第50話 最終話
「どうしたの、シバ? 嫉妬しちゃったかな」
見た瞬間変な声が出てしまったがそれ以上声が出なかった。
まさか湊音の恋人が、結婚相手が李仁だなんてとシバは感情の整理を落ち着いてしていくが気持ちがまとまらない。
「正直李仁がいない時にシバで埋め合わせしようって浅はかな気持ちがあったのは事実だけど李仁にはなくてシバにしかない魅力があってさ……たとえば、ガサツなところとか」
「ガサツで悪かったな」
よく考えたら自分も李仁の埋め合わせをジュリや湊音などでしてきた気もするがそれぞれ李仁にないものを感じてのめり込んだと。湊音ならツンデレなところとか、と。
湊音は手を絡ませる。
「だから良い関係でずっといようね」
と微笑まれる。シバも手を握り返す。
「……あのさ、湊音」
「なに?」
「あの夜のこと」
「あの夜……あー初めての時のこと」
「お前は事故だと言ったよな」
「……言ったね。ごめん、あんな言い方」
湊音はシバの太ももに手を置く。ドキッとするが平常心を保とうとする。
「事故なんかじゃない……あの時のことがなければ僕はここまでならなかった。もしかしたら毛嫌いして剣道部でさえ追い出して僕一人でやってたかも」
「まじか」
「それに君としたことで好きな人なら性別関係なく好きでいればいい、全てを晒し出してもいいって学んだ。本能のまま……そしたら李仁に対しても素直に自分が出せた。そして自分の本能のままに動いたらとても自分、幸せな気持ちになったんだ……」
湊音は微笑んだ。シバはその綻んだ顔がたまらなく好きである。気を許した時に自分だけに見せるその顔が。
「あれは事故じゃない、そうだよね……シバ」
そう言われてシバはうなずく。
だがまさか湊音の相手が李仁。シバにとっては完全に事故ではなかったとは言い切れない。
「ねぇ、今度あって欲しいんだ……李仁と」
「えっ……」
さっき話した三葉と彩子の修羅場を思い出すと自分達も……と。
いやまだ李仁には湊音との関係はバレてないのであろう、だから大丈夫かとシバは思いつつ。
「李仁にも正直に君との関係を話したよ。そしたらとても感謝してるって……」
「言ったのかよ! てか何を感謝してるって!」
「さぁ……」
さすが湊音、鈍感すぎる。
修羅場が待ち受けている……ああ、シバは頭を抱えた。
「やっぱり事故ダァ」
シバはあの夜の過ちを悔いた。
終わり
冬月シバの一夜の過ち(第24回ルビー小説大賞エントリー) 麻木香豆 @hacchi3dayo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます