099:勇者は逃走する⑨ ~追放サイド~
キキーはクリムの言葉など完全には信用していなかった。
クリムは自分が生き延びるためならサブパーティのメンバーなど、捨て駒のように使い捨てるだろう。
まだダンジョン内で仲間が生きていると知っていたとしても、それを平気で置いていくに違いない。
そう思えるくらいにはクリムへの信頼度は低い。
「は、はやく城に帰るぞ! ここは危険だ!!」
だがこれ以上の探索を続けるには時間も魔力も足りなかった。
不安をあおらないようにと気丈に振る舞ってはいたが、キキーの魔力も限界に近かった。
生き残りがいないとしても、せめて遺体や遺留品だけでも家族のモノに返してあげたいと思う。
だが、今はそれも叶わない。
休息が必要だった。
一度、ギルドに戻るしかない。
今はクリムの指示通りに動くしかなかった。
結果として、もう逃げ帰るしかないのだ。
3台あった馬車の1つは撤退組を乗せてすでに帰還している。
クリム達は残った2つの馬車をペアで使う事にした。
1組はオリバとアイリ。
もう1組がクリムとキキーだ。
普段ならクリムにべったりのオリバも、サンドワームの唾液とクリム自身の失禁によってひどい悪臭を放つ今のクリムにはあまり近づきたくないようだった。
オリバ大好きのアイリは当然のようにオリバについて行き、自然とこの形になっていた。
キキーとしてもクリムと同じ馬車に揺られるのはあまり好ましくなかったが、だからと言って捨てて行くわけにもいかない。
キキーは馬車の操縦席に移動し、ポンポンと2頭の馬の尻を叩いて発進させた。
訓練された馬たちがそれぞれ息を合わせて走り出す。
この馬車は1台の馬車を2頭の馬が引く形だ。
2頭の馬車は1頭の馬車よりも力強く、そして安定している。
そんな高級馬車に揺られながら、クリムは痛む頭皮をさすっていた。
「いてて……」
(クソッタレ! 確かに助かったが、コイツ、俺様の美しい金髪になんてことをしやがるんだ!? この金髪は勇者の証だぞ!? ハゲたらどう責任を取るつもりだ!?!?)
助けてもらった感謝よりも、自分の大切な髪を引っ張られた事に対する怒りの方が大きいくらいである。
とても命を救われた人間の態度ではないが、キキーは気にもしない。
クリムは「チッ!」とわざとらしく舌打ちをした。
王国に戻ったら覚えていろ!
そんな生還した後の憂さ晴らしの事を考えながら、クリムは静かに瞼を閉じた。
後はこの馬車で揺られているだけで良い。
それだけで生きて帰れる。
馬車はもう走り出している。
もう生還したも同然だ。
そんな安心感からか、限界を迎えていた体からは力が抜けていき、意識が遠のいていく……。
その耳に、小さな振動が響く……
「ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
ドッパアアアアアアアアアン!!!!
地面の砂をせいだいに巻き上げながら、地中からサンドワームが姿を現した。
「きゃあああ!?」
「な、なにぃいいいいいいいい!?!?」
砂の海が波のように揺れ、馬車が大きく跳ねる。
ガラガラと荷物が躍る馬車の中で、クリムが絶叫した。
サンドワームが現れたのはクリムたちの馬車の真後ろだったのだ。
「ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
「ひ、ひぃッ!?」
クリムを追ってきたのか、それともキキーの魔力に反応したのか。
分らないがそんなことはどうでも良かった。
その姿はクリムにとって最早トラウマである。
「クリム!! 荷物は全部捨てて!! 追いつかれる!!」
「ハッ……!? お、俺さまに指図するんじゃねええええええええええええ!!」
クリムはブチ切れながらも言われたとおりに荷物を馬車から捨てる。
サンドワームに投げつけるが、まるで効果はない。
「クソッタレええええ!! こいつ、しつけぇんだよおおおおッ!?!?」
荷物はすぐになくなった。
そもそも長期戦の予定がなかったために荷物は初めから最低限しか積まれていない。
馬車の速度もすでに最高速である。
だが、引き離せない。
巨体に似合わず、サンドワームは速かった。
砂中を掘り進む時のように前進を回転させ、砂を巻き上げながら迫ってくる。
まるで砂嵐そのものが意思を持って迫ってくるかのようだった。
「クリムさま!? キキー!?」
異変に気付いたオリバが慌てて馬車から顔を出す。
「こちらにひきつける! そのまま逃げて!!」
このまま真っすぐに国へ戻れば、キキー達はこのサンドワームを連れて帰る事になってしまう。
そうなれば、人類全体にどれだけの被害がでるか想像もつかなかった。
ヴィータのパンチ気持ちよすぎだろ!~S級勇者パーティから追放されたハズレスキルの拳聖が実は最強だった件。SSS級魔王パーティに誘われたので楽しく暮らします。人類は滅亡するけど今更謝ってももう遅いです~ ライキリト⚡ @raikirito
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