てるのが、なんだかイラつく。
「俺はリノク。コレお前が作ったんだって?名前アベルだっけ?」
お前呼ばわりかよ。
名前が短いってことは、名乗り方が違う場所の人間か、情報を明かしたがってない、のどちらかだ。
その顔に掛かる長ったらしい銀髪といい口調といい、オラついてるホストみたいだ。
今の所コイツ対する好感度ゲージは、ゼロ。
「そうだけど、勝手に触るなよ。あんたコールフ村の人じゃないよな?」
礼儀正しい態度はやめだ。そっちの態度に合わせてやるよ。
「ああ、俺も旅人だ」
そう短く答えるとイヴに歩み寄る。
「あんたの名前は?」
「イヴです」
「こいつら、あんたの子供?」
俺とスーリを指差しながら問う。
「いいえ」
「子供はいるか?」
「いいえ」
「俺と子供作らないか?」
「いいえ」
……は?
このセクハラ野郎!
俺はイヴとリノクの間に割り込む。
「お前、何言ってんだよ!初対面の女性相手に失礼だろ!」
「お子様には関係のない話だ。あとで相手してやるから、ちょっと待ってろ」
鼻で笑う態度で、俺の肩を掴んで押しのけようとする。
──が、俺はスイと躱して、遠ざけるようにイヴを背中で押した。
「……へぇ。技師技術だけじゃなく、戦闘センスもあるみたいだな、チビ」
少し驚いた様子だけど、まだ尊大な態度を崩さないナンパ男。
「ここで揉めると、コールフの人たちの迷惑になるし、もうどっか行ってくれないか?」
「俺は旅人だ。好きな時に、好きな場所で、好きな事をする」
それが許されるのは雲のジュウザだけだ、ボケ。自分に酔ってる感じがうすら寒い。
「それはあんたの勝手だけど、少なくとも俺たちと、ゴルディの周りは遠慮し…」
!?
俺の言葉が終わる前に、リノクの姿が消えた。
振り向くとイヴの横に立って、再びにじり寄ってる。
「そんな綺麗な目、見たことないぜ。俺と一緒に旅しないか?」
「いいえ」
こいつ早い。
動きが全く見えなかった。オルダさんと同じような幻影か?
「おい──!」
奴を止めようと足を出した時、袖を引かれる。
いつの間にか、転がり回る事をやめてたスーリが側に来ていた。
「あいつは敵か?」
俺に問いかけながら、その目はナンパ男を捉えてる。
「……ああ。敵かもな」
俺は苛立ちを隠せない。あの野郎。二、三発殴ってやろうか。
「わかった」
頷く幼女の金髪が、およそ髪とは思えない音を立てて、ズドドドと地面に差し込まれ、脈打ち──…
地響きと共に、大地がうねり盛り上がった。
PLAY LIFE -無責任な俺の異世界進化論- 有河弐電 @allikawa
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