月見草祭りだワッセセ~! 🌔

上月くるを

月見草祭りだワッセセ~! 🌔




 いつまでも暮れない夏の夕方、涸れた川をはさむ河原に月見草が咲いています。

 別名を待宵草まつよひぐさといい、竹久夢二の恋人・彦乃さんのイメージを髣髴ほうふつとさせ……。

 


 ――多摩川に さらす手作り さらさらに なにぞ この児の ここだかなしき

   信濃なる 千曲の川の さざれも 君し 踏みてば 玉と拾はむ



 万葉集に謳われた川のなかでも印象的な二川のほか、日本中のすべての大小河川の河原いっぱいに、そして、夜空の天の川にもひょっとしたらあざやかな黄色が……。


 

 ――彦星の かざしの玉は 妻恋ひに 乱れにけらし この川の瀬に

   一年に 七日の夜のみ 逢ふ人の 恋も過ぎねば 夜は更けゆくも




      🌄




 ぽんっと音がして、東の山のてっぺんから、まん丸い月が出ました。

 いったん出た月は、ぐんぐん、すごい勢いで上空へ昇って行きます。


 冴えざえとした秋の月とちがい、気温も湿度も高い夏の月は赤く潤んでいますが、それでも月は月、ことに十五夜の陽気に明るいまん丸は生き物たちを元気にします。


 河原一面にひろがった月見草の村でも「それ、いま出たぞ!」というので大騒ぎ。

 ぱっとあざやかに黄色い花たちは、おとな神輿だ子ども神輿だ提灯だとワイワイ。


 それぞれの花が糸とんぼの仕立て屋さんに縫ってもらった祭り法被はっぴをまとっているのですが、繊維があまりにも細くて透き通っているので「祭」の文字もかすみがち。


 でも、そろってひと重の可憐な花たちには、ふんわりと軽い法被がよく似合って、互いに褒めあいながら、ワッセワッセワッセセー~! 威勢よくお神輿を担ぎます。




      🌝




 中秋の名月にはさぞかし、ですか?( *´艸`)

 どうでしょう、なにしろ花期が短いので……。


 いまこのときを十分にリア充しておかないと、高原の秋はあっという間ですから。

 人、犬、猫、他の動物……だれもいない河原で、月見草祭りは夜通しつづきます。


 夏枯れの川音が少し高くなったかと思うと、かじかふなが川面から躍り出しました。

 月見草村のお囃子はやしに合わせ、高く高く飛び上がり、短い季節を愉しんでいます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

月見草祭りだワッセセ~! 🌔 上月くるを @kurutan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