邂逅

気が付くと、僕は真っ黒な空間にただ一人立っていた。


なんだここ? 夢か? 足元も全く見えない、というか感覚がないから正直立っているかもわからない。ポーズ的には立ってるんだと思うけど……


「あのさぁ……異世界転生してやることがのぞきって……どんだけ飢えてるの?」


声が聞こえ前を見ると、赤い髪の女の子が立っていた。背が小さいけど、妙にデカい。美人、だけど好みじゃないな。エレナの方がよっぽどカワイイ。どこかで見たような顔だが……?


「ってうぉおおお!? 誰だあんた!?」


確かに周りには何もなかったはずだ。さすがにこんな近くで人が立っていたらバカな俺だって気づく。


「申し遅れまして。私はこの世界にあなたを転生させた、『異世界転生の神』ナーロゥ。か弱いあなたに祝福を与えたのも私です。」

女はそう芝居がかった口調で言って、ちょこんと頭を下げた。


か、神様? 確かになんでこんな世界に来たんだとか、召喚者は誰だ、みたいなことは何度も考えたけど……こいつが召喚者だったのか。 神様にしては小さいけど……


でもなぜか納得してしまった。妙な雰囲気のある子だ。実は王族だ、とか、実年齢300歳の大魔術師だ、なんていわれても信じていたと思う。


「さっきからなんなの!? 女の子の見た目バカにしたり、こいつ呼ばわりしてみたり! 転生させてあげたのも、祝福してあげたのも私なんだけど!」


っ!心が読めるのか……というか、祝福?


「さっきから祝福、祝福って心当たりが全然ないんですけど、なんのことですか?」


「神の祝福」はこの世界では有名だ。火神に祝福されれば火魔術、風神なら風魔術が

使えるようになる。この世界で戦いに生きると決めたものは、まず何らかの神に祝福を受け、戦闘用の魔法を習得しているのだ。僕自身この世界に来たばかりのころ、母と近所の司教様に頼み込んで聖神の祝福を授けてもらった。もっとも、僕の魔力じゃ全く使いこなせなかったけど。


でも別に僕は「異世界転生」神様の魔術なんて使えた記憶、全くない。


「? 何度も使ってるでしょ? ほら、あんたが「巻き戻り」なんて呼んでるアレよ。」


巻き戻り?あれ魔術なのか?


「使おうと思って使ったことはないんですけど……」


「当たり前でしょ。あれは「パッシブスキル」。常時発動の魔術なんだから。特に意識しなくても発動するわよ」


パッシブスキル?そんな魔術もあるのか……もう少し調べてみたらよかった。田舎だと、情報収集手段にも限りがあるんだよな。


待てよ?あれが本当に僕の魔術なら……


「あの、オンオフできたりはしないんですかね? 年齢一桁のまま生きていく、というのはさすがに辛くて」


いまでこそまぁ多少慣れたが、2週目の時は最悪な目に合った。それにこの間あんなことをしてしまったのも、10歳以降に進めない、というクソみたいな現実から逃避するためだ。


「はぁ~~…… だからパッシブスキルなんだってば。 自動発動だから切れません!」


「え……噓でしょ!? 10歳のまま生きて行けっていうのか!?」

終わらないループとか祝福どころか呪いじゃないか!無間地獄か!


「まさか。ちゃんと抜け出す方法があります。それをこれから話すのよ」


彼女はふぅ~っと息をついて、清らかな声で嘘みたいなことを言った。


「アラン・ラックよ。あなたに授けた「異世界転生」のスキルを駆使し、仲間を集めて魔王を打ち倒しなさい。」


……え? 今、なんて?


「魔王を打ち倒しなさい!」


ま、まおう?魔物の王と書いて魔王?そんなのを倒せって?魔物すら倒したことないんだけど。


というか、


「魔王?そんなんがいるんですか?初耳なんですけど」


「これから生まれるのよ」


これから生まれる……そうか、まだいないのか。


「つまり、将来生まれる魔王を倒し、世界を救うために僕を呼び出した……ってことですか?」


「……? まぁそんなとこかしら…… ホントは違う世界の人間呼び出すなんてダメなんだけど、私は特別なの」

胸を張ってそう言った。やはりデカい……いや、そんなことは今どうでもいい。


「なんで僕? ただの一般人なんですけど」


「確かに元の世界ではあんまり活躍できなかったみたいだけど、魔術関連の素質値が高いのよね。こっちの世界ならトップクラスよ。そんな子がちょうどよく死んでたから、こっちで拾ってあげたってわけ。」


「え、英雄!?マジで!? やっぱりなんか才能あったってことなんですか!?」


うおおおお!僕でもTUEEできるの!?


……あれ?じゃあ1週目で聖魔術使えなかったの、なんでだ?


「レベル不足じゃないの?聖神様って結構位階高い神様だし。」


まぁ確かに、僕のレベルは低かったと思う。魔物を倒さなくても、恋愛だとか、仕事だとか、およそ人生経験を積めるような事をすれば強くなれる、というのがこの世界のシステムだ。不思議だが事実なのだから仕方ない。なんでも人神の祝福が関係している、とかなんとかだそうだが……いまいち興味がなかったので勉強しなかった。当時の僕は、レベルシステム、なんてゲーム的存在があるという事実だけで舞い上がってしまったのだ。


人生経験でレベルが上がる世界だ。年齢一桁である僕のレベルが低いのは当然だろう。多分エレナの拳で気絶したのも、その辺が原因だ。年齢の違いもあるが、彼女は僕と違って友達が多いし。それにどうやら、恋愛経験も豊富だったそうだし……くそっ。


「じゃあ魔術の素質?って何の意味があるんですかね?魔法攻撃力が高い、みたいなことですか?」


「いや、魔術の習得効率とか記憶量とか、その辺もちゃんと高いけど?」


「え? じゃあなんで僕聖魔法取れなかったんですか?」

ギレナ村では、神父だけでなくエレナも聖魔法を使っていた。いくら僕とエレナに人生経験の差があるといっても、2倍3倍の差がある、というわけではないだろう。才能があっても、経験の差は超えられないという事だろうか。


「いいや、ちゃんと魔法的な能力は一般人の数十倍はあるわよ。ただ『異世界転生』魔術取ってるからね! 運命改変系だもん、そりゃ相応のメモリ取るわよ。あなたの現在容量を100としたら、9割9分埋まってるわね。聖魔術覚えるならもうちょっと開けないと。」

当然でしょ、と鼻を鳴らしながら言う。ちょっとカワイイ。


っておい! 容量取りすぎだろ! 彼女の話を信じるなら、異世界転生スキルは少なく見積もっても聖魔法の数十倍、容量を食うことになる。やっぱり呪いなんじゃないのか?これ。


しかしそうなると、魔法には頼れないか……レベルを上げれば成長するとしても、10歳までじゃ限度がある。多彩な魔法で戦闘する、なんて魔術師スタイルは無理と言っていいだろう。


正直、この状況に興奮している自分がいる。さっきまで僕は前世と同じクズ野郎で、世界の端っこで朽ちていくだけのモブに過ぎないんじゃないか、なんて思っていたが……


魔王を倒すために選ばれた勇者だ、なんていうなら話は別だ。俄然アガる。


しかもどうやら僕には、魔術的な才能があるらしい。それならこの世界を楽しく、やりたい放題生きていくことも可能かもしれない……いや、待てよ?

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転生先は無間地獄!?~スキル「異世界転生」の副作用がヤバすぎる~ @DRAGONMAN

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