転生先は無間地獄!?~スキル「異世界転生」の副作用がヤバすぎる~

@DRAGONMAN

プロローグ

僕はアラン・ラック(9)。前世の記憶がある転生者だ。村一番の金持ちの息子…というわけではないが、顔はまぁ白人系でそこそこイイし、当然前世の知識で勉強もできる。エリートの部類だろう。

そんな僕が…


「きゃああああああ!!!誰!?!?!?」


頭にガツンとくる衝撃……意識が薄れる。


「おい!何をやってるんだ!?」


父さん…………


そこで意識が途切れた。



この世界に来たばかりのころ、すなわち乳幼児の僕はワクワクでいっぱいだった。

小さな女の子でも、呪文を唱えてヒーリング!なんてやればケガを治せるし、

近所の70歳くらいのおじちゃんが車並みの速さで走って、剣でズバン!したりしている世界。

現代日本に住んでいた人間なら、いやまぁ全員とは言えないかもしれないが、いわゆる「オタク」といわれる人間なら垂涎ものの世界だろう。

それに転生自体、ロマンの塊だ。子供の時からやり直したら…なんて何度も考えた。


でも実際に転生してみると、僕には魔術は使えないし、剣でシュっといってズバン!もできない。才能もなければ努力も苦手…というか嫌いだからだ。

現代日本でぬくぬく過ごしていた人間が異世界無双!なんて、よほどの運か才能、もしくはすごい能力をさずけてくれる神様がいないと成立しないのだ。まぁ、僕が特別怠惰な人間だった、というのもあるだろうが。


もっとも俺が「すごい能力」を授からなかったわけじゃない。神様は知らないけど。

僕の能力は…「10歳になると時間が巻き戻る能力」。「巻き戻す」じゃない、「巻き戻る」だ。


一週目の時。10歳の誕生日0時00分をトイレの中で迎えた僕は、3歳の誕生日に巻き戻った。ベッドの中で、「ごはんだよー!」なんてママンの声が聞こえて、目が覚めたら……体が縮んでしまっていた!


ベットから這い出してすぐ体が小さいことに気づき大パニック、起こしてくれた母に半狂乱で相談したところ、最初は笑っていた母の目もすぐ胡乱げな目にかわり、

「アランったら、寝ぼけてるの?早く顔を洗ってらっしゃい」


「え……どうしたの?」


「少し待ってなさい!」

悪魔付き扱いされ、神父さんを呼ばれてしまった。彼は神学や聖魔法についてしっかりと学んだ学のある人間だったので、すぐ悪魔付きではないことを看破したが……

悪魔付きではないなら、ただの狂人だ。この話はすぐ村中に知れ渡り、ラック家は村全体から白い目で見られることに。僕自身、6歳くらいまでは友達もできなかった。


1週目で作り上げた友人関係が失われた失意とハブられた悲しみで、2週目はまともに生活できなかった。努力してもまた10歳で戻されてしまうんじゃないかと不安だったから、ろくに友達も作れなかったし、トレーニングもできなかった。まぁこれはただの言い訳だけど。別に一週目から友達は多くなかったし、トレーニングなんて全くしていなかった。


そして2回目に迎えた10歳の誕生日……ベッドの中で震えながら0時になるのを待った。朝起きると…体が縮んでしまっていた!


そして今の僕が3週目。2週目の最初では失敗してしまったが、さすがに同じ失敗は繰り返さない。母から呼ばれる前にベッドを出てやった。


自分が持つ、「巻き戻り」の能力を完全に自覚したのはこの時だ。2週目では不安や動揺からあまり考えられなかったが、冷静に考えるとこれはすごい能力だ。10歳までで終わりとか、任意に巻き戻れないといった欠点があるとはいえ、失敗を帳消しにできるというのはすばらしい。


そう思って3週目では、とにかく女の子とつながることを目標にした。前世では対人能力には自信がなかったし、彼女も小学生の時以来できたことがなかったから「恋愛」なんて別次元の話だと思っていたし、失敗が怖くて手が出せなかったが、やりなおせるなら話は別だ。それにこの2次元みたいな世界なら僕でもなんとかなるんじゃないか、と思った。


情報集め放題、無限リトライ、カワイイ女の子たち。ギャルゲーみたいなもんだと思ったし、それなら自信があった。前世なら千人切りだ。


まず思い浮かぶのが恋愛なんて自分でも脳内ピンクすぎると思う。あるいはそれは現実逃避だったのかもしれない。


話を戻そう。そこで僕はパン屋のローリス家が一人娘、リアナ・ローリスちゃん(11歳)に目を付けた。ピンク色の髪に馬鹿みたいに大きな目、大きな胸に絶えない笑顔。彼女こそ僕の異世界ヒロインにふさわしい!と思った。前世では現実の子供に欲情などしたこともなかったが、今の身体だと不思議と興奮した。この異世界に現実感がなかったからかもしれない。


