薄暗いバーの雰囲気を感じながら、殺人行為と人間の在り方について考える…

 些細なきっかけから出会う男性を次々殺すようになる女性。殺人に対して何も感じない自分を客観的に見つめ、“人間”について考えるようになった彼女にも気になる男性ができるのだが、その結末は…? (※グロ描写はありません)



 夜を中心に語られる物語は全体的に薄暗く、緩やか。しかし、その実、語られる内容は「殺人」であり鮮烈。ですが残酷な描写は一切描かれず、不要なグロさも無いため読みやすい。
 その代わりに、かも知れませんが、時折差し色として各所に表(現)れる赤色が美しく、暗く黒い物語によく映えていた印象です。

 そのおかげで彼女が行なっていることが殺人という悪行であることを思い出せます。逆を言えば、それを忘れてしまうぐらい淡々と、日常のように、主人公の女性は殺人を行なうのです。

 普通に生きてきた女性が知人の死を目の当たりにし、変わった…というのは、少なくともこの物語では、適切では無いのでしょう。なぜならそれが彼女の本質“かも”知らないのですから。
 だからこそ、彼女は殺人そのものではなく自分のあり方、ひいては人の在り方を考えてしまうことになるわけです。これが本当の自分なのか、それとも…といったように。

 作中何度も行なわれる殺人。
 殺害手順も方法も全て同じなのですが、都度、彼女の中でその意味が変わっているのも印象的でした。(※ここで全てを言うと面白みがなくなるのでそこは是非読んで確認してみて下さい)
 快楽も金銭も、愛も。客観的には何も手に入れることのない、意味のない殺人。しかし、その行為は女性にとってある種の意味があり、得られる気づきがあって、自分を、人を考察する糧になる。

 殺人を手段として。無感情に行なう彼女はまさに、悪魔のよう。反面、自身の在り方について悩み、葛藤する様は人間そのもの。
 最終話はそんな彼女の二面性がよく浮き出ていて、心地よい読後感に繋がりました。

 後半、人を殺し、相手に人であることを止めさせて、自分は人について考える女性。そんな彼女にできた“気になる男性”。彼に惹かれていく自分を自覚しつつも、同時に、自分が冷酷な殺人鬼であることも十分に分かっている彼女。
 その恋の行方。また、彼女の葛藤に終止符は打たれるのか。

 静かな雰囲気と穏やかな曲、アルコールの臭気と、たまに潮風を感じながら。人間について考えさせられる、素敵な作品でした!

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