第47話 元の生活へ
タロの暗殺事件は、ティアとネイ、そしてダラスの四人のみの秘密という事になった。
逃げた刺客は別だが、捕らえた男三人はダラスが何も言わずに森に連れていくと数時間後ようやく帰って来た。
殺す意思があった者達だ、殺される覚悟もあっただろう。
ダラスはそれだけ言うと、それ以上は何も言わないのであった。
「タロさん、ティアさん、これからどうしましょうか?」
ネイはこの生活を失うのではと気が気でなかった。
タロとティアにとっても自分にとってもこの場所はやっと出来た安住の地である。
それだけに今回のような事がまた起きるのではと心配するのも仕方がないだろう。
「そうだね……。でも、僕はまだ、この地から離れる気はないよ」
タロはティアを抱き上げると固い意志を表明した。
「ティア、タロと一緒」
ティアも笑顔で答える。
まさか遠くドラゴニア王国王都で、原因の元である元実家のアマノ侯爵家の人々が捕縛されているとは思いもよらないし、自分が死んだ事があちらに伝わり、完全に死亡者扱いされる事もこの時はまだ全く知らないのであったが、タロとティアはそれでもこの場所を気に入っていたから、引っ越しする気はないのであった。
「それならば私も異存はありません。もし、今度また刺客がやって来た時は私がちゃんとお二人をお守りします!」
ネイは脳筋エルフらしく力強く答えるのであった。
「俺もと言いたいところだが……、ちょっと今回の件でドラゴニア王国に戻ってみようかなと思う」
ダラスの目は真剣だ。
「でもダラス、あっちでは賞金首なんでしょう?」
タロはダラスの心配をした。
せっかく助かった命だ。捕まって冤罪で処罰されては居たたまれない。
「なあに。賞金首の手配絵を入手したんだが……。──これ、俺だとわかるか?」
ダラスは一枚の手配書を懐から取り出すと、タロ達に見せた。
手配書の絵はボサボサの髪に髭面の鋭い目をした男が描かれている。
助けた時のダラスそのものだ。
だが、今のダラスは髪は短く切ってあったし、髭も綺麗さっぱり剃っていて同一人物とは全く分からない。
それに鋭かった目も今は穏やかであの時のなりを潜めていた。
「……わからないけど、戻ってどうするの?」
「まぁ、俺をはめたダンカン子爵に復讐したい気持ちもあるが、情報収集しておこうかと思ってな。タロを狙った連中の事や、あの国の行く末も気になる。一応、祖国だからな。そうだ、タロ、俺はあんたの事をよく知らない。良かったらいくつか教えてくれ。狙った相手は誰だか心当たりあるのか?」
「……その事だけど──」
タロは自分の素性についてダラスに語る事にした。
ダラスはタロ達の事情については聞かずにこれまで来ていたのだ。
タロ達は何かしら事情がありそうなのは感じていたが、命の恩人に変わりがなく、それ以上でもそれ以下でもない。
聞いて恩人扱いが変わるわけではないと思っていた。
だが、タロの素性を聞いて心の底から驚いた。
タロは良くも悪くもドラゴニア王国一の有名人だからだ。
「まさかあんたがあのスサとはな……! その銀髪で気づかなきゃいけないところだったな……。俺もあっちでは普通に『スサる』とか使っていたぜ」
「僕はもう、スサという名ではないけどね。正式に戸籍は変更されてるし、名前もタロが今の正式な名だよ」
「……なるほどな。あんたの噂は色々聞いてはいたが、これほど噂の人物像と本人が全く一致しないというのも珍しいな」
ダラスは同情の意味も込めて感想を漏らした。
「どんな噂かはおおよそ見当は付くけど、それもまた事実かもしれない。僕はティアと出会う事で生まれ変わったみたいなものだから。まぁ、今回一度死んで、また生まれ変わった気分ではあるけどね」
タロは笑うと魔法が解けて銀髪に戻った髪を指で挟み確認すると答えた。
「それなら、俺は王都に行ってアマノ侯爵家について調べてくるわ。刺客まで送り込んでくる野郎だ。次も何か仕掛けてくるかもれねぇからな」
「それはありがたいけど、もし、ダラスの身に危険が降りかかるようなら、その前に逃げてね?」
タロはダラスの身を案じた。
「その時はもちろん逃げるさ。それに俺はさっきも言ったがやらなきゃいけない事も多いからな。タロに拾ってもらった命、無駄にはしないぜ」
ダラスはニヤリと不敵に笑う。
「そうか。ならもう止めないよ。王都には信用できそうな人が何人かいるから、教えておくよ。何か困った事があったら僕の名を出して頼ってみて。あ、でも僕は死んだ事にしておいてね?」
「──わかった。まぁ、実際一度死んでるしな。その事も詳しく知りたいところだが、それはまた、帰って来た時にでも聞くよ。それはじゃあ、旅の支度でもするか」
ダラスは倉庫兼作業場の一角に寝泊まりしていたからそこの荷物を整理し始めた。
タロはそんなダラスにお金の入った袋を渡した。
「おいおい、まだ、こんな大金持っていたのかよ。だがいいのか?」
「ああ。旅にはお金がかかるし、王都の様子を探って来てもらうのだからその資金として使ってくれて構わないよ」
「……わかった。お言葉に甘えてそうさせてもらうよ。この村じゃあんまり稼げなかったから、懐も寂しかったからな。わははっ!」
ダラスはこの翌日の朝、村を出て国境線を越え、ドラゴニア王国入りするのであった。
「ダラスは大丈夫でしょうか?」
ネイが心配する素振りを見せた。
「ダラスは力も剣の腕もかなり優れているのは確かだよ。頭も回るしきっと大丈夫。それにこの村にはステラさんがいるから、きっと帰って来るよ」
タロは、意味ありげに答えた。
「え? ステラさんとダラスはそういう関係だったのですか!?」
「気づかなかった? はははっ!」
「ティア、知ってた。ステラさんとダラス、薬草採取の時に仲良かったもの」
「ティアさんも知っていたのに私だけ知らなかったとは……。何か悔しいです!」
ネイがそう漏らすとタロが思わず笑った。
それにつられてティアもクスクスと笑う。
「お二人共、笑わないで下さいよ!」
二人に釣られてネイも一緒に笑い、また、ゆっくりとした時間が過ぎようとしていたのであった。
竜の守人と最強幼女のスローライフ~追放された先で最強保護者になったみたいです~ 西の果てのぺろ。 @nisinohatenopero
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