4歳の時からコツコツフラグを立て、告白したのが7歳の時。


「ね、ねぇ、リアナ。よかったら僕と付き合わない?」


彼女いない歴数十年にいたる僕が、3年かけてした告白だ。声が詰まってしまったのも仕方あるまい。


「え……」

「ごめんね…… 私、トーラス君と結婚することになってて」


どうやらこの村では、親が結婚相手を探してくる許嫁システムが横行しているようだった。


トーラス・ギレナは村長の息子だ。クソが、親の都合で結婚とか許せねぇ、俺がなんとかしてやる!みたいなことをリアナに言ったら、本気で嫌そうな顔をされた。リアナ自身、結婚に文句はなかったらしい。


じゃあなんであんな優しくしたんだとかくっついてきたんだとか僕には許嫁がいないんだとか恨み言はいくらでもでてきたが、今となってはどうしようもない。告白の話はリアナがトーラスに話したらしく、そこから親へ、ご近所さんへと広がり……


無事僕はまたしても、ぼっちになってしまった。


失意の僕(7歳)。この状況、というかメンタルからできることなんて、僕には一つしかなかった。


「そうだ、覗きをしよう」


失敗しても時間が戻るなら、何したっていいんだ!失意の中、僕が性犯罪者的思考に陥ってしまったことをだれが責められるだろうか。ていうかいいだろうが!減るもんじゃねぇし!


ギレナ村には共有財産として、公衆浴場があった。村のものが清掃、湯沸かしなど交代で管理している。村の皆が同じ風呂に入る…最高の覗きチャンスだ。当然ながら朝は女、夜は男と男女で分けられているが、そんなことは僕には関係ない。どうせすべてリセットされるのだ。


毎朝性犯罪者として扱われる数年間を耐えきれる自信がなかったので、僕は10歳の誕生日直前まで待った。


そして運命の日……10歳になる一日前。ちょうど僕の家、ラック家が浴場の担当だった。僕はいつも通り更衣室の清掃を済ませ、母に確認を取り、okをもらい…浴場の壁裏に隠れた。そこにちょうど子供が入れるくらいのすき間があることは、7歳の時に確認していた。


結果としては、成功したが失敗した。すきまが小さすぎてカラダの部分しか見ることがでいなかったので、クソよく見えないぞ、でへ、えへへへへと身を乗り出していたら……前につんのめってしまった。


「きゃああああああ!!!誰!?!?!?」


パニックになった女の子にぶん殴られて、俺は意識に別れを告げたのであった。



そして今に至る。


「おい!こっちを見ろ!」


目の前で激怒しているのは父、アレイス・ラックだ。


「お前!自分が何をしたかわかってるのか!?」

「彼女はギレナ家に嫁入り前だったんだぞ!もしギレナさんの所に訴えられたら…」


どうやら僕をぶん殴ったのはエレナだったらしい。凄いパワーだ…とても嫁入り前の娘とは思えない。


「前のことでうちがどんなに辛い思いをしたか……アラン、どうしてこんなことしたの?どうなるかわからなかったの?」

目の前で悲しそうな顔をしているのは母、メイア・ラック。


「ごめん…ごめんなさい……」

そして泣いているのが僕だ。


まさか怒った父がこんなに怖いとは思わなかった。母がこんなに悲しそうな顔をするとは思わなかった。

正直軽く見ていた。最悪わらってすませよう…くらいの気持ちでいた。


「出ていけ!お前みたいな子供を置いていく余裕はうちにはない!」


「うえぇぇん……ひっく……」


夜の村にたたき出された。 上を向けば満点の星空、家々から聞こえる楽しげな声。僕が大好きな景色だが、今は最悪の気分だ。まさか本気で追い出されるとは……最初に笑ってごまかそうとしたのが響いたか。これマジで勘当されたのか?


少し休もう…戻るとわかっていても、想像以上に心に来た。あと2時間後には4歳に戻る。そうすれば、父さんも母さんも、村の皆も全部忘れる。……もうこんなことはやめよう。


でも本当に、これからどうしよう。この数年間考えないようにしていたが、10歳で巻き戻るということは、11歳から先に進めない、ということだ。


「すごい能力」なんて軽く言ったが、考え方を変えればこれは呪いですらある。

もの凄い努力家ならあるいは、「無限ループの7年間で最強に!?」なんてことをして、世界中回ってループから脱出する方法を探したりするのかもしれないが……僕にできるとは思えない。

剣術も魔術も恋愛も、覗きすらもうまくいかなかった。原因は明らか。バカで怠惰で、そのくせすぐに調子に乗る自分のせいだ。


というかそもそもこれ、僕の能力なのか?「時間が巻き戻っても記憶を保持できる」リーディングシュタイナー的なもののような気もする。


とすると、僕は主人公ですらないわけだ…


はぁ……凹む…






気が付くと、僕は真っ黒な空間にただ一人立っていた。

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